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続ける!毎日掌編小説『一人じゃないって』

「私だけを見ていて」真剣な眼差しでそう言われた。「絶対にひとりにしないでね」

 それが彼女の僕が最後に聞いた言葉だ。

 その人は自分のことをよく話す人だった。自慢ばかりするというわけではない。「昨日、お風呂に入らないで寝た」とか「昨日と同じ服を着ているとか」本来隠しておくべきことをよく話してくる。何が目的なのか、僕にはわからない。でも、彼女は何か別のことを伝えようとしているように感じた。

 それはなぜか。彼女は自分の気持ちを伝えることが苦手だったようだ。いつも遠回しに話をする。結局、そのせいで彼女とは別れている。いや、逃げてきたと言った方がいいだろうか。

 彼女を知ろうとすると、どんどん不幸になっていく気がした。ある日、彼女は自分の過去を話した。

 彼女は小さい頃から僕に会うまでずっと一人だったらしい。「ずっと」彼女はそれを強調して言った。

 どれぐらい一人だったのだろう。誰とも話をしなかった。それとも、誰とも会わなかった?いや、もっと孤独な、誰にも存在を認識してもらえなかったのだろうか?

 どちらにしろ、彼女をあんな風に育てたんだ。ろくな人生じゃなかっただろう。だから彼女は狂気に満ちていた。

 彼女の執着心は異常だ。僕の首を奪うまで止まることはないだろう。彼女はどうして欲しかったのだろうか。僕はどうしてあげたら良かったのだろうか。

 それを今考えてももう手遅れであることに、僕は何度心の底からぐうの音が出たことか。僕が彼女に捕まるのも時間の問題だ。

 そういえば、と僕は呑気に彼女との思い出が湧き出てきた。

「私は、みんなのスマホになりたい」

 彼女の遠回しな言い方で、この時少しだけ彼女の意図を掴めた気が切なく、儚く僕は感じ取ってしまった。

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