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5年ぶりの恋を自ら手放した

ひさしぶりです。

未曾有の激務が続き、noteから離れていました。
わたしも含めて部署のメンバーは、4月に入ってからは毎日のように日付が変わるまで働いており、収束の目処さえも立ちません。このままでは休職が危ぶまれるため、ストレス発散や気分転換の選択肢を増やしながら、憂鬱な平日をなんとか乗り切ろうとしています。

ですが。

5月はプライベートでも大きな出来事があり、メンタルが揺らいでいました。もはや自分自身で自分の感情を受け止めることもできず、ほぼ毎晩ひとりで泣いていました。

その正体は、片想いです。
それも、約5年ぶりです。

今月に入って、ほんの少しだけ気持ちが落ち着いたので、自分の気持ちを整理する意味合いでも筆をとろうと思います。

何気ないきっかけ

出会いは約2年前、行きつけのお店だった。
長く担当してくれていたスタッフが異動になり、後任として紹介されたのが彼だった。

少し派手な見た目に反してソフトな話し方で、わたしと同じで人見知りな印象を受けた。それゆえ会話が広がることもなく、ぎこちないやり取りに終始していた。

そんな中、一度目の転機が訪れたのは昨年の秋だった。iPhoneのデータが突然消えてしまい、翌日の予約時間が分からなくなってしまったため、恐る恐る店舗の公式LINEに問い合わせた。

「すみません…。明日って13時の予約で合ってましたか??iPhoneのデータが消えてしまい、カレンダーが見られなくなってしまいまして」

朝起きてLINEを見ると、真夜中2時過ぎに返信が来ていた。

「13時で承っていました!もしご都合悪ければ、14時か16時でしたら時間変更いただけますがいかがでしょう?」

その返信時間に驚きつつも丁重に返信して、当初の予定通りの13時に店舗に向かった。そこで改めて感謝の気持ちを伝えた。

「昨日は本当にありがとうございました!カレンダーに入れてたスケジュールが消えて困ってたんですが、すごく助かりました」

「いえいえ!よかったです」

「真夜中2時過ぎにLINEをいただいたので、ちょっと申し訳ない気持ちになりました…。遅い時間にすみませんでした。」

「いや、ぼくも返信のタイミングは少し悩みました。でも、どうしたら喜んでもらえるかなって考えたら、あんな時間になっちゃいました」

「…えっ?」

「ぼくは朝遅めのスタートなんで、翌朝に送ると10時とかになっちゃうんです。でも、早起きされる方だと10時だと遅いなと感じるだろうし、朝起きた時に予定が分かっていたほうが嬉しいだろうなと思って」

そこまで考えてくれてたのかという気遣いに、思わず心が動いた。そのやり取りから会話が弾むようになった。また、店舗LINEでのやり取りも、ぎこちなさが抜けて絵文字が入るなど、少しカジュアルになった。

個人LINEを交換してみた

今年に入ってから、お店で1時間近く立ち話するようになった。実年齢を訊かれて素直に答えたら、「え!見えない!20代だと思ってた!!」と驚かれたり、二日酔い気味で店に行ったら「今度からヘパリーゼ飲んでから飲みましょう!」と気遣われたり。お互いの住まいや実家で飼っているペットの話もした。

そして、冬が終わる頃、「ぼくの個人LINEを交換してもいいですか?店舗LINEあまり見ないし、個人LINEならシフトも伝えられるので」と提案された。既に店舗にLINEアカウントを教えていたこともあり、なんの躊躇いもなくLINEを交換した。挨拶かたがたアーニャのスタンプを送ると、「SPY×FAMILY好きなんですね!ぼくも見てます!」と、またひとつ新しい共通点が見つかって嬉しくなった。

お酒の勢いで誘ってみた

春が来て、毎年恒例のイベントに招待された。ケータリングでビールを選んで淡々と飲んでいるわたしをじっと見て、「いいなぁ、仕事中だから今は飲めないけど、ビールは好きで…」と、彼は羨ましそうに呟いた。

そんな彼に、「あの、今度飲みに行きません?」と思わず口走ってしまった。言葉にした直後に猛烈な恥ずかしさが込み上げてきたが、「いいですね!行きましょう!新宿とかがいいですか?」と、思いのほかノリの良い反応が返ってきた。いつか飲みに行くことが決まり、その日はお店を後にした。

帰り道では、嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやらの感情が交錯していた。「わたしごときに人様の貴重な時間を費やしてもらうなんて申し訳ない」と常々思っているわたしは、対人コミュニケーションは受け身に徹している。また、社交辞令と本気のお誘いの見分けも出来ないので、「今度飲みに行こうね」と声をかけられても、自分から企画することは基本的にはしない。お酒の勢いとはいえ、誘いの言葉が口から出てきたことへの戸惑いと申し訳なさで、家に着いても背中がむずむずしていた。

しばらくはお店に行くことも控えていたが、予約していた商品を受け取るために、6週間ぶりにお店に行った。彼はいつもと同じ笑顔で応対してくれて、「飲みに行くの、いつにします?」と声をかけてくれた。社交辞令じゃなくて本当に飲みに行きたいと思ってくれていたことが嬉しくて、その会話の流れで飲みに行く日を決めて帰った。

好きを確信した夜

そうして遂に彼と飲みに行った。「今住んでる場所、住み始めてからどれぐらい経ちます?」と訊かれた会話の流れで、彼の同棲解消→恋愛話に発展した。最後に付き合った彼氏の話や、歴代彼氏のあれこれをいろんな角度で訊かれたので、割と正直に答えた。もう長いこと恋愛をしていない事実を隠そうかとも少し考えたが、彼に嘘をつきたくないという気持ちが上回り、「最後にちゃんと付き合ったのは約10年前」と、あっさり答えてしまった。

「『ちゃんと』ってどういう意味ですか?付き合おうって言質を取った恋愛ってこと?」と深掘りされたが、嘘のない範囲で誤魔化してしまった。正直に言いすぎても、引かれてしまうのではと怖くなってしまったのだ。

それでも、休みの過ごし方や好きな食べ物、面白いと思った昔のドラマなど、話題は多岐にわたり面白かった。お互いに否定せずお互いの話を聞いている空間に安心感があって、わたしはずっと心からニコニコしていた。

お会計のとき、「本当は奢りたいけど、今回は割り勘にさせて」と彼から言われた。「いえいえ!
わたしが誘ったので、わたしが多めに払うつもりでいました」と答えると、「いやそれは申し訳ないから割り勘で…。また飲みに行きたいから、奢ったり奢られたりするんじゃなくて、フェアに会計しましょ」と返ってきた。本当にわたしとまた飲みたいと思ってくれていることが伝わって、とてもうれしかった。

駅に向かう道の途中で、彼から「今度はぼくから誘います!だって普段LINEしませんよね?」と、わたしの行動パターンを見抜いた言葉が飛び出してきた。

「ですね、わたしからLINEすることは基本ないです」
「LINEは苦手ですか?」
「昔いじめられっ子だったから、コミュニケーションに苦手意識がどうしてもあるんです」

と、思わず自分の過去をポロッと告白してしまった。すると、「ねえ、なんで帰ろうと思ったときに、もっと聞きたくなる話をするんですか?もう今日は終電で帰ると決めてたけど」と、彼は困ったように腕を掴んできた。思わずドキドキした。

さらに、「いじめられてても、人当たりいいし真っ当だし、真っすぐ育ってますよね。6年もいじめられてたら、もっと捻くれてもいいはずなのに」と褒めてくれて、言葉が出てこなくなった。「そんなことないですよ、根暗だし」と謙遜するので精一杯だったが、笑顔で彼を見送って解散した。帰り際、わたしのことを揶揄うように名前で呼んでくれた。うれしかった。

家路に向かういつもの坂道は、いつも以上に足取りが軽かった。普段の飲み会や友達と会ったときに大体発動する「ひとり反省会」も皆無だった。楽しかった、幸せだった、また飲みに行けたら嬉しい、という気持ちで満たされて、ネガティブな感情は皆無だった。むしろ、居心地のよさと、自分が素直でいられる安心感で満たされていた。「あなたといる時の素直な自分が好き」とZARDも歌っていたが、まさにそれだ。

わたし、彼のことが好きみたい。

恋する気持ちに気づいた夜、ドキドキして寝られなかった。誰かを好きになるセンサーなんて、とっくの昔に捨てたはずなのに、まだ辛うじて残っていたことに驚いた。恋愛は頭ではなくて、心でするものなのだと、この年になって再認識した。

わたしにはできなかった

自分の気持ちに気づいてからは、彼から来たLINEを絶やさないように細々と続けていた。長くならないように、ちゃんとラリーになるように、レスポンスも速すぎず遅すぎないようにと、気を遣いながら返していた。
LINEが苦手とはいえ既読スルーなんて失礼だし、彼を好きでいる気持ちを隠したくないし、むしろ気づいてほしいと思っていた。

だが、恋愛から長らく遠ざかり、友達付き合いも少ないわたしにとって、LINEのハードルは思った以上に高かった。この返し方でいいのか?無駄に相手の時間を奪ってはいないか?などと思い悩むようになった。やはり、「わたしごときが人様の貴重な時間を費やしてもらうなんて申し訳ない」という根っこの思考は、簡単には取り払われなかった。アタマを総動員してLINEを返しながら、苦しくて毎晩のように泣いていた。

それでも2週間ぐらいは一種の修行だと言い聞かせてLINEを続けていたが、ついに限界を迎えてしまい、そのままフェードアウトさせてしまった。既読スルーへの罪悪感は今もあるものの、それ以上にLINEでのコミュニケーションが苦痛になってしまったのだ。

そして、LINEすら何気なく返せなかった自分に嫌気がさしてしまい、フェードアウトしたあとも毎晩泣いていた。みんなが当たり前のようにしているLINEも恋愛も、わたしには出来ないという事実を突きつけられたような気がして、悔しいやら悲しいやらで涙が止まらなかった。

思い起こせば、高度な対人スキルが要求される行為は、物心ついた頃から苦手だった。数学のように方程式があって、答えが一つしかない問いを解くことは得意でも、友達付き合いや恋愛関係はまるでダメだった。高校生の頃、母から「友達付き合いすらロクにできないのに、恋愛なんて無理だ。相手に迷惑をかける前に別れなさい」と猛反対されたことがあるが、その通りなのだと思う。あの母の言葉は呪いではなく、事実なのだろう。

やっぱり、わたしには恋愛は無理だった。
みんなが当たり前のようにしているし、自惚れかもしれないが脈ありのような言動もあったから、今度こそ自分にも出来るかもしれないと淡い期待を抱いたけれど、今回もダメだった。
彼を傷つけたり困らせたりしないように、これ以上自分からコトを起こすのはやめようと誓った。わたしの好きな人が、わたしのせいで悲しんだり苦しんだりする姿を見るのは、なによりも辛いから。

彼とのLINEが途絶えて、元の生活に戻った。仕事以外での話し相手がいない、孤独な日常だ。孤独だけど、平穏で自由な毎日だ。多くを望まず、周りと比べず、わたしはわたしが手にできる幸せに目を向けて生きていこうと思う。

【今日の一曲】
ハイブリッドレインボウ/the pillows

明日に希望が持てる、お守りのような曲です。

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