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『一個の死』

一羽の小鳥が死んだ
その死はとてもしずかだった
真っ黒な瞳は閉じられていた
閉じられた先になにをみているのか
それだけがきになった
それが死なのかと思った

一匹の狼が死んだ
その死はとてもしずかだった
凶暴のかぎりをつくした奥歯はしまわれていた
しまわれた奥歯がどこにいくのか
それだけがきになった
それが死なのかと思った

一人の人間が死んだ
その死はとてもにぎやかだった
自分をあざむき続けたこころはきえていた
きえたこころがどこにいくのか
それだけがきになった
それも死なのかと思った

一つの空が死んだ
その死はとてもおおきかった
おおきすぎて目にはみえなかった
みえない空がどこにあるのか
それだけがきになった
そんな死もあるのかと思った

一個の死が死んだ
その死はとてもちいさかった
ちいさすぎてあなたにはみえなかった
ちいさすぎる死がどこにあるのか
それだけがきになった
これが死なのかと思った

わたしはうまれてこのかた
いちども生きたことがなかった

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