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master and apprentice


圧倒的な世界観に、誰もが息を呑んだ。

全てがスローモーションのようで、なんなら時が止まったかのような錯覚に陥る。超満員の会場の中にいるはずなのに、わたしだけが会場にいるかのような、爆音のBGMの中にいるのに、全てが無音のような、まるでそんな様。

誰よりも美を求め、ストイックに美しさとは何かを追求してきた貴方。美しさに性別はないと身をもって体現してくれている貴方。女性的な美的感覚と、男性的な美的感覚。それは、似て非なるものであって、けれど感覚は限りなく近しいものだと思う。

貴方はかつて、男性で、
今の貴方は、女性だ。

貴方は、あの日、キラキラしてるコスメが可愛いからメイクをしたいと言っていたというのに。いつから、こんなにも芸術家になっていたのだろう。身だしなみを整えるものだとか、自分をよく見せるものだとか、メイクアップはそんな程度のものではないと、圧倒的な技術と才能と、発想力で魅せてくれた。

教えていたつもりだったのに、いつのまにか教えられていて、そして、悠に自分を超えてしまったのだと嫌でも悟ってしまう。

貴方が活躍するのは、こんな狭い日本の中じゃ窮屈過ぎるだろう。わたしという存在が足枷となってしまうんだろう。もっと自由に。もっと自分を表現できる場所へ。

貴方が誇らしいと思う反面、とてつもなく貴方に嫉妬するし、心の底から羨ましいと思っている。

貴方は誰よりもアーティストで、単なるヘアメイクアップアーティストなんてものではない。その全てが、空間さえも、貴方がクリエイションしてしまうのだから。

男だから、とか、女だから、とか、そんな風に言われてしまうのは作品に隙があるからだと貴方は言った。完璧な作品にさえすれば、何も言えなくなるはずだと。文句の言いようのないものを作れば、非難など起こらないと。

人より何十倍もプレッシャーをかけ、その分人より何十倍も努力をし、人より多くの経験を重ねてきた貴方が、まだ20代にも満たないだなんて誰が思うだろうか。


今はただ、この先貴方が進むべき道を、誰も阻む人がいないことを祈ることしかできない。どうか、貴方の進む未来が明るいものでありますように。どんな困難にもきっと打ち勝てますように。

貴方は、わたしの、
かけがえのない唯一の教え子でした。



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