あの人

アイスクリーム、ホイップたっぷりの菓子パン、チョコレートケーキ、甘いのに飽きたら、五目ごはんのおにぎり、ツナマヨおにぎり、コンビニのレジ前にあるフライドチキンにアメリカンドッグ、ポテトチップス、今度はだんだんと油がきつくなってきてメロンパンをコーラで流し込む。普段コーラなんて飲まないのに。自身の脳みそに思考を巡らせる余裕なんて全く与えず、夢中で食べ物を口に放り込む。するとキッチンの方からピーピーと音がなり、ふらふらとキッチンまで歩いていく。アツっ!と思わず声に出し、温めていたコンビニのたらこパスタを電子レンジから取り出し、リビングに戻る。塩辛いたらこ味の間にフランスパンをちぎって頬張る。温めなければいけないものは面倒なので、そこからは無心でチョコ菓子、クッキー、ゼリーを同時に開け一口ずつ順番に無心で口に詰め込んでいく。このチョコ菓子案外美味いな。濃いわりに飽きないし今後もいいかもしれない。などと考えながら次のスナック菓子の袋を開ける。コンビニで買い漁ったものを全て平らげてしまい、ああ、少し足りなかったかもなと思う。

近所にコンビニは何件かあって、できるだけ怪しまれないように時間帯をずらしたり、手間はかかるが一軒で少し買って持ち帰り、また別の店で少し買って持ち帰り、を繰り返したりもする。でも今日はどうしても我慢できなくて一番近くのコンビニでまとめて買うことにした。でも大丈夫、いつも会うオーナーさんはこの時間にはいないはず。しかし、そういう日に限ってバイトの人手が足りず、この夜の時間帯にまでオーナー自ら店先に立っているのだ。ああ、オーナーさんには顔を覚えられているだろうからから少し控えめにするか…

やっぱりもっと買っておけばよかった。そう思いながら冷蔵庫を開くが、視界には昨日の仕事の時に飲みきれなかった500MLの水のペットボトルと調味料、生卵が2つしか入ってこない。何もないことは自分が一番分かっている。無言で冷蔵庫のドアを閉め、まあ仕方ない、と思いながらトイレに向かって歩いていく。今日はうまいこと出ないかもしれないな。

こんな日がたまにある、たまに。理由はわからない、とにかくそういう日が突然やってくるのだ。前触れなんてない。”そういう日”なのだ。それ以上の説明はできない。異常だと思われるかもしれないが、私にとっては正常で、日常の一コマなのである。以前はどうしよう直さなきゃ、こんなことが人にバレてはいけない、などとヤキモキしたものだが、今や、ああまたきたな、久しぶりだな、などと思うだけだ。

体型は標準、特に大きな悩みもない、職場では「いつも頑張ってるね」「いつも元気だね」「明るいね」などと言われる。過去に大きな挫折もないし、恵まれた家庭環境で何不自由なく育ったと思う。友達もいるし、恋愛経験もある。普通の会社員のごくごく普通の日常。

そんなものなのだろうな、と私は思う。


あなたが見ている世界。

あなたが毎日顔をあわせる、あの人。

あなたの憧れている、あの人。

あなたが嫌いな、あの人。

あなたが愛している、あの人。


『「あの人」はこう人だから。』


「あの人」のことを、あなたはどれくらい知っているのだろうか。あなたが、「あの人」に描いているイメージがどれだけ正しいのだろうか。「あの人」は本当にあなたが思う「あの人」なのだろうか。


さて、他人のことを決めつけて勝手に判断する人が一人でも減りますように…


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