パリのイヤリング

何かを持ち出すということは、それを失くすかもしれないこともセットだ。
覚悟はしていたのだけれど、やってしまった。
去年の秋にパリで、その旅で1番値段の張る買い物をした。好きなブランドだったのだけれど、早々に日本からは撤退してしまって、せっかくパリに来たのだから、と、買ったのだった。ターコイズがパラパラとぶら下がり、ゴールドで穴の空いたハート型の上部に鳥のモチーフが付いたそのイヤリングは着物の袖からいつのまにか飛びたってしまったらしかった。
着物の袖は便利だけれど、ものが落ちにくいか、そうでないかといえば、もちろん落ちやすい。なのに、そこにしまったのだ。
「あちゃー」と思ったが、友人夫婦がせっかくワイナリーに連れてきてくれている。「無いー!」と騒ぐことはできない。「きっとこれは何かの厄落としなんだ。」と1人、冷静に噛み締めた。
ワイナリーの後はトマレス湾のいい雰囲気のお店で名物の美味しい牡蠣をいただいた。帰り際にバックは車のトランクに置いてきたんだと思い、携帯だけを手に席を立った。
そこから30分後、「いや、待てよ、バック本当にトランクにあるのか?」確かめようと後部座席から後ろを覗くと、「あ!無いー!」これは大騒ぎも蒼白も通り越した。友人夫婦へ、冷静に伝えた。
全てのものが入っていた。2人は「あの雰囲気のお店なら絶対大丈夫!絶対大丈夫!」「絶対ある!」と言いながらも、「パスポートも?」「クレジットカードも?」「現金も?」と事態の重さを共有してくれながら、「絶対ある!」のおまじないは忘れずに、同じ道を違う速度で戻ってくれた。
朝のイヤリングはカバンが戻ってくるのと引き換えだったのだろうか。去年の秋は5週間、本当に一度も肌身離さず持っていたのに、いったい今、自分は何をしていたんだろうと思いながら、2人がこんなにも「絶対ある!」と言ってくれているものが無いなんてことはない、と、遠い昔のことを思い出すかのような気持ちでぼんやりと信じた。

あった!あったのだ!お店のお姉さんたちも顔を見るなり、「バック忘れて帰ったでしょう!あっちこっち走って探したのよ!」とすぐに持ってきてくれた。全部元通りある。初めて心からチップを渡したい気持ちになって、キャッシュでチップを渡した。お姉さんは「いいのよ!」と言ったけれど、しっかり受け取ってくれて、急いで仕事に戻って行った。

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