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ひとりぼっちと孤独の違い

目が覚めるとすっかり昼間になってしまっていた。昨日は原稿で疲れてしまってぐっすり眠り込んでいたようだった。学生みたいに昼過ぎまで眠ってしまったけど週末だし休みだし、たまにはいいかなぁと思う。

溜まっていた洗濯物を干して掃除機をかけて一息つく。昨日の疲れが少し残っていて今から食事を作る気にもなれなくて一階のカフェモームに行くことにした。昼間に行くと真っ白なカーテンから柔らかい日差しが差し込んで店全体が暖かい空気感で溢れている。夜とは違って明るい曲調のジャズが流れてドアを開けるとコーヒーの芳ばしい香りと、オリーブオイルやガーリックの食欲を唆る香りが飛び込んできて食欲をかり立てるし何よりも笑顔の渚さんが迎えてれて、ほっとするのだ。

ここに住み始めてまだ2週間程だけど、渚さんのカフェは私の中で癒しのスポットになっていた。最近は原稿に集中する事が多くて、ゆっくりすることが出来なかったので私はワクワクしていたのだ。

カランっ
軽やかな音を立ててドアベルが鳴る、いつもの暖かくて柔らかい空間とコーヒーの香りを思いっきり吸い込んで、ため息をついた。
「渚さん、こんにちは。」
「あぁ、七瀬ちゃん、いらっしゃい。」
いつも通り柔和な笑顔を浮かべてコーヒーを淹れている渚さんがいた。もう指定席のようになってしまったカウンターに座りコーヒーとランチプレートを注文した。
「最近、忙しそうだったね。」
「昨日がちょうど原稿の締め切りで缶詰になってました。やっと終わったので息抜きに来んですよ。」
サイフォンからコポコポと湧き上がる音が心地いい。

ふとカウンターの上にある見慣れないお土産らしいお菓子とワインに目が止まった。
「これ、お客さんからのお土産とかですか?」
本当になんとなく聞いただけだった。
「ん?ああ、これは一昨日ももちゃんが持ってきてくれたんだよ。…って、七瀬ちゃん貰ってない?」
「え…っと、貰ってないです。」
「一昨日、ももちゃんがプチ旅行のお土産だって持って来てて、ここの住人をみんなモームに呼んでパーティーっぽいことしてたんだ。」

七瀬ちゃんも呼ぶって言ってたけど、ももちゃんから聞いてない?と聞かれて少し困惑した。最近はずっと部屋にいて原稿をしていたし、一昨日だってコンビニからの帰りに、ももちゃんとすれ違って挨拶をしたのに…。…まぁせっかくお呼ばれしても原稿の締め切りで行けなかっただろうけどそんな話は聞いてないし、少し寂しくなってしまった。

カランと音がして振り向くとリョウさんとももちゃんが一緒に入ってきた。
「こんにちわぁ〜。」
「どうも。」
ふたりともカウンターに座った。
「七瀬ちゃん、なんか久しぶりだね。」
「原稿の締め切りがあって昨日までほとんど缶詰になってたんです。」
やっと終わりましたよ、言うとお疲れ様と笑顔で労ってくれた。

「そうだ、ももちゃん、七瀬ちゃんにパーティーの事言ってなかったの?」
リョウさんにコーヒーと、ももちゃんにアイスコーヒーを出しながら渚さんが聞いた。
「だって七瀬ちゃんと殆ど会ってないし、ももが七瀬ちゃんの部屋行った時にいなかったもん。」
もも、ちゃんとピンポンしたもん!と言われてしまった。
「…もしかしたら締め切り前で集中し過ぎて気が付かなかったのかも…ごめんね。」

呼ぼうとしてくれてたのに気が付いてなかったとしたら私が悪い…よね。
でもそれなら一昨日、すれ違った時に言ってくれもよかったのに。
「それに、ももは拓也さんに七瀬ちゃんに声かけてねって言ったし。」
「へ?拓也さん?」
「うん!だって拓也さんは七瀬ちゃんのお隣さんだもん。」
「うーん、拓也さんとは会ってないから分からないや、ごめんね。」
「そっかぁ。あ、あとでお土産持っていくねぇ!」

そう言われてしまっては色々聞くのもなんだか失礼になりそうで笑顔でありがとうとだけ言っておくことにした。

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