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赤ちゃんのための防災 - 液体ミルク備蓄の落とし穴

少し前の話題だが、日本でようやく液体ミルクが解禁となった。外出時の荷物が減ったり、清潔な水やお湯が手に入らない状況でも飲ませることができるなど、乳児を育てている親にとっては嬉しいニュースだ!
普段使いするほか、いざという時のために避難リュックに入れておくことを勧める記事もいくつか目にした。しかし色々調べていると、災害時のために備蓄する場合にはいくつか注意が必要なことに気付いた。

アイクレオとほほえみ

現在日本で発売されているものは、今年3月発売で日本初液体ミルクであるグリコ「アイクレオ赤ちゃんミルク」と4月に発売された明治「ほほえみ らくらくミルク」の2つ。恐らく各メーカーからも追々発売されることと思うが、一旦このアイクレオとほほえみを例に保存条件等を詳しく見てみた。

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こちらがプレスリリースやサイトの情報をまとめた表。保管条件だけを見ると、丈夫なスチール缶かつ賞味期限が比較的長いほほえみの方が備蓄には向いているように思える。ただし、成分の違いについては私は素人なので分からないし、赤ちゃんによって口に合う合わないなどもあると思うので、優劣をどうこう言うつもりはありません、念のため。

賞味期限はそんなに長くない

アイクレオの賞味期限は6ヶ月、ほほえみは1年。どちらも常温保存できる飲料としては決して短くない。冷蔵で保存する牛乳だって賞味期限2週間ぐらいだから、本当に長く保つのだなぁと思う。無菌状態でパックしているお蔭で長く保存できるのだそうだ。

しかし災害用の備蓄品として考えるとどうだろう。避難リュックの見直しや入れ替えの頻度を考えると、半年〜1年は短くあっという間だ。「早めに準備しておこう」と考えて早々に購入し避難リュックに入れていたら、いざ災害が起こった時にはとっくに賞味期限切れ……なんてことになりかねない。

そういう事態を防ぐためには、保存品として見えないところにしまいこんでしまうのでなく”ローリングストック”をすると良いだろう。多めにストックしておき→期限の近いものから使い→使ったらその都度買い足すことで、常に賞味期限の長いものがストックされている状態をキープできる。
普段母乳育児をしている人も、ストックをローリングさせるために飲ませる機会を意識的に作ることで「いざ非常時に飲ませようとしたら慣れない味で飲んでくれない」といった状況を防げる。

保存時の温度に注意

次に保存方法を見てみよう。アイクレオは「常温を超えない温度で保存」、ほほえみも「高温・凍結を避け常温で保存」とある。では具体的に常温とは何度を指すのだろうか?

グリコの質問コーナーに下記のような内容が載っていた。

Q 常温保存の常温とは何度位のことですか?A (略)日本工業規格では常温を5℃~35℃と定めています。弊社では常温保存品は15℃~30℃で保存されることを想定して商品設計を行っています。常温保存品は、未開封の状態であれば微生物は増殖しない設計になっていますので、一時的に室温が高い状態になっても腐敗する恐れはありません。しかしながら、高温の状態が続くと未開封であっても風味の劣化が早まりますので、涼しいところでの保管をおすすめします。

グリコの商品設計の想定通り30℃を上限と考えると、夏場などはその温度を超えてしまう場所は結構たくさんあるんじゃないだろうか。例えば液体ミルクが入ったバッグを車の中に置きっぱなしに……とか、避難リュックを直射日光の当たるプレハブ倉庫に……、なんてことのないように注意したい。

使い捨て哺乳瓶も一緒に備蓄

では実際に赤ちゃんに液体ミルクを飲ませるシーンを考えてみよう。アイクレオもほほえみもどちらも哺乳瓶に移しかえる必要がある。発売後にSNSなどでは「使い捨てニプルが付けばすぐに飲ませられるのに」「水筒は持って行かなくてよくなったけど」「結局哺乳瓶を持ち歩かないといけない」などの意見が続出した。

使い捨てニプルを付属すると、開封後時間が経ったものを赤ちゃんに飲ませてしまう危険があるため、メーカーとしては安全のため哺乳瓶に移しかえる形態にしたらしい。なるほど一理ある。しかし使い捨て哺乳瓶やニプルの併売も検討はしているようなのでこれからに期待したい!ひとまず現状としては普段使っている哺乳瓶を使うことになる。

問題は災害時。哺乳瓶を清潔に保つための水が手に入らない時のために使い捨て哺乳瓶の備蓄が必要となる。では仮に1日の授乳回数を8回×水が安定して供給されるまで3日間として24本も必要だと思うとなかなかの数……。しかも結構場所を取りそう。

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ちなみにAmazonでは5個1,500円ほどで売られている。正直、起こるかどうかわからない災害時のために使うかどうかわからないものを大量に買うのはなかなか思い切りがいる……。いざという時に子どもに辛い思いをさせないためには用意しておいた方が良いんだろうな。腐るものではないから、使わないうちに卒乳したらオークションとかメルカリとかに出品しちゃえばいいかもしれない!

行政・公的機関はちゃんと備蓄してくれる?

そもそも液体ミルクが話題になったのって、2018年9月の北海道地震の際に東京都が提供した液体ミルク(フィンランド製)を、国内で使用例がないとか取り扱いが難しいという理由で「キケン!飲むな!」と危険物扱いし使われなかったことがきっかけだった。まぁ同年8月に国内販売が解禁されたばかりだったので、子育て当事者じゃなければそんな認識でも仕方なかったんだろうなと思う。とは言え、道の災害対策本部が、2016年熊本地震でフィンランドから提供された液体ミルクが使用された例を知らずに「使用例がない!キケン!」と判断したのはとても残念だった…。

じゃあ国内メーカーからも液体ミルクが発売された今、行政はちゃんと災害用に備蓄してくれているのだろうか?

政府は2019年3月の時点で自治体に対して、粉ミルクや離乳食に加えて液体ミルクも備蓄するよう促す方針を固めたのだそう。 (>【防災施策】液体ミルクを災害備蓄…政府、指針に明記へ)

前述の通り、賞味期限は長くて1年。賞味期限が切れてまるごと廃棄になってしまうことがないよう備蓄には工夫が必要だろう。ストックをローリングさせるために、定期的に試飲会を開くとか保健センターで乳児の親に配布したりすると良いんじゃないだろうか。と思っていたら、実際文京区では乳児検診や母親学級、保育園の防災訓練などの際に液体ミルクを提供するのだそう。 (>液体ミルクもっと身近に 来春、全国で初めて文京区が母親らに無料配布) 素晴らしい〜!

それと、使い捨て哺乳瓶については行政の備蓄にすごく頼りたい!液体ミルクと違って賞味期限がなく腐るものではないのだから、市民のためにたくさん備蓄しておいてほしい!上記の文京区の例だと、乳児160人が1日半に渡って利用できる個数を揃えているそうだ。昨今の防災教育では「三日分の食料を備えましょう」と教えることが多いからそれと比べると少し不十分なように思うが、自分でも1日半分ぐらい備えておけばなんとかなるだろう。

もちろん行政にはしっかり備えて欲しいが、心づもりとしてはすべてを行政に頼るのではなく自分の備え+公助と考えておくと良いと思う。

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