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[連載短編小説]『ドァーター』第七章

※この小説は第六章です。第一章からご一読されますと、よりこの作品を楽しむことができます。ぜひお読みください!
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_________本編_________

第七章 断罪
 巴枝は目覚めないまま、一年がたった。当たりどころが悪かったらしく、ずっと彼女は眠っている。君が銃で撃たれた10日後、一葉がついに会いにきた。100日の約束を達成したって、それで彼女はとても喜んでいた。「今夜にでもお祝いの食事でもしよう」
 僕はどうしてもそんな気にはなれなかった、だって、何一つ守れていないじゃないか。ずっと目が覚めないなら、巴枝は死んでいるのと同じだ。
 目が覚めるのはもっと先なのかもしれない、いつの間にかポックリ死んでしまうかもしれない。そんな恐怖が毎朝毎夜、やってくるのだ。
 娘たちを100日間何があっても守り抜く、それが一葉との約束だった。約束を果たす代わりに、僕の死刑は無かったことになる。でも、僕にとって、刑が無くなることよりも彼女たちを守り抜くということの方が大事だった。
 ほんの少しでも罪滅ぼしができると思った。妻を失ったのは紛れもない僕のせいだ。僕は妻を殺してしまったんだ、それは酷い方法で。だから、僕には死刑がピッタリだと思っていた。僕にとって幸せはあってはならないものだと思っている。そして、また守れなかった。巴枝が撃たれてしまったことで、僕は自分の無力さを痛感した。
 だから僕に生きる意味はないのだ。でも、僕はもうこんな過ちは繰り返さない。僕は自分を断罪する。そのために、巴枝を撃った犯人を見つけ出し、愛してやれなかった分、巴枝を愛してやる。手遅れだとしても、僕は僕の責任を地獄まで持っていく。
 絶対に見つけ出してやる、死んでも見つけ出す、巴枝をよくも撃ってくれたな。これは僕の身勝手なわがままで、全人類に恨まれたとしても、僕がこの世界に生きているための最低な理由だ。

「だめ」その言葉を一葉から発せられた後すぐに、僕はポカンと頭が真っ白になった。「当たり前でしょ?約束を果たしたあなたはもう自由。これからは私が面倒を見る。最初に行ったわよね?しかも、あなたは娘たちを最大限愛せていなかったみたいだけど?」彼女は相変わらず痛いところをついてくる。
「そ、そこをなんとかならないか」僕は腰を低くして言った。しかし、僕のわがままを聞いてくれる方がおかしい。当然の反応だ。「巴枝を撃った犯人を捕まえたいから、二人をまた守らせてくれ」なんて、僕は最低の極みだ。守れなかったからこうなったくせに。

 僕は別の手段が無いか考えながらいつもの家に帰った。家の中はどこもかしこも空っぽだった。リビングには賑やかな光景はもうない。家具も、二人のお気に入りだったぬいぐるみもなくなっている。僕は少しだけ、人知れず寂しく感じた。
 いったい犯人は誰なのか。でももし、巴枝が目を覚ましたら彼女のすぐそばにいた犯人が誰だったのか、わかるかもしれない。どちらにしろ、目を覚ましたらの話だが。
 お祝い会は結局開かれた。当然だが、食事は喉を通らなかった。娘が目を覚さないというのに、無責任に笑うことなんてできない。僕はひとときも楽しむことなく、すぐに家へ帰った。
次の日の早朝、インターホンが鳴り、ドアを開けると、目鼻立ちがはっきりしていて、色白な金髪の女性が立っていた。そして彼女はドアスコープを覗き返してこちらを見ていた。僕の心臓は飛び跳ねて、宙をまった。
「トントン、一葉だよ、開けてー」
 その声は確かに一葉だった。この、人を小馬鹿にしたような喋り方も、間違いなく一葉だと確信させた。しかし、雰囲気がまるでいつもの一葉と別物だった。
 僕はドアを開けると、改めて、いきなり素顔をあらわにした彼女に驚いた。
「……」
 僕は、彼女を家に入れ、お茶を用意した。そして僕も席に座った。そのとき一葉に質問した。
「今まで聞くのは避けていたんだが、なぜいつも顔を隠していたんだ」
「ただのファッションだよ」一葉は何か誤魔化しているような浅はかな口ぶりだった。僕は難しい顔をした。すると一葉も難しい顔をしだして言った。「人に顔を見られるのが嫌なの。わかるだろ?」
 そんなものなのだろうか、この時僕は一葉が正体を明かした理由を深くは考えていなかった。しかし、一葉の正体には僕と切ってもきれない強い繋がりがあったことを僕はまだ気が付かないでいた。
 いったい、一葉は何が目的で僕の家にやってきたのか。一葉は何者なのか。それらは彼女の不気味な企みに隠されているのだった。僕はこれから知らなければならない、とんでもない事実だった。

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続ける!毎日掌編小説。33/365

To Be Continued..

明日次章投稿!

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