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交通事故紛争処理センターでの勝利

もう10年近く前のこと。
母が車にはねられ、1日入院して通院で半年以上のリハビリを受けました。
後遺症が付き、相手保険会社の出してきた慰謝料の金額が低いのか高いのかわからずに調べたところ、自賠責基準だということがわかりました。
自賠責基準=最低ラインの慰謝料だということも判明。
半年も人を苦しめて最低ライン?
舐めとんのかコラ。
私は怒りに震えました。

弁護士の付いていない野良の被害者には、保険会社は一番低い基準の慰謝料で示談を済ませようとするのです。
自賠責保険の枠で収まれば、自分たちのハラは痛まなくて済みます。
じゃあ相手が払って来た保険料は何のため?
事故を起こした時に被害者に払うためじゃないの?
保険会社は、あたりまえですが加入者から集めた保険料をできるだけ放出したくないのです。立派な社屋や社員の給料にあてたいのです。
そんな薄汚い社会のからくりを知ることになりました。

母はめんどくさがって「これでいい」と言いましたが、真相を知った私は黙っていられません。
治療を打ち切られると困るからあまり強気に出ることができませんでしたが、もう治療は終わりました。
前々から担当者が気に入らなかったのです。

私も実家に帰った時は何度も病院の送迎をしました。
自宅から約6キロ。バスの便が悪く、バス停からも遠く、通うだけでも一苦労だったと思います。
それを最低ラインの補償で済まそうって?ハア?

「お前が舐めてた相手が誰なのか思い知らせてやる」(一般人です)

私は決意しました。

母は歩行者ですから、保険会社など間に入ってくれるものがありません。
親子そろってカネがないから弁護士は頼めない。じゃあどうしたらいいのか。
ネットで見つけたのが「交通事故紛争処理センター」でした。
ここは簡単に言うと弁護士の仕事をやってくれる第三者機関で、無料で利用できます。
使うのは国民の権利なのに、知られないように隠蔽でもされているのでしょうか。適切な情報公開をしているとは思えません。インターネットやってなかったら絶対に見つけられなかったでしょう。

必要書類を自分で揃え(センターの人が教えてくれます)、予約を入れて、センターで相談、示談交渉を行います。

母の場合、専業主婦で同居家族がいないため主婦業の休業補償はゼロでした。ここは争えないことは知っていたのであきらめました。
問題は後遺症のほうです。
相手が出してきた金額が自賠責基準だったことは上記の通りです。
私は最高額の裁判基準での支払いを求めました。
付け焼刃で勉強したところ「要求には根拠が必要」とのことなので、

「何の過失もないのに不注意によって思いもよらぬケガをさせられ、長期にわたり心身ともに苦痛を受けた。
通院も高齢の身には負担であった。
その精神的苦痛の慰謝料を裁判基準で支払え」

と主張することにしました。
普通のことしか言ってないので問題ないでしょう。
むしろ何も言ってないレベル。そこを突っ込まれたら出直します。

相談室には被害者本人しか入れないため、待合室でレクチャー。

「こう聞かれたらこう答えて」と想定問答をいくつか準備し、メモに書いて渡しました。

母はポンコツです。とても心配です。
なんで私が入れないの!とイライラしましたが、決まりなので仕方ありません。

しかし相手も抵抗します。
なんじゃその金額は、という額を示してきたので(今から思うと「任意保険基準」だったのかなと思います)一度は拒否し、その後、二倍以上になりました。
しかし12万円ほど裁判基準に足りません。

「この減額の根拠を示せ」

と迫るよう私は母に提言しましたが、母は「もういい。これでいい」と言い出しました。提示された額に舞い上がっているようでした。

この金額こそが正当なラインなのに、ズルしちゃった、儲かっちゃった、という勘違いをしているのです。

自分の権利がわかっていない、ほんとにアホです。
10年前なら「これはもらって当然のお金なんだよ。痛い思いしたんだから、妥協しちゃダメ。がんばろう」と言ったと思いますが、私にも限界というものがあります。これでいい、これでいいと言っているのをやっとここまで連れて来たのです。
ここまで来て、ゴールは見えているのに「これでいい」と言われて脱力しました。
12万円。この人の一カ月の生活費を補って余りある額なのに(うちは貧乏家庭です)いらないんだって。笑っちゃう。

「ああそう、あなたがいいならそれでいいんじゃない」

私もあきらめました。本人のやる気がないのに頑張るのもバカげています。最低限のサポートはしました。

こうして私たちはいくばくかの成功体験を収め、センターを後にしました。
気分良く親子でランチを取ることができたのは言うまでもありません。
私はずっと「ほんとこの人ってバカだなあ」と思っていましたがね。

後になって母が「もうちょっと頑張っても良かったかな」と言い出した時は

「は?もいっぺん言ってみな」

と思いました。

良くも悪くも昔の人なんですよね。権利を主張できない。
生活保護を申請せずに餓死するタイプ。

これが私と母の「無料で裁判基準に近い額での示談を勝ち取った話」です。
ちゃんと頑張れる人ならプラス12万円の裁判基準満額で示談できたと思います。「いやです」と言ってりゃよかったんです。
完全無料で100万円以上の増額です。
センターは偉大です。

私は、すべての交通事故被害者に「交通事故紛争処理センター」のパンフレットを配るべきだと思います。

警察で事情聴取をする時にでも渡せば助かる人が沢山います。
被害者の通院時間を削らせてわざわざ呼びつけるんですから、オマケをあげてもいいじゃないですか。
なぜそうしないのでしょう。不思議でしょうがありません。

つらい毎日の記録