「7月の珈琲 Kenya:バイバイ群青」
バイバイ群青。
夕暮れの空に、そっと、つぶやいた。
Kenya:バイバイ群青
夕暮れとの境
青空に憂いが混じり
鮮やかに塗り替えられていく
青に落ちた一滴の赤
空につぶやく
バイバイ群青
憂いを帯びた丸い酸味
まるで、中学生のときに買った2本の水性ペンの色のような空だった。
中学校の中庭には、小さな購買部があった。
小学校にそんなものはなかったから、中学生になりたての小さな子供にとって、購買部はちょっと大人びた不思議な感覚をもたらすものだった。
購買部の棚に並ぶ文房具は流行りのものばかり。
時折、のぞいては、あれが欲しい、これが欲しいと思いながらも、なかなか買えなかったのは言うまでもない。
だから、初めて、購買部で買った2本の水性ペンは、棚に並んだいくつもある色から、自分の大好きな色を吟味して、購入したのだ。
早めに明けた梅雨につられてやってきた夏の青空は、とてもはっきりとした青だった。
そのおかげで、雲は、まるで、油絵具で白を重ねたかのように、ぽってりと、そして、くっきりと青空にのっている。
今日の夕暮れは、きっと、きれいな色になる。
そう思った。
そして、迎えた夕暮れとの境の時間。
青空に夕日の赤が落ち、はっきりと、くっきりとしていた空に紫色の憂いが混じりはじめた。
あ、この色は、あの日、百円硬貨を握りしめて、どきどきしながら、購買部で買った水性ペンの色に似ている。
7月の珈琲「Kenya:バイバイ群青」の憂いを帯びた丸い酸味が、あの頃、好きだった色を思い出させた。
もうあのペンのインクはとうにきれた。
私の心にだけ残っているあのペンの色。
その色も、あと数分で消える。
バイバイ群青。
夕暮れの空に、そっと、つぶやいた。