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5.問題の更なる解決には、新たな段階に進む必要がある。

「学力試験だけを受けて集まる学校のクラスでも、本当にいろんな人間がいます。いわゆる社会的マジョリティの僕たちも多様性に寄与させてよって感じです。僕も頑張っていろいろ考えている、他に同じ人間のいない個性のある人間なのに」土田さんが悔しそうな顔をする。マジョリティだから偉いとか、権利が守られていて差別されなくてラッキーではない。個性があって違いがあることが注目される時代、そして個々が発信し何者かになれる時代になってしばらく経った今は、土田さんの感覚が主流になるのだと思う。
 私は手で、もう一個コロッケ食べな、と伝える。土田さんと萩原さんはペコっと頭を下げ、コロッケを口へ運ぶ。
「多様性っていうなら、複数の人間がいるだけで多様性があるし、それだけでは多様性といわないのであれば、人類全体でひとつ、ヒト一種類でいいような気がするんだけどなぁ」土田さんが口をモグモグさせながらそう言った。

 私たちの知的好奇心をくすぐる胚が、発生の兆しを見せている。悪くない。正と反、陰と陽、紅と白が、思考と対話によってぶつかる。ぶつかるエネルギーで膨張する。
 土田さんと萩原さんを、脳内の〝仕込み協力者リスト〟に追加した。

「私は今の日本でも、LGBTQは現役で使用されていると思う。LGBTQを意識した文言を企業理念や方針に入れている会社は多いし、一般的には何も違和感なく受け入れられている。私が就職活動をしていた頃から今まで、LGBTQや人材の多様性に対するスタンスに変化があるようには感じない」
 私は話を続ける。
「男女雇用機会均等法が施行されて以来、家の外で働く中で『女性』として戦ってきた人がいる。育児や家事に関わる中で『男性』として戦ってきた人がいる。差別や偏見の中で『社会的マイノリティ』として戦ってきた人がいる。そして戦いは形を変えながらも続き、全く終わってはいない。難しく厳しい戦いの中で生きてきた世代が、今、上の立場や意思決定をする立場になった。その世代にとって、『女性』であること『男性』であること『社会的マイノリティ』であることは、プライドでありアイデンティティであるだろう。区別する言葉で自らを認識させ、縁取り、手で掴み社会に突きつけ、差別や偏見、不平等さを気付かせてきた。私たちの世代は、この世代の戦いに対して大きな尊敬と感謝の気持ちを持っているし、その勇気と時代を変えていく強い姿勢に学んできた。しかし、このまま強く手を握ったままでは、元凶が消え去ることはないと感じている。問題の更なる解決には、新たな段階に進む必要がある」
「僕も、その手を開くことで次の段階に進む、という選択肢があると思うね。全体を見て、一番遅れているところの低レベルな感覚に合わせる必要はないんだ。正しい道なら進むべきだよね。世間の感覚は次の段階に向かうため足を踏み出しかけている。君たちの持つ疑問がそれを表しているんだよ」

 その振り上げる足を、次の一歩を、どこに下ろそうか。さぁ我々は、止揚の一歩をどう踏み出すか。その時は近い。



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