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高橋優 弾き語り武道館 ~黒橋優と白橋優~ 黒橋優 自分のための備忘録


「ぼく、ひとりで武道館に立つのが夢だったんですよ!」あの屈託のない笑顔が一段とキラキラして見えた瞬間だった。希望と喜びと楽しさと…そんな感情が全部顔に出ちゃってるような顔だった。「この人の夢が実現するのを見届けなければ」「わたしが見届けないで誰が見届けるんだ」「絶対行くしかないだろ!」なんてことを一人で忙しくグルグル思いながら武道館公演のお知らせを中野サンプラザホールで高橋優から直接聞いて数ヶ月が経った。 わたしは、″今″ したい事をしたくて、見たいものを見たくて、すぐ会いたくてたまらない人に会いに行った。

自分なりの感染対策の1つとして開演の少し前に会場へ入った。ライブグッズを身に纏った人達が沢山いてそれを見るだけでも少しだけ高揚した。いざ会場内へ入ると武道館の真ん中にセンターステージが組まれていた。「全方位高橋優だね」なんて言いながら席に着く。ステージを見て、客席を見渡して、天井から吊り下がるお馴染みの国旗を見て、「本当に武道館だ。来てよかった、来れてよかった。 」あっという間に開演の時間になり自分の心臓の音の主張が頂点に達しようかという頃、暗転してスクリーンに映像が流れ高橋優その人が花道に現れた。ライトに照らされる真っ赤なジャケットを着た姿がもの凄く良く映えて見えて格好良かった。全方位から降ってくる拍手のシャワーを全身に浴びながら花道をゆっくりと進んでセンターステージのマイクの前に立ち、スタッフからギターをもらって背負い、一つ息を吸って、吐き出す。

高橋優、10周年の集大成の二日間が始まった。


▶こどものうた
絶望の中で混沌とした時代を生き抜くみんなのうた
武道館一発目がこれかぁ、好きでした。若干緊張しているように見えたのはきっと気の所為。
▶陽はまた昇る
歌詞を間違えましたか?この曲を聴いて既に「ああ~解釈違いだった~」と思った。だから余計に何を演るのか全然分からなくなって余計にワクワクした。
▶風前の灯
「今日は長丁場なので座って聞いてください、僕も座りますね。」その言葉が嬉しかった。長いんだ、嬉しいな。武道館に向かう電車の中で聞いていた曲のひとつ。なんでこんなに悲しくて強いんだろう。もっとこの曲を聞く回数を増やさなければと思った。
▶雑踏の片隅で
コロナ禍で一番聞いてた曲かもしれない。曲の中の全部がリアルな世界のそれだったから。大サビを願い叫ぶように歌うその姿に息が詰まった。
▶スペアキー
高橋優「スタッフに「歌詞見すぎです」って言われた」確かに目線が下向いてるなと思ってはいたけどスタッフさんに注意されてて笑った。「だってぇ、間違えたくないんだもん」舞台が回転して背中を見つめることになった訳だけど、声を出す為に震え動くイメージよりずっと大きな背中のギターに合わされた左右の肩周りの筋肉の付き方の微妙な違い、少しきつい音を出す時にぎゅっと縮こまる左足がなんとも言えなくて、曲も去ることながら歌う後ろ姿が愛おしくてたまらなかった。後ろ頭も最高だった。
▶誰がために鐘はなる
聞いてみたいと思ってた曲だけど黒橋に入ってくるとは。やっぱり解釈違いだった。これは暗闇に差す光の歌だもの。世界が混沌とすればするほど高橋優の曲は輝くの、なんて皮肉なものなんでしょう。
▶人見知りベイベー
軽快なMCから入るあの技術は素晴らしい。人見知りは仲良くなるまで3~4年はかかるし13~4回会ったって同じ距離感キープだよね、わかる。あんなに真面目な顔でエレキギターで演奏する曲なのだろうかという疑問は残った。
▶ボーリング
心の中で「(ヤッタァ~~!)」と叫んだ。”めんどくせぇ”の歌い方が、音源や少し前とは違ってて時間や経験や色んなものを積み重ねてきた上での ”でも、やっぱり” 生きていくのは ”めんどくせぇ” だった。”君を悲しませる人全て滅亡してくれりゃいいのに”
▶いいひと
これも直前のMCによって笑いに耐えている間に始まってしまった。”心の中でボコボコにして血祭りに上げる”の満面の笑み、”急に真顔になったらごめんね” 満面の笑顔からの真顔からの”ヘヘヘッ” 流れは分かっているのに最高だった。高橋優にしか出来ないし高橋優にしか書けない、でもみんなが共感できる不思議な曲。
▶オナニー
「最近はコンプライアンスとかあってね、お下品な言葉とか暴力的な言葉、相手を傷つけるような言葉を使ってはダメなんですよ。それでは聞いてください、”オナニー”」
いや直接的お下品な曲名ランキング上位じゃないか、とツッコミを入れつつ聴けて本当に嬉しかった曲のひとつ。この時代に武道館の真ん中で歌っている姿を見たいと思っていたので。馬鹿ばっかり、愛すべき馬鹿ばっかりのこの時代の真ん中で。
▶ほんとのきもち
あぁ~高橋優の曲もっと聴きたいと思ってた頃に沢山聴いた曲だ~と思い出にポチャッと浸りつつ。”きみが好き”シンプルだけどどんな時でも一番大切な気持ち、忘れないようにしていたい。
▶room
さらに回転してやっと正面でこんにちは~今日は一段と黒目が大きいですね~。「……ハァッ!緊張する~!」と高音で言いながら一人黙々と打ち込みで音を重ねて行くのを見守りながら。新生高橋優のトップバッターみたいな曲、大好きだ。
▶CANDY
更に打ち込みで音を作っていく。この段階で「うわ、CANDYだ」と察した私は咄嗟に自分を自分で抱き締めた。何度も何度も聞いてきたけどその都度全然違う味がする。
▶旅人
もうダメだ、この辺で元々緩くなっていた涙腺が決壊した。”いつか忘れ去られるなら生きてく意味なんてないよ”なんて悲しい言葉言わないで、と思うし全くその通りなんだよなと思う自分もいる。とにかく泣いてしまった。
▶誰もいない台所
誰もいない台所を”黒橋”と位置付ける高橋優の脳内どうなってるのか少し覗いて見たい。え?なんで黒なの?幸せになれよ、誰よりも。
▶(Where's)THE SILENT MAJORITY?
「しっとり系が続いたので皆さんそろそろ立ち上がりませんか?僕も立ちますね!」再びエレキギターを手にして立ち上がり、回転するステージでめいっぱいに歌い弾くその姿は最高にロックだった。「日頃の鬱憤嫌なこと全部、ステージ上の高橋優にぶつけてくれませんか!?」ああ、また聞けてしまった盛り上がるけど心がざわつく煽り。見えないけど世界に中指立ててる曲、手拍子の音が反響し合ってひとつの大きな塊になってた。
▶象
裏打ちで拳をつきあげる客席をぐるぐる見渡していたらドラムの音と客席からの声が聞こえてきたような気がした。どんどん武道館が狭くなってきてひとつになっていくような感覚がたまらなかった。
▶ルポルタージュ
綺麗な言葉で汚い心を吐き出してる歌、ギターの音色が最高に尖っていて心が踊った。曲中の所作が綺麗で美しい。弾き語りでここまで出来るのすごい…なんて素人目線の上から目線ですみません。でもギターと声しかないのにこんなに出来るんだ、音楽って楽しいなって素直に思った。
▶太陽と花
この曲で泣いたことなんてないのに泣いてしまった。大サビに行く直前の手拍子でいっぱいになった武道館とその真ん中に立つ高橋優が物凄い力に満ち溢れてるようで、「あ、この人は太陽で自分を焼きながら闇を照らしてくれてるんだ」なんてね。
▶素晴らしき日常
「今日最後の曲、ぼくの始まりの曲です。聞いてください」ラストに近付くにつれてどんどん明るくなっていく照明、武道館の光全部がステージ上に集まった光景が本当に綺麗だった。その光の中でギターを弾きながら目をギューーッと閉じて ”きっと世界は素晴らしい”と歌うその表情が 「どうか、どうかそうでありますように」と願ってるように見えてしまって苦しくてまた泣いてしまった。
▶駱駝(アンコール)
ここで駱駝を演るのか…!と拳を握った。武道館で駱駝を聞きたいと思っていたので嬉しかったし、やっぱり武道館で聞く駱駝は最高だった。この人と一緒ならこの街も時代もぶっ壊していけるかもなって割と本気で思う。優しくて強くて、一緒に先へ行こうぜって言って貰えてるみたいだった。
▶プライド(アンコール)
わたしはプライドで終わるライブが大好きだ。何度もツアーの最後に聞いてきたけれど、その度に同じようにそう思う。大きくて力強いその声と気持ちに自分の縮こまったしょうもない背中をドンッ!と押してもらって明日に向かう、そんな終わり方が好きだ。出来ればこの先何回でも何十回でも何百回でも背中を押して欲しい。


「すげー楽しい」「楽しいねぇ」
曲間に自然とこぼれ出すように何度も言うその顔は音楽が大好きで歌うことが大好きなただの少年のようで。弾き語りだからこそ客席からの拍手も大事な音楽のひとつになり得ていたと思う。それを全身で感じながらリズムに乗ってギターを弾いて声を音符に乗せて歌う高橋優が本当に楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで。上辺の上澄み、ほんのちょっとの所しか見せていないだろうけれど「今日という日が来てくれて本当に良かった」なんて誰目線かも分からない感情になってしまった。

″闇の中で見つける光は強くて美しい″
一日目の″黒橋優″を見終えてからそんな気持ちになった。ひねくれてるとか暗いとか攻めてるとかナントカカントカ…個人的にも黒橋楽曲は大好きなものが多いのだけれど、どうやら私の解釈と高橋優の解釈は違っていたみたい。闇の中で光を見出せたらいいな、今は暗闇でもいつか見えてくるであろう光を信じて進んで行けたらいいな、そんな楽曲が多かったように思う。闇を闇で終わらせない。高橋優は闇の中にいる光の人だから。光も闇もお互いが存在して初めて存在し合える概念であって、でも一人の人間の中でこんなに落差があるのも珍しい。そこが高橋優というアーティストの楽曲の面白いところであり強みのひとつであるのかも。
タイトルを聞いた時、正直言うと黒橋優は飛び道具的…ネタ的な…お得感が得られるようなライブになるような、そんなイメージだった。蓋を開けてみたら全然、あれ、黒橋優でこんなに泣く予定あった?と思うレベルで泣いていた。良いのか悪いのかとにかく高橋優の曲が良く映えてよく刺さる時代になってしまったんだ。何が正解で何が間違いで自分がどうしたらいいのかわからない、まさに闇の中にいるようなそんな気持ちになってしまう時もあるけれどそんな闇の中にいるからこそ高橋優が歌で指し示してくれる光が良く見えてそこに向かって歩いて行けるんじゃないか、黒橋優というタイトルのライブで希望を描く白橋優を強く感じる不思議な時間だった。明日もあるんだ、楽しみだな、明日で終わっちゃうんだ。寂しいなずっと続いちゃえばいいのに…なんてくだらないことを考えながら想像より遥かに大きくてしっかりしていた特典の座布団と幸せな気持ちを両手に抱えて帰路を急いだ。









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