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オペレーショナルエクセレンスとは小宇宙をつくり重力をコントロールする行動デザインであるという話



まとめ

①厳密なルールをつくり過ぎると,人が何も考えなくなって組織が死んじゃう
②だからルールは幅のあるものにして,考える余地があるものにすべき
③グロース企業においては結局,中に居る人の自律性が大事
④ルールで縛らなくても,行動デザインを全員にインストールすることで統率は取れる


この記事は何か

戦略策定におけるプロセスの最重要箇所(戦略の競合優位性のベースになる部分)であるオペレーション(Ops)についてまとめています。
スタートアップ企業やグロース企業における戦略の作り方,そもそも戦略とは?という理解があると読みやすいので,まだ読んでない方は以下のnoteをご覧いただいてから,読み進めていただくことをお勧めします。


誰に届いて欲しいか

・スタートアップ企業/グロース企業で働いている方
・戦略策定及び実行に関わるマネージャー
・急成長フェーズにおける企業で戦略立案〜実行に携わっている or 将来的に関わりたい方


読者のどんな悩みを解決したいか

・組織の急拡大に伴って,コントロールが効かなくなってきてルールを増やそうと考えている
・でも社員の成長を阻害したくないので,出来る限りルールを設けたくない
・ルールで縛るか自由度を高めてメンバーに任せるべきか悩んでいる
・なんとなく大企業化してスピード感が落ちている感じがする


なぜこの記事を公開するのか

一言で言うと,自分がとっても苦しんだからです。「読者のどんな悩みを解決したいか」とか偉そうに書きましたが,自分が悩んだポイントを書いただけです。

近年,グロース企業の経営プロセスにおける戦略策定の重要性が急速に増しています。
一昔前だと,領域選定の選球眼や技術的な優位性を軸に「誰も知らない良い領域を知っていること」や「誰にもできない新しい技術を利用すること」を”ステルスモード”で誰にも知られずに圧倒的なスピードで実行することで,成功を収めるベンチャー企業が多くありました。日本でも直近10〜15年ほどのスタートアップブームの流れもあり,大成功する日本のスタートアップ企業も増えてきました。
一方で,人材の流動性が高まったこと,リバースエンジニアリングの手法が確立されつつあること,開発現場におけるオープンソース化が進んだこと(これら全ては業界の発展にとって非常にポジティブ)によって,スタートアップ企業にとっては他社からの模倣容易性が高くなり,技術的な観点におけるMoatが築きにくくなっているのではないかと思います。(競合や似たようなプロダクトを展開しているサービスが存在せず,自社だけしか進出していない事業を運営している企業は殆ど無くなってきていると思います)
以上のような背景があり,自社にしか実行出来ない戦略を描くことこそが競合優位性を作り,事業を大きくグロースするうえで最重要の外せない要素になっています。
戦略単体そのものの重要性は下がり続けており,独自の戦略を描くことが出来るcapabilityの確保と維持ができる仕組みを構築できるかがより重要になってきています。

しかし,戦略の策定〜実行のプロセスにおけるcapabilityの確保と維持ができる仕組みの構築をするノウハウは,その企業(あるいは個人)独自のやり方に依存しており,体系化されたノウハウとして世の中にオープンにされているものはほぼ存在していないのではないかと思います。

したがって,ここでは競合優位性のある戦略策定プロセスの要となるOPSや人材についての考え方の一部を公開することで,日々,事業と向き合っている皆さんの何かのヒントになれば幸いです。


戦略とは

まずはじめに「戦略」とは,時間軸を伴った目標に対して,行き着くための手段と理解してもらえればと思います。

1.「目標」に対して「戦略」は複数存在し、その選択は企業のCapabilityに依存する
2.「時間軸」が長期で設定されるほど、「戦略」はより多様となり抽象的になる

意外と【1.「目標」に対して「戦略」は複数存在し、その選択は企業のCapabilityに依存する】ことを認識している人が少ないと感じます。
当然、目標に対してベストな解は存在しますが、ベターなものも沢山存在しており、どれを選択すべきかは概ねその企業や組織のCapabilityに大きく依存します。
これは実効性・実行可能性を意識して、多々ある選択肢の中から最適な戦略を選択できるかという事に他なりません。

Chatwork 取締役COO 福田のnoteより

まさに【「目標」に対して「戦略」は複数存在し、その選択は企業のCapabilityに依存する】ということが今回の記事のテーマになります。
そして,戦略の策定の最重要のパーツである「現状/As-Is」をどう捉えるかという点についても以下の図を参照して理解を進めてもらえればと思います。

私たちが存在している世の中は、変化が大きく、目まぐるしく状況が変わります。
会社として、その変化する世の中をどのように認識しているのかという「前提」を戦略体系の中で言語化しておく必要があります。

実はこの「前提」が、戦略体系における最重要ポイントなんです。

現状 / As-Is
現時点での事業や組織の状況等を、戦略やVisionと接続した形で細分化し、つまびらかに客観的に記載したもの。
戦略をスタートする起点となる重要な要素。

現状 / As-Isの認識が甘いと起こる事
戦略体系の中で、一部は「前提」部分に言語化されたりもするが、極論を言えば、企業の自己認識(=現状やCapabilityの正確な理解)が正しければ特に言語化される必要はない。
但し、企業の自己認識のズレが大きいと、そもそも戦略を実行する上での起点となるポイントなので、戦略の不整合が起こり、戦略自体の実現可能性が限りなく低くなる。

前提
事実(とその解釈)と仮説によって構成されるもので、戦略体系全体に大きな影響を及ぼす最重要要素。
特に変化が大きい環境においては、仮説が多くなり、目まぐるしく前提が変わります。
暗黙知として処理されやすいだけに、言語化が重要なポイント。

前提がない/設定が甘いと起こる事
そもそも戦略やVisionを構成するために、会社が「世の中」に対する仮説や考え方・スタンスを整理していない状態なので、どういった視点でマーケットと向き合っているかが不明な状態になります。
そうすると、個々人や組織の独自の解釈で意思決定が進み、戦略そのもののPDCAが上手く回らない状況が起こります。

Chatwork 取締役COO 福田のnoteより

変化する世の中では、事実や分かっていることはごく一部で、分からない事だらけです。
なので、前提部分で一定の仮説を置き、それを戦略の実行や時間経過から素早く捉えて、前提を素早く修正(=Visionを修正/戦略を修正)する必要があります。

Chatwork 取締役COO 福田のnoteより

つまり,
①【Visionをどう設定するか】
②【前提(一部As-Isが含まれる)をどう置くか】
の2点を決める事によって自動的に選択される戦略の幅が決まってくるという考え方です。

そして繰り返しになりますが,【「目標」に対して「戦略」は複数存在し、その選択は企業のCapabilityに依存する】ということがここでは最重要です。
つまり,Visionや前提整理のない戦略には何の意味もなく,その戦略を選択できる前提やAs-Isを整理できるか(あるいは前提そのものを変えることができるか)否か,そして前提が変わった際に戦略に組み込むことができるか否かが,戦略の強さに昇華されるという主旨です。

ちなみに,このような背景で「将来,戦略を作れるようになりたいのであれば事業会社で実行に関わるファーストキャリアがおすすめ」とお話することも増えてきました。


戦略を支えるOps・人材・Techの関係性

ここまで戦略とは何かを解説してきましたが,徐々に本題に入ります。
前述した戦略の優位性を作る「前提そのものを変えることができるか」の要素は「人材」「Ops」「Tech」の大きく3つに分解され,それらをまとめて自社のcapabilityとここでは呼ぶことにします。

つまり「人材」と「Ops」と「Tech」に代表されるcapabilityを競合他社と比較して優れたものをより多く保有していると,競合他社が「絵を描くことはできるが,実行できない戦略」を自社だけが推進することができ,これが戦略の優位性になります

例えば,医療業界の会社が金融領域に進出したい場合,社内に金融領域に詳しく過去に事業の立ち上げをしたスタッフがいる会社は,金融領域に進出して事業領域を拡大するという戦略を取ることができます。社内に金融領域に詳しいスタッフが0の状態の会社はそういった戦略を取ることはできません。

これが「人材」というcapability(前述した前提やAs-Isに含まれる概念)があるからこそ,取れる戦略の幅の広がったという例です。
では,金融領域に詳しいスタッフがいない会社はどのようにすべきでしょうか。言わずもがな「金融領域に詳しいスタッフの採用をする」というcapabilityの調達をすべきです。つまり,人材の確保ができたからこそ,取れる戦略の幅が広がったということです。

このように企業の戦略はその組織が持つcapabilityに規定される為
・持続可能なcapabilityの調達
・メンテナンスによる長期間における維持

がとっても重要です。

やや,話が膨らんでしまいましたが「人材」「Ops」「Tech」に代表される自社のcapabilityをどのように揃えるかによって「前提そのものを変える」ことが出来るため,そこに規定される戦略との関係性は相互に依存する関係になっており,密接なものと理解して頂けると良いかと思います。


「人材」と「Ops」のトレードオフ問題

ここで重要な観点が一つあります。それは「人材」と「Ops」には実はトレードオフ(に見える)問題があるということです。世の中には「人材」に寄ってる会社もあれば「Ops」に寄ってる会社もあります。会社と書きましたが,これはフェーズによっても変わってきます。(やっと本題です)

例えば,経営陣とも親密で考えてることが言わずとも伝わる優秀な「人材」が数人集まっている組織では,ハイコンテクストなコミュニケーションで日々の事業運営が行われており厳密なルールがなくとも,健全な状態を保つことができます。考えていることの画一性が高く,モノカルチャーな状態が維持されるので意外と”ズレ”がない状態で事業が運営されています。
ただ,このような組織ではしばしば”業務の属人化”が常態化しており,仕組み(=Ops)がない状態でもある為,組織的にスケールが難しくなるケースがあります。

一方で「Ops」を極限まで研ぎ澄ませている組織では,ルールやマニュアルが厳格にある為,組織的な”ズレ”はなく効率的に運営されている状態を保つことができます。
ただ,効率性を求めるが故,やることが明確になっていて,何も考えなくても業務をこなせる環境になる為,何か新しいチャレンジをするインセンティブがスタッフに湧かなくなり,結果的に思考停止をしてしまうことがあります。このような環境では自分で考えて行動していた優秀なスタッフが”無能化”してしまうorその環境を去ってしまう為「人材」が流出してしまいます。

特に急成長するグロース企業において,初期は「人材」に寄っていた会社がスケールの為に「Ops」に寄せる瞬間がありますが,タイミングや強度をミスってしまうと組織として大きな痛手になる為,「人材」と「Ops」のバランス感がとても重要になります

属人化解消のアンチパターン

属人化解消の号令のもとに,ルールやマニュアルを作成し,誰でも業務ができる状態を作りにいくことは,その業務を規定することになり工夫の余地を失うということを意味します。それを意識しながらオペレーション設計をすべきです。
また,ルールやマニュアルは一度作られたらすぐに形骸化し,ルールを守ること・オペレーション通りに実行することが主目的になってしまう為,できる限り,作らないに越したことはありません
しかし,ルールやマニュアルが何も無い状態ではあらゆる方向に力が分散し組織として統率が取れない状態になります。

例えば,コストの適正化をする為に「外部に何かを発注する際には必ず相見積もりをしなければならない」というルールを作ったとします。これだけでは,時間が経つと,相見積もりをすることが目的になり,本来の目的であった「コストの適正化」が失われ,単純に面倒な手順が増えただけという結果になることがあります。

この際に,一番やってはいけないことはルールを増やす(キツくする)ことです

上記の例でいうと,相見積もりをすることが目的になり,ルールが形骸化したと捉え,本質的な目的であった「コストの適正化」を達成する為に,3社→4社と相見積もりの社数を増やす。というような行為です。無駄な業務が増え,組織的なオペレーション負債がどんどん積み上がり,気づいたら大企業化して身動きの取れない状態になってしまいます。そして嫌気が差したスタッフから退職が進むという負のスパイラルに陥りかねません。

アンチパターンを避ける考え方

少し極端な例を出しましたが,普通に上記のような事は結構起こっています。この負のスパイラルを避けるには

1)厳格なルールは作らず,一定の空間を持たせる
2)その空間の中で自由に試行錯誤してもらう
3)正しい行動をしたスタッフを賞賛し続ける

アンチパターンを避ける考え方

ということを徹底する必要があります。

でもルールを作らないと統率取れなくない?

はい。自分もそう思ってました。
まず,ルールがない組織とはどんな状態でしょうか。

こんな感じです。無重力の宇宙空間みたいなイメージです。
それぞれがふわふわと自由に動いている為,統率が取れておらず,誰が何をやっているのか分かりません。これでは確実にスケールできません。

では,ルールがある(きつい)組織はどうでしょうか。

こんな感じです。密閉された空間にいるイメージです。
統率は取れています。一方で,ルールに縛られ,全員が同じような成果(矢印の長さ)しか出せない状態になっています。これでは新しいチャレンジができなくなる為,個人の成長機会も失われてしまいます

では,どうすれば良いのでしょうか。
実はルールがない組織の中に,キーパーソンが隠れています。

この人です!!!
キーパーソンになる人の条件はすごくシンプルで「組織として進むべき方向(上記の図でいうと右方向が組織として進んでほしい方向です)に進んでいること」です。


とにかくこの人を早く見つける事(もしくは,あらかじめ率先垂範する役割を担って欲しいと相談してキーパーソンを作る事)が組織をマネジメントする立場の人にとって一番重要な仕事
です。

1)厳格なルールは作らず,一定の空間を持たせる
2)その空間の中で自由に試行錯誤してもらう
3)正しい行動をしたスタッフを賞賛し続ける

アンチパターンを避ける考え方(2回目の登場)

見つけた後は,ひたすら上記の(3)をやり続けて,組織全体の雰囲気(こういう風にすると良いんだという空気感)を醸成することを徹底し切るのみです。雰囲気だけではなく,評価制度によるインセンティブ設計も重要になってきますが,そんなにスピーディーに評価制度を変えられる事はまずないです。(KPIは評価制度と連動させるべきだという話は全く否定しませんし,その通りなんですが現実問題は追いつかないんですよね)

これが題名にもしていた,「小宇宙をつくり重力をコントロールする」という考え方です。

まとめるとこんな感じです。
まだまだ,自分も道半ばですが,一番右の組織を目指していきたいと考えています。
キーパーソンの考え方はこのブログのゼロワンという人に近い気がするので,ぜひ読んでみてください。(このブログめっちゃ良いです)

実践例?

この考え方をイメージしながら,インサイドセールスのOps改革に取り組んだら,3.5ヶ月で成果が2.4倍になったとかなってないとかそういう話があります。

◆ゆるーいルールの設計
→全員,毎日同じフォーマットで日報を書くことを決めた

◆キーパーソンの特定
→ひたすら全員の日報を読み,録音を聴き続けて見つけた

◆賞賛をして組織の方向性を統一する
→毎日,役員から日報に返信してもらった

本当にこれを地道にやっただけです。
もちろん,キーパーソンを見つけやすくする為の仕組みや,全員が納得しやすい環境作りには色んな仕掛けをしましたが,それはあくまで手段なので,もし気になる人がいたら,こっそりお声掛けください。

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