『ラ・カンパネラ』
やめてくれ、もうこっちを見ないでくれ。
その濡れた瞳が私はどうしても耐えられないのだ、月のない夜、星さえも追いつかぬ、空最果て、漆黒の海の底、まだ届かぬ、光さえ我忘れ、闇は戸惑う、極小の、極みの際、その一点、憂なき瞬き。
やめてくれ、もうこっちを見ないでくれ。
彼女はいつも私といる。彼女の視線は私を離さない。幼少の頃からだからもう何年一緒にいるのだろうか。彼女にみつめられる。私は視線をそらす。彼女は何も言わず私をみつめ続ける。私は全身が硬くなる、肩が上がる、呼吸が小さく早くなる、喉が、カラカラになる。彼女の濡れた瞳は乾かない。その睫毛は湿り気を帯びている。彼女が瞬きをする。私の顔に風が届く。いくらか水分を含んでいる。私は顔を拭くことが出来ない。彼女が私をみつめている。私はもう彼女をみつめることしか出来ない。
私たちはみつめ合っている。
彼女の名前はカンパネラ。
私といつも一緒にいる。
これは作品を創るための細かいパーツです。
たくさんのパーツを集めて、完成したら朗読したいと思っています。
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