ドリーム・デスゲーム 1

ある都会の街で大規模な爆発事故が発生した。
かなり有名な施設で、野次馬たちが大勢来ていた。
人々がその建物の周りに集まる中、僕と兄はとある噂を聞き付けて、野次馬たちから少し離れたところで様子を見ていた。
すると0時になると共に、近くのスピーカーから女性のアナウンスが聞こえた。

「只今よりゲームを開始します。爆破建物の周囲80m以内に居る場合は、速やかに建物付近に集まってください」

野次馬たちや、イベントの告知をネットの掲示板で見つけ興味本位できていた者たちは、不思議に思いつつも指示に従っていた。
兄は、「いつでも逃げれるように」と言って僕等は80mギリギリの圏内に留まった。

すると地面から突然紫色の光が現れ、辺りを包んだ。
それは眩く光ったあと、同じ声のアナウンスが流れた。

「第1(ファースト)ステージ、クリア」

光が消えて間もなく、再びアナウンスが流れる。

「第2(セカンド)ステージ」
「これより、建物から "100人の殺人鬼" が放たれます。プレイヤーの皆様は、殺人鬼もしくはMOBプレイヤーとの取引を成立させ、ゴールへの鍵を生成してください」

誰もが戸惑いざわつく中で、説明を聞いてすぐに兄は、「いいか、開始の合図と同時に全力で走るぞ、絶対はぐれるなよ」と耳打ちした。
僕は動揺しつつも、それが正しいことと兄を信じて頷いた。

兄は付け足して、「何があっても信じて着いてこい」と言った。


「ピ、ピ、ピ」

どこからか電子音がして、

「プォーーーン!!」

大きなサイレンのような音が鳴った。


「セカンドステージ、開始」


淡々としたアナウンスの瞬間、僕と兄は全力で走り出した。
後ろからは、恐ろしいほどの悲鳴と、狂気的な笑い声が絶えなかった。
殺人鬼たちはあっという間に追いついてきて、逃げる人たちを次々に殺していった。

「走れ!!!!何も考えるな!!!」

恐怖で震えが止まらなくなっていた。
ただ生きていたいと神に願った。

走る中で、今にも殺人鬼の刃物が身体を突き刺しそうな瞬間が何度もあった。
その度兄が僕の服を引っ張って、間一髪で避けていた。

「プレイヤーが残り100名となりました」

まるで耳元に直接アナウンスされるように、淡々とした声が響いた。
野次馬を含めれば、あの場にはまるでライブ会場かのように大勢の、500人ほど人が居たはずなのに。

気づけば走っている周りの景色が、知らない場所になっていた。
そもそもゴールの場所がどこかも分からないのに、兄はどこに向かって走り続けているのか、不安に思った。

と、近くで黄緑色のボールを持った男が、にやりと笑った。
僕は避けるのが少し遅れて、そのボールに指が触れてしまった。
瞬間に人差し指と中指が杭のようなもので刺される感覚がして、穴があいた。

痛み、よりも自分の指に穴が空いたことへの衝撃で、僕は止まらず走り続けるなか、叫んだ。

先を走っていた兄は僕のペースに合わせてきて、「おい馬鹿!!お前一瞬疑ったろ!!」と怒鳴った。
僕は正直に「何処がゴールか知らないのに、一瞬不安になっただけで!疑ったわけじゃないよ!」と伝えた。するとサーッと指の痛みが引いていく感覚がした。


こんなにずっと走り続けていたら、普段なら疲れ果てている頃だろうに、今感じるのはかすかな指の痛みだけだった。
まるで足が勝手に、ゴールへ向かっているみたいだった。

「なら良い!なんも心配するな!」

そう言って再び前を走り出した兄の背中を、ただ信じて走ることにした。


少しして兄が、止まれ、と言うと足は勝手に走ることをやめ、そのまま物陰に隠れた。

「今からMOBと交渉して、二人分の材料を貰ってくるから、お前はここに隠れてろ。ゴールはあの上だ」

兄が指をさした上には、白い鉄の柵で囲まれたベランダのような空間があり、入口らしき場所は鎖で塞がれ、南京錠のようなものがつけられていた。
螺旋の階段をのぼった後に、鍵を開けてあの中へ入ればゴール、ということらしい。


隙間から外を覗くと、何人もの武器を持った殺人鬼がうろうろしていた。
そんな中、階段の下で誰かと話している兄を心配に思った。
けれど僕には何も出来ることはないと、ただ小さく身を縮めて隠れていた。


少しすると、コンコン、とノックする音がして「キーの準備が出来た、行くぞ」と兄の声がした。
僕は恐る恐る外に出て、兄の腕を掴んだ。


「合図をしたらあの階段まで走るぞ。止まらず階段をのぼって鍵を開けたあとも、腕は絶対に離すな。あの中に身体すべてが入るまでがゴールだ」


そうはっきりとした口調で言う兄の腕を、再びギュッと掴んだ。

「よし…………今っ!!」

合図と同時に地面を強く蹴って、思い切り走り出す。螺旋の階段にたどり着き、のぼるあいだも後ろから何人もの殺人鬼が走って来ていた。
兄がふたつの鍵を、ふたつの南京錠へ同時に入れて開け、鎖が外れて中に飛び込んだ。

「セカンドステージクリア、追加2名」

再び耳もとで、アナウンスが流れた。
中には僕らより早くゴールに来ていた人と、更に奥に貴族のような格好をした人達が座っていた。
外からは見えなかったが、空中にモニターのようなものが浮いていて、そこには各プレイヤーの状況が映し出されていた。

「ほんとに……ゲームだ」

僕が小さく呟くと、兄は

「そうだ、だから他人は全てを疑え」

と厳しい目付きで言った。


その後ゴールする者は殆ど無く、階段下の死体が増えていくばかりだった。

「あの場所で油断して止まる奴多すぎ笑」「殺人鬼にとっちゃ、最高の獲物だろうな」

中は自由席のようになっていて、既にゴールしたプレイヤー達の色んな話が聞こえた。

「次のステージどうするよ」
「海の近くが厄介だな…」
「モンスターはおとりで、最悪ゴールだけっていう手もあるな」

既に次のステージの内容まで知っているような口ぶりの者が、ちらほら居るようだった。

「アイツらは攻略組、あんま見るな」

キョロキョロとしていた僕に、兄は小声でそう言いながら、空いていた入口付近のソファに座った。
僕も続いて座ろうとした時、ちょうど鍵を開けてゴールに入ってこようとした人が居た。


その人が足を踏み入れた瞬間、

─────背中から斧のようなもので切られた。


螺旋の階段を横からのぼってきた殺人鬼に、後一歩のところで殺されてしまった。

「う、嘘、嫌だ……そんな」
「エナ……なんで、こんな、嫌だ……」

目の前で殺された彼女は、僕の友人だった。

僕は放心状態のまま彼女の傍に行こうとすると、兄に手を捕まれ、

「ゴールからは絶対に出るな。……一歩でも出ればスタートからやり直しだ」

と止められた。

ほぼ目の前に居る殺人鬼が、僕を見てゴールの中に入ってこようとした。
すると何の音もなく、その殺人鬼は一瞬で粉々になり、風で飛んでいった。

「エナは……待ってよ、エナは、死んでない」
「これは全部夢……夢だ…!悪い夢……!そう、夢だ……夢だ、夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ!!!!」

僕は頭を抱え、狂ったように叫び続けた。

すると誰かが近づいてきて、「夢じゃない、これはぜーんぶ現実だ」と嘲笑っていた。


僕は耳を貸すことなく"夢だ"と叫び続けた。



────と、頭の中で違う景色が見えた。
そこは夜で、目の前は海で、兄と、僕と、エナと、小さい女の子がひとり、カーペットの上に座っていた。
手のひらサイズの、宝石のようなものを、それぞれが見せ合っていた。

僕はその景色を見ながら、

「ほら………エナは生きてるよ」

と涙を流しながら笑った。


目が覚めたように元の景色に戻り、ゴールに誰かが入ってきた。

「そんな、有り得ない、確かに今その子は死んで……!?」

振り向くと、何ともない様子のエナが立っていた。

「エナ!!」
僕は駆け寄って、思い切り抱きしめた。

「あれ、あんたもこのゲーム参加してたの…?意外………ていうかあたしなんで……
さっき確か死……」

混乱するエナに、僕は涙目のまま笑った。

「エナ、それ夢だよ笑」

騒がしかった周りは、静まり返っていた。
その場に居たほぼ全員が見ていたことを、僕は気にも留めていなかった。

「夢……?そう、そっか、良かったぁ…」

エナはホッとしたように笑った。
先程、叫ぶ僕を見て嘲笑っていた眼鏡の女性は、「こんなの有り得ない…!」ともはや恐れおののいていた。

奥に居た貴族のような格好をした人達は、楽しそうに微笑んだり、拍手をしていた。


その後、2、3人がゴールし、入口が消滅した。

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