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ソナム・ワンチュク氏来日公演レポ

「きっとうまくいく」というインド映画はご存じでしょうか?
私は生粋のインド映画(ボリウッド)好きなので知っていますが、きっとうまくいくに関してはインド映画ファンではない方も知っているという方は多いのではないでしょうか。

主人公ランチョーのモデルになったといわれているインド北部ラダック地方出身のソナム・ワンチュク氏がなんと来日!
4月22日土曜日に東京小石川にて講演会がありましたのでそのレポートをしていきたいと思います。

■もくじ

・映画きっとうまくいくについて
・ソナム氏について
・講演内容「環境問題」
・講演内容「教育改革」
・きっとうまくいく制作小話
・まとめ

■映画きっとうまくいくについて

3idiots(3人のバカ)

きっとうまくいくは、2009年公開のインド映画です。
インド映画歴代興行収入1位を記録した大ヒット映画で、主役を務めるアーミル・カーンは今ではインドトップの大スターです。

約3時間の大作コメディ映画ですが、教育問題をテーマにしていて、インドにおける若者の自殺率の高さなども取り上げている深い映画です。
2010年インドアカデミー賞では作品賞をはじめ史上最多16部門を受賞しました。

主演のアーミル・カーンは大学生役を演じましたが、実年齢はなんと当時44歳でした。。。当初はもっと若い俳優を起用する予定だったが、カーンは「是非やりたい。やらせてくれるなら若く見えるように体を絞る」と言い、撮影期間中は肌をフレッシュにするため水を毎日1日4リットル飲んで臨んでいたらしいです。
また、R・マドハヴァンも当時39歳、シャルマン・ジョシも30歳でした。
まったく違和感なかったですよね、皆さんすごい!

ちなみに、映画のラストに美しい湖でランチョーと友人たちが再会する場面を覚えていますか?
あの湖はパンゴン湖といってラダックからさらに車で数時間いった場所にある高地のさらに高地にあるオアシスのような湖です。
まるで天国のような珍しい光景ですよね。

私はこの湖に行くためにバイクを飛ばし、トラックに正面衝突して死にかけました。(リハビリに1年)

パンゴン湖

■ソナム氏について

Sonam Wangchuk氏

ソナム氏は、インド北部のラダック地方出身の現在56歳。
著名なエンジニアでもあり、インドでイノベーター、教育改革家と称されるソナムさんは、世界の課題に挑む個人や組織を顕彰するロレックス賞(2016年)や「アジアのノーベル賞」と言われるマグサイサイ賞(2018年)などを受賞してきました。

30年以上教育改革の分野に取り組んできたソナムさんの一番有名な功績の一つが、オルタナティブスクール「SECMOL(Students’Educational and Cultural Movement of Ladakh ラダックの学生教育文化運動)」を設立したことです。

この学校は、映画のラストにも出てきます。
映画の中では、自転車で発電機を作り羊の毛を飼っている子供や、ドローンのような物を飛ばしている子供達が出てきて、友人たちは早くもランチョーの創った学校だと気づきます。

実際のSECMOLも太陽の力を利用した暖房装置や、ソーラークッカーなどがあります。ラダックは「月の世界」や「火星の風景」と呼ばれていまっす、その理由は標高3,000m以上の高地にあり、植物が少なく日光が強い。まさに月の表面のような乾いた土地です。夏は35度、冬はマイナス35度にもなる厳しいとちです。
そんな土地の特徴を科学で活かすような仕組みを自分たちで作り活用しています。
ランチョーらしい。映画と相違ないですね。

太陽の光を利用したソーラークッカー

■講演内容「環境問題」

ソナムさんが最初に私たちに発した言葉はこうでした。

今日は皆さん、映画の話や、私の教育論を聞けることを楽しみにして来てくれたかも知れません。
ですが、そんなことよりも今日は私から伝えたいことがあります。
それは地球温暖化についてです、今日はそれをメインで話します。

おお、まじか。
と私は思ったし、ほかの方も思ったんじゃないでしょうか。
私はあくまであの映画のファンとして来ているし、そして環境問題には人並み程度の関心しかないからです。

でも彼はあくまで彼の伝えたいことを伝えるためにそこに立っているようでした。なので、じゃあ聞いてみようと、私も思えて聞いてみました。

彼は2つの取り組みと、2つのメッセージを伝えてくれました。

取り組み1:太陽エネルギー暖房
取り組み2:人口氷河の作成
メッセージ1:持続可能だけでは足りない、再生させろ
メッセージ2:シンプルに生きて!

ソナム氏は心から地元ラダックを愛していました。
厳しい自然のラダックでは、人と自然がバランスよく共存して厳しいながらも豊かな暮らしを今まで続けて来たそうです。

しかし、近年100年に1度レベルの災害が数年間隔で発生し、多くの人が亡くなっているとの事でした。日本も同じような状況ですよね。

そんな状況を変えるために彼は今一番熱心に環境問題に取り組んでいます。
その取り組みの1つが太陽エネルギー暖房システムです。

・太陽エネルギー暖房システム

右下の図がシステム解説図

「私が使うのはいつも小学生レベルの科学知識だ」
とソナム氏は言います。

その通り、仕組みはとても簡単で、太陽の熱をガラスを通して地面に伝え暖められた空気が部屋を循環するというシンプルなものです。
でもこれで、外はマイナス20度でも室内は12度まで温められているそう。

そしてもう一つの衝撃的な取り組みは「人口氷河」です。
ラダックでも世界中でも、氷が溶けて来てるのは大きな問題の1つですよね。
そんな問題を止めるだけでなく、回復させようとソナム氏は人口の氷河、通称アイスステューパを創りました。

・人口氷河

ice stupa(stupaとは仏塔の意味)

この仕組みも小学生レベルの知識でできているそうです。

ice stupaの仕組み

①冬の間にチューブを使用して標高の高いダウンスロープから水を引きます。
②水は、アイスストゥーパの基部からパイプを通って、鉄パイプに流れます。
③夜に温度が下がると、この淡水がこの垂直パイプの上部にあるスプリンクラーにポンプで送られます。ラダック地域の冬の気温はマイナス 30 度にもなり、水は木と鋼で作られた専用の構造物に凍りつきます。
④氷が蓄積するにつれて、配管を追加して人工氷河の高さを上げ、より多くの水を貯めることができます。
⑤気候が温暖になり、水が不足すると、氷が徐々に溶けて、氷河に蓄えられた水が放出されます。これにより、植栽シーズンの早い段階で重要な時期に、灌漑用の貴重な水源が地元の人々に提供されます。

このアイスステューパプロジェクトはロレックスを受賞しています。

そして、次にソナム氏からの2つのメッセージについてです。

・持続可能だけでは足りない、再生させろ

Regenerative=再生・回復・癒す など

「今から何かアクションをするなら、持続可能だけでは足りないんだ。人間の方から積極的に再生させないともう追いつかないんだ」
とソナム氏。

子供たちの教育へも、必ず自然との共存や自然の力を利用するような要素を入れているのも彼の信条の1つなんでしょう。

・シンプルに生きて

シンプルに生きて!

「このメッセージは、東京、NY、デリーなどの都会に住んでいる人に伝えたいメッセージです。シンプルに生きてください。都会の皆さんがシンプルに生きれば、ラダックの様な地の人達もシンプルに生きる事ができます」

例えば
・流行りの服を買ってすぐに捨てる
・食べ物を残す、捨てる
・歩ける距離なのに電車や車を使う

こんな小さなアクションに気を付けて、とにかくシンプルに生きてほしい。
そうすると頭もシンプルになって、より自分の姿がはっきり見えるよ、と。

■講演内容「教育改革」

そこから、彼の教育改革の活動の話が少しだけありました。
衝撃的だった画像があります。

砂漠のど真ん中

なんと、、左側の画像の土地に大学を作ると!
そしてなんと無料!
むしろ学生にお金を払う仕組みにしたい、
そして、右側の絵のように豊かな地に変えていきたいと。

「このオルタナティブ大学では、学生の力を引き出します。ここに来る学生は自らの手で人が生きていける環境を整備し、起業し、開拓します。
受験戦争や高額な学費など、多くの課題を解決できる大学になると信じています。」

まだまだ駆け出しのプロジェクトの様ですが、期待大ですね。

HIALについて

ソナム氏はこんなことを言っていました。

「若い人はエネルギーに溢れている。でも、いい教育がなければそのエネルギーは悪い形に変換されて放出される。例えば犯罪やうつ病など。
若者のエネルギーをいい形で放出させるには本質を突いた教育を誰でも受けられる環境が必要なんです。」と。

後半30分ほどは、拓殖大学の石川教授との対談がありました。
時間はわずかでしたが、ソナム氏の教育哲学などを聞くことができました。

3H

ソナム氏の教育哲学は3Hだそうです。
3H=Head/Hand/Heart
1.Practical(社会とつながる~自分で責任を持ち、考え、解決する)
2.Engagement(問題や自然と関わる)
3.Rough(自然的な学び方、人間的な学び方)

これまで主流だった3R(読み・書き・計算)から3Hにシフトするのが彼の哲学であり、教育の本質だと言っていました。

そして最後に、
「これからの学校は、教育の本質を突き詰めていなければどんどん淘汰されていくでしょう。」

と言っていました。

■きっとうまくいく制作小話

きっとうまくいくの主人公ランチョーのモデルは本当にソナムさんだったのか?という質問に対し、
「一部はそうです、かっこいいパートは全て僕がモデルですよ」
と笑っていました。

そしてちょっとした制作秘話を話してくれました。

実は最初、きっとうまくいくは全くソナム氏とは関係のないストーリーだったそう。しかし、映画監督とソナム氏が偶然出会い、ソナム氏の生い立ちや取り組みを話すと監督がすごく面白がり、すでに完成していた映画脚本の一部をソナム氏ストーリーを踏まえて書き直したそうです。

知らなかった!ファンにとっては貴重な秘話でした。

■まとめ

私が今回直接会って感じたのは、
ソナム氏は一貫して「教育者」であるということでした。

みんなが期待していた映画の話や教育の持論などはきっと今まで何度も話してきて慣れているでしょうし、期待に応えられる一番簡単な方法でしょう。

しかし、彼は私たちに教育論を語らずに、大学の授業のように新しいことを教えてくれました、しかもとっても分かりやすく!

講演家のような立場で呼ばれても、彼は彼の教育者としての姿勢を一貫しているんだなと感じなんだかじーんときました。

スマートな紳士でした!

おわり

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