見出し画像

「2024年5月の珈琲 Guatemala:衣を替えたなら」

Guatemala:衣を替えたなら
にらめっこしていた温度計は
グイグイとその数値をあげていった
湿った押し入れから引っぱりだしたのは
夏の匂いを詰めこんだ箱
ふたを開けたら飛びでてくる
いつまでもお気に入りの夏服
梅雨のようなコクと初夏のような清らかさ

持っている服の数はそんなに多くはない。

大半の服は通年で使えるものが多いし、下着と寝巻きをのぞけば、クローゼットのハンガーにかかったいくつかとバンカーズボックス1箱に収まるくらいがわたしの持っている服のすべてだ。

衣替えというたいそうなことを言ってはみたけれど、わたしの衣替えはその箱にあるものを引っ張りだすにすぎない。

そんな具合だから、その箱のなかにどんな服が入っているか、わたしはちゃんと把握している。

上がるのか?下がるのか?

思わせぶりに上がり下がりする温度計とにらめっこしながら、衣替えはいつにしようと考えていた。

そして、ついにその日はやってきたのだ。

その日、朝から、温度計はグイグイとその数値を上げていった。

きたきた、衣替えの限界温度。

これはもう有無を言わせない温度だ。

体感もばっちり暑い。

押入れの手前にある収納ボックスを押しのけ、体を押入れの奥へと入れる。

押入れの奥は、ちょっとひんやりとしていて、湿ったような特有の空気を持っていた。

その空気にほんの少しの気持ちよさを感じながら、お目当ての箱をグイグイと引っ張りだす。

湿った押入れとは反対に、この箱には去年の太陽の光を浴び、たっぷりと夏の匂いを吸い込んだ夏服が詰まっているのだ。

この箱に何が入っているか、わたしはちゃんと知っている。

それなのに…。

蓋を開けると、お気に入りの夏服がどんどん飛び出てくるから、そうそう、これこれとこころがうれしくなる。

今年も、やっぱり、この服たちはお気に入りで、これから、この服たちを着るのだと思うとウキウキする。

何年も着ている服にまたもやこころ浮き立たされるとは。

新鮮な感覚に、これは衣替えのご褒美だなとひとり呟きながら、一枚一枚、服を取り出した。

押入れという梅雨のようなしっとりとした空気のなかにひっそりと出番を待っていた箱。

そこには初夏のような清らかさが詰めこまれていた。

この感じを表現するなら、絶対にGuatemala。

これしかない。

> > > > >

生産国:グアテマラ
品種:カツーラ
精選方法:ウォッシュド
風味:黒糖のようなコクとりんごのような酸味
煎り加減:中

> > > > >

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?