見出し画像

名付け

私は蟻である。名前はまだない。
蟻は歴史を紡ぐ中で、優秀な者には女王より名前が授けられると云う。

私は名前が欲しい。
そのために5世代にも渡り成果を挙げてきた。


私は蟻である。名前はまだない。
全ての者に名前が授けられる人間という生き物がいるらしい。

私は名前が欲しい。
願わくば次は人間に生まれ変わりたい。


私は蟻である。名前はまだない。
仲間内で話をする時、私は決まって名前がまだないという話をする。

私は名前が欲しい。
仲間達は世代を跨いだ繋がりだが、名前を授かる程の成果を挙げるつもりはないと言う。


私は蟻である。名前はまだない。
今日は長年の敵であったキリギリスを仕留めた。
私はその隊長である。きっと褒美をもらえるに違いない。

私は名前が欲しい。
遂に女王から名前を授かれることになった!
長年に渡り尽くしてきた甲斐があったというものだ。


私は蟻である。名前はまだない。
何という名を授かれるのだろう。


女王陛下、この度は…

よいよい、それでは早速名を授けよう。
……おや、お前は既に名があるではないか。
それでは別の物を授けよう。

どういう事だ。私に名前などないはずなのに。


私は蟻である。名前はまだない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?