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本当はとても嬉しかったんです。

 この夏は浴衣を着る機会が多かった。それは着物を着るための練習であったり、洋服の洗濯が追いついていない為だったりもしたが、着ると大抵の人が「夏らしい」と喜んでくれた。まだ大阪市内の神社が夏祭りシーズンであった頃、その日はたまたまお祭りではなかったが例のごとく浴衣を着ていた。そして郵便局に行った。ATMで完結できるはずの用事であったが確認したいことがあり窓口へ行くことにした。ちょうどお昼ご飯の時間帯でいつもはなにかと忙しそうにしている窓口もがらんとしていた。ATMの小部屋から窓口へいくためのドア枠を超えてすぐ窓口のお姉さんと目があった。その瞬間「あっ!」、ピンときた。それは以前職場でロングヘアーからベリーショートへして行った日のインフォメーションのお姉さんと同じ反応であった。ベリーショートにして行ったあの日、私はいつものように「おはようございます!」と受付の前を通った。いつもであれば「おはようございます。」と静かに返してくれるはずだった。しかし、「あっ!」突然バンッと立ち上がり大きくキラキラした目で見つめられ「髪、切ったんですね!すごくお似合いです!」と顔見知りになってから1年以上経って初めて挨拶以外の言葉をいただいた。急なことにタジタジと照れてしまい、上手く返せず少々小走りで「あっ、ありがとうございますぅ」と逃げ出すように去ってしまった。本当はとても嬉しかったのである。今回の窓口のお姉さんも全く同じであった。「あっ!」と大きく開かれたキラキラした目、バンっと勢いよく立ち上がる姿(これは急なお客様を迎える時の標準的な所作だったのかもしれない)。前回の反省を踏まえ今回は落ち着いてお礼を述べよう。そんな儚い覚悟は、「すごく素敵ですね!」とその後に続くとても好意的に興味を持ち褒めてくださった言葉を前にして、あたかもその話題に触れられるのは迷惑だと言わんばかりのアタフタさで逃げるように郵便局を出てていく態度に変わってしまった。

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