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それぞれの役割

土曜日のお昼は無性にカレーライスが食べたくなる。

ゾンビが生前で色濃く習慣となっている行為を繰り返してしまう、という説に似ているわたしのそれは、かつて錦町公園の影にあった老舗カレー屋さんの閉店を嘆いてから1年半以上たっても日に日に強くなるだけだった。

きっとこれはこの先どんどん濃くなっていくだろうし、そういう対象のお店は今後増えていくのだろう。「一度すきになったらずっとすき」という性格上、わたしのすきなお店たちはことごとく青春時代をともにした場所ばかりだ。

そして、そういうものを先人たちはたくさん乗り越えて今を過ごしているんだということがよくわかる。きっとその老舗カレー屋さんだってわたし以上に懐古厨をこじらせている常連さんは山ほどいるのだと思う。

そのお店があった場所に1年たらずで別のカレー屋ができていた。英字でかかれた看板には「再現した」と書かれていて、嫌な予感はしたが見た目が少し昔から大好きなメニューと似ていた。

似ていると言ったとてルーの色味も質感もラインナップも全く別物だからお話にならないのだが、「真似して作った」感がバシバシと伝わってくるから厄介なもので。

食べたことないし一生食べることはないから味まではわからないけど。あの愛された唯一無二の味が、1年たらずで再現できるわけがないのだから。

その店の近くを通るたびに悔しい気持ちとそこで食べている人に少しの軽蔑を感じている。そこじゃなくても、駅前にできたネオンのきいてる手書き風の看板とか、名言的な文字が書かれているグラスとか、時代に消費されるだけのコンテンツすべてを嘆いてはかつての名店たちを思い出す。

それでも、どうしても、土曜日のお昼はカレーライスが食べたくなる。


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