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「7月の名前のない珈琲 ん〜、色っぽい…」

ん〜、色っぽい…
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7月の名前のない珈琲:Brazil
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今の季節、果物の皮をむき、炊事場に放っておくと、早い時間で香りを放ち出す。

目の前にある皿に並んだすいかをかじった。

粒が弾けて、若々しい水分が口いっぱいに膨らんでいく。
その粒を歯でつぶすと、優しい甘味が訪れた。
さらに、その奥を探ると、瓜特有の青っぽさが見つかる。
そして、最後には筋っぽい強情さが顔を見せ、すいかは、口の中から去っていった。

そんな感触を何度も何度も、そして、丁寧に味わいながら、種を飛ばし続けた。

すいかを食べ終え、空になった皿を手に、炊事場に戻ると、そこに残っていた皮は香りを放ち始めていた。

ん〜、色っぽい…

皿に乗った種を手で払い、皿に水を当てた。
色っぽさが消えていくほど、強く水を当てた。

皮をむいた瞬間よりも熟した香り。
皮をむかなければ、まだ嗅ぐことのできない香り。

皮の中には、こんなにいろんな感触を詰めこんでいる。
そして、その全てを守っていた皮は、最後に、その存在を私に伝えてきた。

言葉ではなく、感覚で伝わるすべて。

色香が漂う。
とても、色っぽいと思った。

溢れ出てくるものは、自然と受け取ることができる。
奥に秘めたものは、探り当てることができる。

7月の名前のない珈琲は、初めて、焙煎するアナエロビック(嫌気性発酵処理)という発酵工程を経たコーヒー豆。

ねっとりとした熟した香りに、夏の炊事場に置き忘れた果物の皮を思い出した。

そして、とても、『ん〜、色っぽい…』と思った。

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