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「10月の珈琲 Indonesia:爪先の記憶」

みじろぎひとつしないペリカンの瞳の奥をじっと見つめた。

Indonesia:爪先の記憶
視線は爪先に注がれていた
そこに残るうっすらとした記憶
ちぐはぐに並んだパステルから
選んだのは欠片となった黒のパステル
閉園前の15分
みじろぎひとつしないペリカンを描く
瞳の奥でコクとまろやかさが手を結ぶ

爪先というのは、注意していなくとも、自然と目に入ってしまうようだ。

気づけば、爪先をぼーっと見ていた。

すでに収穫の時期を終えた庭の野菜の根を引き抜き、縁側に腰をおろしていたときだった。

土が入り込んだ爪先を見ていたら、そこに残るうっすらとした記憶が蘇ってきた。

黒いパステルのつまった爪先。
あのモモイロペリカンの瞳。

学生時代に絵を描いていた親からヌーベルのカレーパステルを譲り受けた。

ぼろぼろになった箱には24色のパステルが入っているとあったが、引き出してみれば、そこに並んでいたのは、いくつか色のかけたちぐはぐな長さのパステルだった。

そのパステルと真新しいスケッチブックを持って、動物園に行った。

水に潜って鼻だけを出すカバ。
高いところからわたしを見下ろすトラ。

そして、一番記憶に残っているモモイロペリカン。

暗くなってきた動物園の人工芝生のうえで、モモイロペリカンは羽を膨らませながら、みじろぎひとつせず、ただ、目をつぶっていた。

その姿に妙に惹かれて、スケッチブックの新しいページをめくり、モモイロペリカンの前に立った。

体の大半が淡い桃色と白色で作り上げられたモモイロペリカンを描くために、どの色のパステルを使おうと考えながら選んだのは、欠片となった小さな黒色のパステルだった。

そして、描こうと、頭を上げたとき、モモイロペリカンと目が合った。

そのとき、気がついた。

わたしが描きたかったのは、モモイロペリカンのこの黒い瞳だったのだと。

10月の珈琲「Indonesia:爪先の記憶」を飲みながら、そのコクとまろやかさに、あのモモイロペリカンの黒い瞳を思い出した。

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