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中国のトイレでの美しい話(前編)

旅先での楽しい夜が一変して
失意のどん底に落ちた。



およそ30年前、M子と私は、
中国のアモイ(厦門)に旅行し
ひと時の夏休みを解放感たっぷりに
満喫していた。


小学校のグラウンドのような空き地に
簡単な長テーブルを並べただけの
屋台のようなエリアで、

現地のアモイの人たち数人と
青島ビールで乾杯し
何杯もおかわりをした🍻


当時は、発展途上の地域で、
水も電気も通っておらず、
テーブルもお皿も土埃っぽかった。

でも、そんなこと全く気にならないほど

青菜の炒め物が美味しく、

「ハオチー、ハオチー」と言いながら
バクバク食べて旅の醍醐味を味わっていた。


中国の簡単な手遊びを教わり、
ゲームに負けたら飲むという、
分かりやすいルールに従い
笑って、笑って……そして(たくさん)飲んだ。


「楽しいねぇー。最高!」といいながら

私たちは、野原の中の、決められたゾーンにある            トイレに何度も行った。

天井も仕切りもないトイレには                                                初回こそ多少ひるみはしたが、
                     
一度、経験してしまえば                                 それはそれで、その方法を受け入れるしかなく

野生の鳥がすぐそばにきて
ツンツンしてきても
スリリングを楽しみながら用をたせるほど、
アルコールが全身にまわって、
最高の気分だった。

何度目かに、ふたりでトイレに行き
用をたそうとした矢先に
M子の声が、鋭く耳に響いた。
(電気がないので、うすぼんやりした
暗がりから聞こえてきた)



「落とした!!!




「何を?」




「どぉぉぉぉーーーーーーしよぉ(涙)」



M子は、ジーンズをおろしたときに、
ポケットの中のモノを、
トイレに落っことしてしまった。



何度も書くが、電気はない。
足元は、深く暗い闇の世界。

またぐ時に足を置く少し高く盛られた土が
右足と左足の下にあるだけで
その真ん中をくり抜かれた真っ黒の闇には               どれだけ目をこらしても
真っ黒の闇があるだけだった。


それでも


落したモノを見つけようと、
私たちは目をこらしつづけた。


鼻をつく匂いが
次第に、アルコールのまわった全身に
ダメージを与えていく。


これ以上、目をこらしていても
何も見えてこないし、事態は解決しない。

意を決して、M子は
マンホールのような真っ暗な闇に向かって
手を伸ばした。


(後篇に続きます<(_ _)>)

#忘れられない旅