日記小説|新しい国語

私の生きる意味

2021年12月。
私は仕事を辞めた。

職場が遠い、仕事内容が合わない。
理由は色々あるけれど、多分一番の理由は、
生きる意味が分からなくなったからだ。

「このままではいけない」
自分の心の違和感を口にして、なんとなくすがりついてた仕事をやめると、
素っ裸の私が出てきて、私は何がしたいの?と聞いてくる。

私は何がしたいんだろう。
素っ裸の私は、何も持っていなくて、道に迷っているようだった。
そんな私を前にして、初めて、自分の本当の気持ちを押し殺して生きていたということに気が付く。

自分の気持ちを誤魔化し続けて毎日を繰り返していた先には、
自分のことなのにどうしていいか分からなくなった私が待っていた。

久しぶりに長い休みを手に入れた私は、とりあえず実家に帰省することにした。

片を付ける

実家には私の部屋らしい部屋はないけれど、至る所に私のモノが溢れかえっていた。
そんなガラクタ一つ一つにも思い出が宿っている。

こんな人生の節目もなかなかない。
「片付けをしよう」
そう心に決めた。

衣類、本、書類、小物、思い出の品。
正月に見た動画で、片付けコンサルタントが推奨している手順で片付け進めていく。

片付けは、自分の気持ちに「片を付ける」ということ。
「気持ちに、片を付ける」
心の中で繰り返す。

毎回冴えない模試の結果。
毎週末配られた数学の課題のプリント。
終わりまで使われない用途不明のノート。
友達が授業中にこっそり書いた手紙。
受験頑張れ!と書かれたキットカット。

山のように物が溢れかえっていた場所に、空間が生まれ始めた。
この空間こそが私の心の余裕。
気持ちに、片がついてきた。

残ったものを見てみると、今の私にとって、大切なものが見えてくる。

好きだった先生の授業のノート。
駅伝の大会前にチームメイトからもらった手紙。
国語の教科書「新しい国語」。

今も私に力をくれるものは、きっとこれからも力をくれる。
残った思い出を抱きしめて、あたたかい気持ちになった。

「新しい国語」は、10年経っても「新しい国語」だ。
そう思ったら、私も、また新しい私になれる気がした。

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