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得手と不得手、玉止めとボンド、私と母

 昔から、キャンプやヨットの場でもロープワークが得意だった。例えば、針に糸を通した後の玉止めの仕方を図示せよ。という問題が出れば気楽に描くこともできる。けれど、ボンドで活目を貼り付ける作業は私にとって大きなストレスになる。さて。
 久々にある親戚の集まりに、母が「みんなでお揃いのTシャツを作りたい」と言った。14枚作ることになった。私はデザインを担当することになり、図案を出して背中の真ん中にプリントすることにした。ちょっとした記念に低予算で作りたかったため、表側は何も印字しないことにしていた。けれど、それだと寂しいことが気になっていた。私は着ないが、「自分でも着たいと思えるものを」という母からの要望もあり、「じゃぁ、胸元に刺繍でもしようかな」と14枚の胸元に刺繍を刺し終えた。そして、私はどうしてもその刺繍の真ん中に活目を貼りたかったのだ。そこで、母にボンドでTシャツに2つずつ、貼り付けていく作業を依頼した。私にはできる自信がなかったのだ。左右の目の高さはあっているか?ボンドははみ出していないか?先につけたのと目の位置は違っていないか?離れすぎていないか?近すぎないか?付け終わっても、本当にあれでよかったのだろうか?とあれこれ気になることが予想される。母はこの作業をものの5分で終わらせた。すごい。作業を終え、爪楊枝で奥歯を掃除している母に礼と称賛を送ってから聞いてみた。「これ、後ろがボタンになってるやつもあってんけど、それやったら手伝ってもらえへんかった?」。母は「おん」と即答し、爪楊枝をくわえたまま続けた。「自慢やないけど、昔、洋裁やってた時5つボタンつけて3つその日に取れたわ。結局、先生か誰かに頼んだな。玉止めが全然分からん。どうなってんのか全く分からん」。みんな得手不得手があるのだ。

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