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ポルノ的な。

喘ぎとも呻きともつかぬ声を耳に、口へ運ぶシリアル。

この女は僕に「突然オナニー通話をかけてくる女性に喜ぶサガを持つ男性」を期待している。一度や二度は、それに乗ったかも知れない。箍の外れた女の行動は、因果論的帰結に縛られた僕を壊してくれるので少し好きだ。

けれど何度も繰り返し、こちらの状況も伺わず掛かってくる吐息は、百貨店の入口にある害獣除けの高周波と同じ苦しさがある。僕は不快感に喜びを感じる体ではない。ドーパミン不足による新奇追求欲求も、繰り返しを嫌う。

呼吸の間隔が狭まる。「イク」そう、イクの?「イク」いいよ。「イク」周囲への配慮となる社会性で圧し殺された言葉のない叫び、暫くの無音。衣擦れ。

許可になんの意味があるのかは判らない。解放を求めているようには思わない。ただ何かきっかけが必要なのだ。チャイムやアラームに替わる少し味気ある儀式。

彼女が僕に求めている事は、ポルノと何が違うのだろう。自分の求めている快楽を与えてくれる装置として僕が欲しいなら、「愛してる」のような言葉は必要ない。「愛してる」って囁きが効果的な相手だと思ってるなら、僕の現実感覚を舐めてるんだ。

女が存在する物体として肉体を楽しむなら、僕も彼女の肉体を楽しめる。むしろきっかけが無いと没入できない相手だったなら、ちょっと萎えちゃう。

誰かに恋をするのは自由だ。好きの伝え方にも色々ある。

でも、だからこそ。誰かを理想とし、その枠に留める事や、幸福を祈る事。記憶の中の偶像として描いた誰かに救われてしまうことは、その誰かを消費して、食い物にする事と一体どう違うのか考え込んでしまう。誰かが僕の幸せのため食い物になっていないか、女が今から食べるお蕎麦の話をする。

僕は馬鹿馬鹿しくなる。

誰も僕を消費しきれない。一度見せた笑顔ぐらい、好きに扱ってくれ。
電話は、きっとまた明日もかかってくる。そうでなければ明後日。
女は、愛に関する何事も囁かなかったから、拒絶する程の感情は湧きようもない。
声が、生活の一部になっていく。

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