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five realities 〜嫉妬〜 (2)

店を閉め部屋に戻ると
雨音が聞こえてきた 
ポツポツと雫の落ちる音が
今まで触れたこともない孤独を感じさせた
同時に溢れる涙が悲しみを連れてきた

サムは私 

そんな言葉が口からこぼれ落ちた

眠りにつけば
全てが夢だと思えるのだろうか 
 
そんな投げやりな思いで目を閉じた

サムの声 
サムの笑顔 
抱きしめられた感触が蘇る

あわてて飛び起きる

眠りについてサムが夢に現れたら

次はそんな思いから
目を閉じられなくなっていた

初夏の空が白み始める
一睡も出来ず静まり返った町へ出た

海に続く道を進むと
太陽が海を輝かせていた

昨夜の雨で流木が流れ着く浜に
老夫婦が語らいながら歩いていた

打ち寄せる波に足をあずけ
水平線の彼方を眺める

 マリアかい?

後方から名前を呼ぶ声に一瞬目をつむり 
鼓動を整えた

 おはよう
髪をおろしているから
声をかけるのをためらった
目の前に笑顔のサムがいた

 おはよう
サム

一番大きな流木に腰を掛け
潮風に吹かれる

サムの指先が
腰まで伸びたマリアの髪に触れる

太陽に照らされて
とても綺麗だ

朝の海で女神に出逢った

サムの言葉に笑い
心が解放されていく

 サムは早起きなのね

 海が見たくなった

 ここはとても綺麗でしょう
ほかは見たことがないけど
わたしは一番だと思っているわ

 そうだな

マリアの言葉に微笑む
サムを見て胸に痛みが走る

一緒にはいられない

まだ冷静を保てる間に戻ろう

お店の準備があるから

立ち上がったマリアに

 お願いがあるんだ
その言葉に足をとめた
 アンナは子供の頃から体が弱くて
何度も死にかけている

 だから友達と過ごす時間もなかったんだ
 アンナの友達になってくれないか

サムの言葉が小さな火をともした
 サム
私は二人に出会えて嬉しいのよ
 アンナとは友達になれると思うわ
 もちろんサムともよ
笑顔で答えるのが精一杯だった

それからは三人で過ごす時間がふえていった
サムはキター奏者でマリアの店でも
演奏会を開いてくれた
 
サムの演奏を目当てに
客も増えていった
 最近は指が訛っていたから
こうして演奏させてもらえると刺激になる
ありがとう

 こちらこそ
お客さんが増えて嬉しいわ

サムが感謝してくれる 

それだけでいい
この言葉が心を平静に保つまじない
そう思うようにしていった

サムが笑い
サムがいる

それだけでいい

今日は三人で朝の海に来た
風が強く波が岩にあたり水飛沫を上げている

サムは水着姿の子供たちと遊び
その姿を二人で眺めていた

 サムは子供が大好きなの
アンナがつぶやいた

視線を向けると
少女のようなアンナが大人びて見えた

 私は子供の頃から体が弱くて
子供を産むことができない

子供をつくる行為さえも
 命をおとす危険があるからと
 お医者さまに禁じられているわ

アンナが淋しげに微笑み
 健康で綺麗な
 マリアが羨ましい

羨ましいのはアンナよ
サムさえ…
サムさえいればそれでいいじゃない

無意識に出た言葉に動揺し
アンナを見た
マリアの想いは
優しい波音が連れさってくれていた

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