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現実の土地に、架空の公園をつくってみた話。

架空の公園ってなんだよという話ですが、大学の課題ですね。

「世田谷区にある公園の敷地に、子供たちの『プレイグラウンド』をデザインする。滑り台やブランコといった遊具を置くのではなく、空間自体が遊具になるようなものを考える。3人での共同制作とする」

という内容でした。ふーん、おもしれー課題。



しかし当然、実際に作るというわけにもいかないので、今回は100分の1スケールの模型を作るというわけです。ジオラマを作る感覚に近いかもですね。

とはいえ、100分の1スケールと言えど結構大変でした。

結構大変? ちがう、めちゃくちゃ大変でした。振り返っていくぞーー。



事前リサーチ

公園を作るためには、まずそこがどういう土地であるか知っておく必要があります。面積、高低差、駅からの距離、住宅の数、などなど。


これが図面です。公園を作るのは緑の範囲になります。ただこれだとちょっと分かりづらいですね。


というわけで実際に行ってきました。
公園に実際に置かれてる案内図です。下の方の黄色で囲ってるエリアが今回の制作範囲です。

公園全体からすると一部分ですが、上の方の野球場と同じくらいの面積ありますね。すげー広いんだ、この公園。



他のエリアは広場など色々ありますが、デザインするエリアには特に何もないことが図から見て取れると思います。実際、草木が無秩序にいっぱい生えているだけで、何もありませんでした。

つまり今回は、この野球場と同じくらいの広さの何もない荒地に遊べる空間を作りたい。ということでデザイナーである自分に依頼が来た。そういう設定の課題というわけですね。




整備されてるエリアはこんな様子です。子どもたちがいっぱいいました。あと何気にかなり高低差がありますね。公園全体が大きな坂になっていました。



さらっと課題文にも書かれていたように、今回は3人のグループで行う課題でした。

写真は同じグループの2人です。グルグル回る遊具の中で、公園内で売っていたシャボン玉をしてますね。MVにできそうだ。


さて、グループ課題というのが、この課題の難しさのひとつでした。しんどいです、班活動。

そもそも美大生なんて基本的に協調性のない人ばかりなんですよ。ほかの同世代がいっぱい人と関わってるなか、絵とか描いてる連中ですからね。


メンバーはランダムで決まるため、ぶっちゃけ、あんまり相性の良くない相手と組むことも有り得るわけです。実際それで上手くいってない班はありました。

普段は仲良い相手でも、チームを組むとなるとその仲の良さがむしろ足枷になったりもします。高校の学園祭準備とかそうですよね。あれで何人の友人を失ったか分からない。



とはいえ今回、僕はクジ運が良かったと思います。2人とも話しやすく、自己主張も配慮もしてくれて、とてもやりやすかったです。(2人が僕についてどう思っていたかは知らない)

そういえばこの2人は両方現役で受かっていて、僕は3浪しているので、同じ学年の同じ班の中なのに、3歳差がありました。でもそれで何か困ることはないし、普通に互いにタメ口です。こういうのは美大のいいところですね。

これはマジで余談なんですけど、藝大に現役で受かる人って、技術に加えて、精神的な成熟性があるなあとよく思います。尊敬する。


公園のリサーチを終えると、まずはこんな具合に意見を出し合いながら紙に書いていきます。

課題を通して、特にリーダーは決めていません。こういうのって決めるのと決めないの、どっちがいいんですかね。いつも対等である相手との間に急に上下関係みたいなのができるのも難しいし、正解が分からない。



話し合いを進めつつ、模型の土台部分を作っていきます。だいぶ傾斜があるのが分かるかと思います。この角度は等高線をもとにしているので、傾斜角などは実際の公園のそれと同じになっています。

この時点でもうそこそこ達成感がありました。これ提出して終わりにしたいです。でもまだ作業全体の5%くらい。



公園をリサーチして着目したのが、木の根でした。

普段あまり着目しないけど、根っこって面白くないですか? 放射状というルールはあるけれど、唐突に曲がったり、太かったり細かったり、地面に潜ったと思ったら出てきたり。

部分的には不規則なリズムなのに、全体で見れば秩序がある。そういう造形が小気味いいなと感じました。



子どもの頃、大きな木の根っこに沿って歩いたり、飛び跳ねたりした記憶があります。当時は歩幅が狭いから、地面に落ちないよう、頑張ってジャンプして飛び移っていました。



これって、作品に使えんじゃね?


根っこの上を落ちないように歩いたり、飛び跳ねたり、そういう楽しさを増幅したアドベンチャーパークみたいなものを作れないだろうか?

それなら根っこは、実際には有り得ないくらい巨大にしてみるとか、一部を宙に浮かせてみるとか。色々とバリエーションが作れそうです。


ということでうちのグループの公園のテーマは、根っこの不思議な面白さ、になりました。


ちなみにこの辺のことはほとんど2人が考えてくれました。頭が上がらない。頭が上がらない、3歳上の同級生。



2人が出してくれたコンセプトを元に、サイゼリヤでもう少し話し合って、具体的なスケジュールや必要な材料を整理しました。サイゼリヤではバッファローモッツァレラが好きです。

今の時点で必要そうなものを画材屋やハンズに買いに行きました。そこそこ値段はします。制作費くらい大学が負担してくれといつも思います。



さあ、ここから激動の5日間が始まるぞ。






1日目

今回はかなりタイトなスケジュールで、他の課題も並行して進んだりしていたので、実際の制作に使える時間が5日くらいしかなかったんですね。グループは全部で15班あったのですが、どこも同じような状況でした。

今日は月曜日。


提出は来週の月曜日の午前中。その日は制作には割けません。土日は大学のアトリエが開かないため作業できません。つまり使えるのは、今日から金曜日までの5日間です。

そして、やはりみな学校の課題が生活の全部ではないので、バイトだったり他の予定があったりもするのです。苦しい。


これが月曜の朝です。

以前作った土台は段差があったので、それをカッターで削ってなだらかにした状態です。あとから全部粘土で覆うので、多少のガタツキは問題ありません。上に乗ってんのは油粘土で試しに作ってみた木の根。



別の図面に、こんな感じかな、って鉛筆で切り株と木の根のスケッチをします。
あくまで、どこにどれくらいの大きさの根を置くかを把握するためなので、細かいとこまでは決めていません。


ここからは樹脂粘土を使って木の根を造形していきます。白くて軽くて、乾くと固くなるやつです。

3人でひたすら造形すること2日間。




2日目

できあがったのがこちらです。


早い。

いや、実際はとても時間かかってるんですが。

今回はマジでスケジュールがやばかったので、途中過程を全然写真に残してないんですよね。プロセスはなるべく残しておくほうがいいんですが、そんなことを思い出す余裕さえありませんでした。みんな手を動かすので精一杯でした。


3人でつくっていたので、公園も3分割しました。僕が担当したのは手前の黄色いエリアです。


拡大するとこんなですね。まだ未完成なとこもあります。


担当した人によって根の造形も少しずつ異なっていますね。これはその人の癖もあるでしょうが、意図的に雰囲気を変えてもいます。その辺は後で話します。


さすがにみんな受験期に粘土はさんざん扱ってきたので、こういう造形はお手の物ですね。だからって楽なわけではないけれど。

写真だけ見てるとあっという間に出来上がっているようにも見えますが、実際はここに至るまでめちゃくちゃ大変でした。3人で作業して約2日かかってますからね。



ここからこれがどうやって公園になるんだよ、って思うじゃないですかー。大丈夫、まあ見てなって。

色を塗っていくぞ。




3日目

その前に一旦買い出しを挟みます。

画材屋に行くと、こういうコーナーがありました。建築模型用の色んな商品が置いてます。建築科の学生なんかからすると見知った光景なのかもしれませんが、デザイン科の僕らにとっては新鮮でしたね。


模型をつくるときこういうのを下に振りまくことで、砂や土っぽい地面を表現するみたいです。粒の大きさも様々ありますね。これ後で使います。


こういう針金をよってやることで、樹木の模型を作るみたいです。




さて3日目の作業風景なんですが、

これしかありませんでした。ほんとに。
制作風景っていうか撮ってもらった僕の写真ですね。自意識が滲み出ている。

木の根を一旦避けて、地面に色を塗っていますね。地面には後からさっきのパウダーをまぶす予定なので、あんまり必要のない作業かもしれませんが、下地として塗っておきました。

下の地が白いと、パウダーが薄いところは隙間から白地が目立ってしまうと思うんですよね。こういう予想も立てつつ作業を進めます。



このあと、3日目から4日目の終わりにかけて、3人でひたすら色を塗っていきました。

この間も、余裕がなさすぎて一切途中経過を撮っていなかったので、次の写真では一気に4日目の終了時点にジャンプします。もうほとんど色塗りが完了してます。準備はいいか。





4日目

これだ!!


地面には下地の色を塗り、根にもしっかりと色が付いてます。エリアによって、なんとなく色味が違いますね。
あと周りには緑色のパウダーをまぶし、草原っぽくしています。疲れたーーーーーー。

この色塗りの作業が一番しんどかったです。
とにかく時間が足りないし、筆でちまちまと細い根を塗るのを何時間も続けていると、感情なくなるんですよ。

「なんでこんなことしてるんだろう、こんなことするために大学入ったのか?」とか考えてました。追い詰められているときの思考は大袈裟。


この時点で4日目の終わり。残された作業時間はあと1日、厳密には9:30にアトリエが開き20:00に閉まるので、10時間半ですね。

しかしここまで来れば、残された工程はそう多くありません。ラストスパート。




5日目(最終日)


針金とスポンジで作った木の模型です。

針金を木の形に曲げて、先端の方にスプレーのりをかけ、細かく刻んだ緑のスポンジをまぶしていきます。唐揚げを揚げるときに衣をまぶす感覚に近いかもしれませんね。唐揚げつくったことないけど。

簡単に作れそうにも見えますが、実際の木っぽく枝を分かれさせるの、意外と難しいんですよね。グループメンバーの友達の建築科の学生に指南を受けたりしました。美術大学っぽい。

ちなみに僕には建築科の友達はいません。僕には大学の友達があまりいません。



こんな具合に植えていきます。どうやって固定しているかというと、両面テープ貼ってるだけです。そんなもんで大丈夫なのです。そう言い聞かせながら貼り付けます。なにしろ時間がねえ。




最終日の、18時ちょうどの状態です。残り2時間!

ほぼほぼ出来上がってます。あとはもっと木を増やして、位置を調整するだけです。




しかし、ここにきて木の材料のスポンジが足りなくなりました。

ちくしょう、あと少しだというのに。

こういうことが起こらないように材料はいつも多めに買うのですが、全てを予防できるわけではありません。

さすがに今のままじゃ木の数が少なすぎてスカスカすぎます。95%出来上がっているのに、残り5%がこのままじゃ詰められない。


しかし、今ちょうど班員の1人がバイトを終え、学校に戻っているところでした。帰りがけに、画材屋に行って買ってもらうよう連絡します。

帰ってくるのは恐らく19時ごろでしょう。残り1時間で枝にスポンジをまぶし、それを取り付け、調整もしなければならない。時間が! ない!!



とはいえ今は待つことしかできない。一旦落ち着かなければ。ふと顔を上げて、あたりを見渡します。


クッソ汚え共通アトリエ。

同級生たちがみな慌ただしく直前の作業をしています。机の上にも床にも素材や道具を散らかし、一心不乱です。

「終わらねえーー!」「あと1時間くれ!」「誰か助手さん足止めしとけ!」

そんな声があちらこちらから聞こえてきます。


締切間際のクソ汚いアトリエ。



こういう時間が大好きだ。

そりゃもちろん、締め切りに追われるのなんて苦しいに決まっているんですが、みんな同じならそういうのも悪くない。

グループ課題といえど所詮は3人なので、アトリエの人はみな各々の制作をしています。自分たちの作品のヤバさ、しんどさ、孤独、そういったものは自分の班員以外とは、理解はし合えても、分かち合えるものではないでしょう。

でも、そういう分かち合えない孤独を抱えている、という点は分かち合えます。そういう時間にドラマを感じます。みんなの必死な顔を見ると心から高揚します。そしておれもそのひとりだ。



「お待たせ!」

と、アトリエの扉が開き、バイト終わりの彼女が帰ってきます。待っていたぜ。その姿はまるでヒーローのようでした。でも最終日にバイトを入れるな。




残り時間を駆け抜けます。




終わったあとは大学のウッドデッキで、彼女がバイト先から持って帰ってきてくれたミスドを、みんなで食べました。どうもありがとう。








提出後、撮影


完成作品です。

きちんと大学の撮影スタジオで、照明をセットし、良いカメラ使って撮ってます。立体作品はライティングをしっかりとするだけで印象が全く変わりますね。


少し引いて、全容を映した写真です。左下のは図書館です。実際の土地にもあるんだぜ。

全体を見ると、エリアがなんとなく赤・青・黄の3色に分かれているのが見て取れるかと思います。これは担当別で、またテーマも少しずつ異なります。


角度をつけるとこんな具合です。


クローズアップしていきましょう。

でっけえ切り株です。
公園全体が斜面になっているので、この切り株の上は遊びやすいよう平地にしました。

黄色っぽいエリアは「くぐる」をテーマにしており、穴の空いた切り株や、宙に浮いてる根の下をくぐれるようになっています。穴の空いてる根は滑り台です。


隙間から内側に入れる切り株もあります。
でっかい木を見上げるのってロマンじゃないですか。


青色のエリアは、「はねる」「わたる」がテーマで、おびただしい数の細い根が這い巡っています。この上を辿って歩いたり、隣の根に飛び移ったりできます。今回の出発点ですね。


この白くて小さい人形は購入したものです。公園全体と同じく100分の1スケールなので、実際に人がいたらこんな感じかな〜ってイメージができます。


赤いエリアは「のぼる」がテーマです。切り株の中に細かく段差があって、上へ上へと登っていけます。実際に作る場合、これらは当然本物の木ではなくコンクリートなどを使ったりするつもりです。


他のエリアに比べてゴツゴツしてますね。実際子どもがこういうの登れるんですかね。知らんわもう。がんばって登れ。



教授の評価は、まあそんなに悪くなかった気がします。ただ改善点もありました。

「造形のクオリティは高いけど、もう少しエリアごとの根っこの表情に違いがあってもいいね。自然な根っこらしさに寄りすぎてる気もするから、もっと楽しみ方を誘導してあげてもいいかも。あくまでプレイグラウンドだから」

そういったコメントをいただきました。なるほど、たしかに。

自然的すぎるので、もっと公園らしく遊び方が分かりやすくてもいいのかも。でも自然さを損ないすぎてもいけないし、難しいな。


ちなみに僕は講評に2時間ほど遅刻しました。(カス)






以上で終わりです。


グループ課題は、個人的にはとても苦手です。

制作の疲労はもちろんありつつ、それに加えて意見の対立があったり、作業量にばらつきが出て、「自分は頑張ってるのにあいつは」なんて思ったり、逆に自分があんまり働いていないとき、そんなふうに思われていたらどうしよう、と怖くなったり。

人に嫌なところも見えてくるし、自分の嫌なところも見えてくるし、精神的疲労が個人課題の数倍に感じます。


けれどそのぶん、感覚が噛み合ったり、お互いがお互いの期待を超えた仕事をしたりしたとき、ひとりでは生まれえない、やはり数倍の感動があるように思います。

メンバーの2人、本当にありがとう。これであれこれ勝手に書いたことは許してもらえるはず。



じゃあまた次の作品で会いましょう。制作は続く。





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