裸足で街を歩き回ってみた話。
去年の夏休みの深夜二時ごろ、展示の準備に追われて頭がおかしくなっていた僕は、休憩がてら散歩にでも行くことにしました。
深夜でもかなり暑かったので、これはもう靴なんて履かなくていいのでは?と真面目に考えました。そうして裸足で上野公園に繰り出してみたら、これが案外楽しい!
これは、もっといろんな場所を歩いてみたら、面白い発見があるんじゃないか? そういうことで、裸足で街を歩き回ってみることにしました。
その結果、道の感触にはたくさんの情報があることを知りました。以下はその記録です。
歩道
★★☆☆☆(痛み度数)
歩道ではこういうタイプの道が一番多いですね。全体的にざらついてて肌には優しくないですが、不規則なガタツキがないぶん予想外の痛みも少ないです。
★★☆☆☆
質感は似てるけど、表面のザラつきが若干少ないぶん歩きやすいです。ただ比較的マシってだけで、固い地面ってのは基本的にはどれも痛いです。靴履いた方がいいです。
序盤のうちは写真に自分の足を入れてたけど、シュールすぎたので早い段階でやめました。
★★☆☆☆
感触としては前二つとそんなに変わらないけど、ほんのちょっとツルツルしてて、冷たいです。
ところで最初は、痛かった順でランキングつけて、その順番で紹介しようと思ったんですが、実際は明確に順位付けできるほど単純なものではなく、素材の違いによってなんとも言えない微妙な痛みの違いがありました。
またそれが今回の醍醐味でもあったので、こちらでは順位に拘らず、ジャンル別に紹介していきます。
★★★☆☆
大抵の道には何かしらの凹凸があり、その具合に応じた感触、というか痛みを足が感知します。
その痛みの度合いは、固さ、凹凸の激しさ、そして不規則さによって決まります。
硬いほうが衝撃が吸収されず痛いです。加えて、デコボコが激しい方が痛いです。まあそれはそうでしょう。
そして不規則さというのは、道の凹凸にどれだけのルールがあるかということですね。整理されたタイルは凹凸が規則的なため、痛みの予想がつきやすい。逆に自然物の凹凸は痛みの予想がつかないため、重たい一撃をくらうことがあります。
アスファルト
★★★☆☆
アスファルトの痛みは、なんだかジワジワきます。最初の十数分は、まあこのくらいなら平気かなってスタスタ歩くんですが、だんだん蓄積してしんどくなってきます。
基本的にアスファルトが敷かれているのは車道で、整備されている歩道にはあんまり敷かれてないですね。やはり歩道ではなく車道向けの素材なのかなと思いました。
★★☆☆☆
さっきのは粒の大きさや形がかなりまちまちでしたが、これは比較的差が少ないですね。アスファルトにも若干の質感の違いがあります。こういうのは歩きやすいです。
★☆☆☆☆(白いところ)
横断歩道で白いところしか歩いちゃいけない、みたいなゲームを子どもの頃しませんでした? 僕はしてた。もしはみ出しちゃったら、ワニに食べられて死ぬってルール。
素のアスファルトの部分と、コーティングされた白い部分では感触がだいぶ違いますね。白い方は凹凸が消されてて歩きやすかったので、横断歩道は黒いところは避けてました。ワニはもういないのに、こんな理由で白いところだけ歩くことになるとは。
★☆☆☆☆
これも横断歩道と理屈は同じです。ただこうして経年劣化によって剥がれていると、それだけでグラフィックのようにも見えて、見ているだけでちょっと楽しいですね。足元には情報がいっぱいだ。
クラスメイトとの遭遇。
浅草の仲見世通りをひとりで裸足で歩いていたときのことでした。ここは東京でも有数の観光地で、連日多くの人が行き交っています。そんななかに裸足で混ざっていても、意外と見て見ぬふりをされるものです。東京の人はヤバい人に慣れていますね。
向こう側から、大学の同じクラスの女の子と、その子の友達らしい女の子の二人が歩いてきました。
「やっほ〜何してるの〜。地面感じてるの?」
クラスメイトが平然と話しかけてきます。なんでこいつは普通に受け入れてるんだろう。
少し話しただけで二人とは別れました。のちに聞くと、一緒にいた友達の女の子は引いてたらしいです。それはそう。
裸足で浅草寺にお参りしている様子と、
その付近の砂利をおそるおそる歩いている図です。裸足で歩いた日は何日かあったのですが、友達と一緒だった日もありましたね。
マンホール
★★☆☆☆
マンホールは結構楽しいです。地域や用途によってデザインが様々だし、凹凸も掘り込むことでできてますから、そこまで痛くもないですね。
マンホールのデザインはかなり種類があるので、単純に視覚的に面白いです。だけど普段はあんまりそのことに気づきませんね。
★☆☆☆☆
唐突に戻ってくる足。
マンホールの中にマンホールがありますね。どういう仕組みなんだろう。中心がずれているのも面白い。
芝生、土
☆☆☆☆☆
色々歩いてきたけど、一番良かったのは、やっぱりというかなんというか、芝生でした。柔らかいから衝撃を吸収するし、草が足の裏をくすぐってくるのが気持ちいいです。
★☆☆☆☆
ちょっと落ち葉が痛かったりもしたけれど、こういうのも楽しいですね。心地良い痛みとそうじゃない痛みがあります。これは前者。
職務質問編
昼過ぎ、上野のあたりをいつも通り裸足で歩いていた日のことです。
この日は朝方に絵の具を使って絵を描いていて、赤い絵の具が手にこびりついていました。つまりその日の僕は、手が赤くて靴を履いていない金髪の男性だったのです。
交差点に差し掛かり、横断歩道を渡りきる直前に、角にある交番の警察官の一人と目が合います。
気づいてないふりをして歩き続けますが、まあこんな見た目の人間に警戒しない方が警察として不自然だし、話しかけられるだろうと思いました。しかし意外にも声をかけられません。
そのあと三十メートルほどしばらく歩き続けていたら、後ろから自転車で二人の警察官がやってきて話しかけてきました。なんとなく、壁に追いやられるような形になっています。
「お兄さん、靴どうしたんですか?笑」
この人、応援引き連れてきやがった。
たぶんヤバい人の可能性が高い場合は複数人で対応することになっているのでしょう。今回の僕は、一人で対応するのはリスクが大きいと判断したのかもしれませんね。
しかし動揺はしません。なにしろ僕は裸足じゃなくともなぜか半年に一回くらい職務質問をされる人間なので、こういう状況には慣れています。ちなみに最大で五人の警察官に囲まれたことがあります。
実害はないことを説明すると、怪訝ながらも納得した素振りを見せます。こちらはカバンの中身も財布の中身も身分証明書も見せているのだから、納得してくれないと困りますね。最終的にはにこやかに送り出してくれました。別の日にまた職務質問されました。
特殊な道
★★★☆☆
視覚障害者誘導用ブロックってやつです。
注意して歩けばそんなに痛くはないが、できれば避けて歩きたいですね。
★★★★☆
これも視覚障害者誘導用ブロックだけど、こっちの方がだいぶやばいです。
この粒状の突起は、先程の直線形のものより的確にこちらの足裏のウィークポイントを突いてきます。うっかり踏み抜いてしまったときは、人前だろうが声を上げて呻いてしまいかねない危険度があります。
★☆☆☆☆
金属。僕が歩いていたのは9月~10月ごろなのでそこまで熱くなかったですが、真夏に歩いていたらひどいダメージを負っていたことが想像できます。秋冬でも冷たくてしんどいかもしれないですね。
★★☆☆☆
歩道でよく見かけるあれです。これもさっきのも、名称はグレーチングというらしいです。
派手な見た目をしていますが、あんまり痛くないです。穴が空いてるだけだし、凹凸も規則的だからですね。むしろ気持ちいいまであります。
★★☆☆☆
割と好きでした。大きい石の角は長い時間をかけて削られているのか、あんまり鋭くないんですよね。むしろ土の方が細かく鋭いのが混ざっていたりするので避けて、石の上をぴょんぴょんしてました。
★★★★★
こいつがダントツでした。
いやまあ見たまんまですね。
痛みの感覚的には足ツボマットに近いです。けどあれはあくまで健康グッズとして、角が削られたり安全への配慮がなされていますが、こいつにはそういった配慮が一切ありません。当たり前ですが。
★★★★☆
同じ砂利でも、これくらいならまあなんとかなりますね。痛いは痛いけど。
ただ、油断してるとこの中にたまにめちゃくちゃ殺傷力の高いのが混ざってたりもします。警戒を解いてはならない。
歩いてみた感想、まとめ。
普通に靴を履いて外を歩く時、地面の種類なんてあんまり意識しないですよね。でもおんなじように見えるアスファルトやコンクリートにもやっぱり微妙に違いがあって、個性があって、足の裏の剥き出しの皮膚は、それらを敏感に感じ取ります。
いつも何気なく歩く道にはこんなにもたくさんの触覚情報があり、僕らはそれに気づかず生きています。そのことを知ると、世界の見え方が少し変わってきます。あの道はどんな感触がするんだろう。ざらつき具合は? その温度は?
さて、新鮮な気づきを得たところで。
作品をつくろう。
そういえばおれは美大生でした。制作することが学業です。
今回の作品のコンセプトは、今回の体験を経て得た、裸足になって街を歩くことの面白さの一部を、他の人にも伝わる形にすることです。
そうなると結局、実際に靴を脱いで歩いてもらうしかありません。文章に書いてもなかなか伝わらないし、というか文章で伝わってしまったら意味がないし。
でも靴を脱いで外に繰り出すというのは現実問題ハードルが高い。ならばそのハードルを下げて、プチ体験を与える作品にしたい。
ということで、実際に複数の素材の足場を用意して、そこを歩いてもらう作品にすることにします。
とりあえず、パッと思いついた形を描いてみます。足元に足場を置き、目線の高さにキャプション(作品説明)と写真を用意してます。
ただこれでは、あんまり歩いてみようって気にならないかもしれない。置いただけに見えそうです。
ならばキャプションも床に敷き、作品本体とあえて分離させないことで、意識を足元に集中させることはできないだろうか?と考えます。何言ってんのかわかんなくても大丈夫です。
色をつけて、よりイメージを具体的にしました。縦中央が素材の道で、左右のキャプションを見ながら進んでいきます。
ひとまず大体のイメージができたら、あとは作りながら考えていきます。さて、足場の素材はどうしよう。
大型ホームセンターに床材を見にいきます。こういうのを買って敷くのでも良いけど、あまりにそのまんま過ぎるだろうか。
セメントやコンクリートも売っています。これを使って自分で地面を作れば、既製品感が減るかもしれません。
そんなに高くないですが、めちゃくちゃ重いから運ぶのが嫌すぎて躊躇しました。後日買いました。アスファルトをキャリーバッグで運んだら車輪がイカれて死にました。錆びついた車輪、悲鳴を上げ。
グレーチングが売られているのを発見します。見つけたときなんだか笑っちゃったぜ。大型ホームセンターの底力すごい。
買ってみました。クソ重い。格子越しに見える景色が綺麗ですね。
さて買った素材たちを使って足場をつくっていきましょう。
色々買った素材を、30×30cmに揃えていきます。「素材の違い」に着目してもらうためには、大きさや高さといった、それ以外の要素は揃える方が伝わりやすいからです。
写真は学校でアスファルトを固めている様子です。結構簡単で、踏むだけで固まりましたね。
素材の下には厚さの違う木の板を敷いたりして、厚みに差が出ないようにします。
こんな感じで、大きさを揃えていきます。作業場は学校のアトリエです。汚いですね。
キャプションを印刷し、組み合わせればいよいよ完成です。
こちらが完成形です。
真ん中の列には8種類の素材の足場が並んでおり、その上を実際に靴を脱いで歩いてもらうことで、感触の違いを体験してもらう作品です。
端の方には、実際に歩いた道の写真を並べています。これにより、余白がなんとなく道っぽく見えるようにしています。
一番目立つ文章はキャッチコピーでもあるし、この作品がどういうものであるかの紹介、および導入の役割も果たしています。
今見ると、もっと字の隙間とかをこだわる余地がある気がします。
それぞれの足場の横には、それに対応した文章が書かれています。
マンホールはAmazonで、ちょっとゴムっぽい安物で代用しました。本当は金属製のものを買って切断したかったけど、あまりに高くて無理でした。美大生には金がない。
上のタイルは、石を漆喰で固めて作りました。石の形がどれも微妙に違うので、整列している中に若干のランダム性を感じることができます。
グレーチング①です。
凹凸よりは温度がテーマです。そういえば、金属はもちろん激しく温度変化するのですが、石にも、冷たくなりやすい石とかあるんですよね。歩いてて気づきました。
ここいらで少し歩きやすい素材にしとこうと思って入れました。階段とかにこういうのありますね。同じく漆喰で固めています。
固めてつくったアスファルトです。固めたままの状態だとちょっとベタベタしてたので少しだけ砂を混ぜました。
おなじみ誘導ブロック。これも実際の歩道で使われてるものではなく、ゴムっぽい安物で代用しました。そういえば実際の誘導ブロックも、大きさは30×30cmのものがほとんどみたいです。
グレーチング②
何気なく正方形になってますが、学校でゴリゴリと切断しました。グラインダーという道具を使いましたね。めちゃくちゃ火花出た。
ラスト。砂利。
学校に落ちてた石を拾い集めて、漆喰で固めて作りました。笑えるくらい痛いです。
最後にあとがきを書いて終わりですね。何気にこれらの文字も、大きくなりすぎると野暮ったいし、小さすぎると読めないし、ちょうど良い大きさを探しました。
実際に歩いてみている様子です。
長さは2.5mくらいなので、床に置かれているのをみるとそこそこ大きいですが、歩いてみるとちょっと短いですね。もっと長くしたい気持ちもありました。予算がなかった。
クローズアップ。
角度をつけて撮影したバージョン。ちょっと格好いい。
以上で終わりです。
僕は現在大学二年生で、これをつくったのは一年生のときなので、今見ると拙いところやもっと上手くできたところもあるのですが、強気に色々やっていていいなあと思います。
制作費は7~8万円くらいだったかな。翌月のクレジットカードの請求に圧死しました。二度とやりたくない。
さて冬が近づき、寒さも本格的になりつつあるので安易には言いづらいですが、裸足で外を歩いてみるの、割とおすすめです。
毎日がルーティン化してなんだかよくわかんなかったときとか、制作や課題が全然うまくいかない時とか、恋人に振られた日の酔った帰り道とか、そういう日に繰り出してみると、ちょっと自由になれるかもしれない。普段と違うことをするのは楽しいものです。
あと歩くときはサンダルとか袋に入れて持っていくといいと思います。コンビニ行きたいときとかあるし。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次はなんの制作について書こうかな。
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