「2024年8月の珈琲 Thailand:夕立終わりの蝉」
Thailand:夕立終わりの蝉
にわかに雨が降り出した
傘を持たずにやってきたスーパー
夕立は自動扉の外でしずかに佇んでいた
空の向こうに晴れ間がみえて
夕立が終わることを察した蝉が
一匹二匹と鳴きはじめる
しずかに佇むまろやかさと共存する酸味
引っ越したばかりの買い物は、ちょっとばかりの冒険心をくすぐられる。
家から一番近いスーパーには何が売ってるんだろう。
あの八百屋さんの野菜の鮮度はどんな感じなのかな。
いつも使っていた調味料は全部売ってるかしら。
数日分の献立と必要な品を頭に思い浮かべて、いくつかのスーパーの売り場を細かく練り歩く。
そんなことをしていたら、スーパーの自動扉が開く瞬間になって、やっと、外ではにわかに雨が降り出していたことに気がついたのだ。
「風情のある夕立なんて、ここのところ、ご無沙汰だね。」
都内に住んでいたとき、友人とそう話していた。
夕方、雨が降り出したかと思えば、とんでもない光と音の雷をともなう土砂降りの雨。
人の多い都会が吐き出した昼間の熱をぎゅうぎゅうと圧縮して、空へ放つと、こんなにも刺々しい雷雨になってしまうのかと悲しくなるくらい、それはそれは大変な集中豪雨だ。
そんな夕方の集中豪雨ばかりに接していたから、スーパーの自動扉の外で静かに佇んでいた夕立にまったく気がついていなかった。
そう、これは夕立だ。
静かに、でも、先ほどまでの青空を一掃して降る夏の夕立。
雨に踊らされた土の香りが鼻をくすぐり、湿っぽさがあたりを包む。
帰るべきか待つべきか。
まだ、引越先の天気に慣れていないわたしは傘を持ってはいなかった。
少し考えて、空の向こうを見やると、晴れ間が見える。
そして、もうそろそろ、夕立が止むことを察した蝉が一匹二匹と鳴きはじめたから、わたしはスーパーを後にしたのだった。
久しぶりに風情のある夕立に出くわしました。
夕立というのは、雷をともなったとしても、昼間の暑い太陽と比べれば、静かで落ち着きのある紳士のような出立ちをしている気がします。
紳士は去るときもとてもスマートで、紳士の去り際を察した蝉たちにあとは任したからねと言っているようでした。
そんな久しぶりの夕立の情景を珈琲で表現したのが、「Thailand:夕立終わりの蝉」です。
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生産国:タイ
品種:カツアイ、ティピカ、チェンマイ
精選方法:ウォッシュド
風味:チョコレートのような落ち着いた甘さ、りんごのようなすっきりとした酸味
煎り加減:中
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