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運命のいたずら

昨日は渚さんと、希美子さんと、拓也さんとリョウさんに会う事が出来て本当に良かった。
少し前まで、失恋と同時に住む場所も失ってしまい精神的にかなり苦しかった。元彼には「もし君が大丈夫なら、そのままここに住んでも良いんだよ。」と言われていたのだけれど、彼との5年間の思い出が染み付いた場所で彼なしに生活するなんて到底無理で、新しい部屋を探したのだけれど不安は付き纏っていたのだ。だけど良い人ばかりが住んでいて安心した。目が覚めて見慣れない新しい天井でも心が落ち着いていてホッとした。

昨夜は、バーでばったりと出会ってしまった為にリョウさんには引っ越しのお土産を渡しそびれてしまった事を話したら明日で良いよっと言ってもらえたので、目が覚めたし、早速行ってみようかなと思う。今日は午後からの出勤と聞いていたのでささっと着替えて手早くメイクを済ませる。少しだけ迷ったけど、希美子さんがアドレスをくれた香水をワンプッシュだけ身に纏って少し照れてしまった。もう恋をする気力はないのだけれど元彼と過ごした時間以外の人間関係が増えたのと、純粋に新しい異性と仲良くなれたのは新鮮で嬉しかったのだ。

手土産を片手に下の階に降りると、真っ直ぐにリョウさんの部屋を目指す。インターホンを鳴らして待っているとリョウさんが出てきてくれた。
「おはようございます。昨日はありがとうございました。これ、昨日話した手土産です…!」
「七瀬ちゃん、おはよう。わざわざ持って来てくれてありがとう。」
オフモードな感じで髪をセットしていないリョウさんは昨晩と違って少し幼く見た。
「おー!これ有名なやつじゃん!食べてみたかったんだよね。すげぇ嬉しい!ありがとう。」
こうやって、にこにこと嬉しそうに笑いながら受け取ってくれると頑張ってインスタでリサーチして選んだ甲斐があったと言うものだ。

「おはようごさまーす!あれぇ〜?」
後ろから聞こえた甘い可愛らしい声に二人して振り向くとゆるく巻かれた明るめのボブヘアと白と薄いピンクを基調とした花柄のワンピースを着た全体的にふんわりとした可愛い女の子が立っていた。
「あぁ、ももちゃん。おはよう。というかお帰りなのかな?」
ももちゃんと呼ばれた女の子がトコトコと歩いてくるパッチリ二重に長い睫毛、少し色付いた頬と軽やかだけど艶のあるリップ。お花が女の子になったら、まさにこんなイメージだろうって感じだった。そんな雑誌から出てきた可愛らしさの象徴みたいな女の子が何故こんなところに?と思っていると、いつの間にか目の前までやってきていた。

「リョウさん、ただいまでぇすっ。ところで…この人誰ですか?」
「ももちゃん、こちらは昨日上の階に引っ越してきた七瀬 日向ちゃんだよ。で、七瀬ちゃん、こっちは俺の隣に住んでる桃井 めいちゃん。」
お互いの紹介の仲介に入ってくれたリョウさんにホッとしながら頭を下げる。
「おはようございます!七瀬 日向です。これからよろしくお願いします。」
「桃井 めいです。ねぇ、私も七瀬ちゃんって呼んでいい?」
私よりも少し高めの甘さを感じる可愛いい声。年はそう変わらないだろうけれど女子力のなんたるかを見せつけられたようだった。

「もちろんです!えっと、私も、ももちゃんって呼んでいいかな?めいちゃんの方がいい?」
「ももちゃんでいいよぉ。リョウさんにはめいって呼んでって言っても駄目って言われるし皆んなからも、ももって呼ばれてるしね。」
少し拗ねた顔をした後にいたずらっ子のように笑う。クルクルと表情が変わってかわいいなと思った。

「リョウさん何持ってるのぉ?」
紙袋に入ったそれを指差して首を傾げる。
「これはね、七瀬ちゃんが引っ越しの手土産でくれたんだよ。」
リョウさんは、袋からお菓子を取り出して、ももちゃんに見せた。
「あぁ!これめちゃ有名なやつじゃん!リョウさんいいなぁーっ!」
その声を聞いて少し困ってしまった。このご時世でこれだけ近隣が仲が良いとは思ってなかったし(今時はクールな近所付き合いってイメージだし)自分の上下、左右の住人分しか手土産を用意してなかったのだ。
恐る恐るその旨を告げてももちゃんに謝る。

「んー。いいよぉ!ももはリョウさんから少し分けて貰うから!」
そう言うとリョウさんの腕に抱きついて笑うももちゃん。
「おい、勝手に決めるなよ!まぁ分けるけどさぁ…。」
仲良さそうに会話をしている二人を見ると昨日、リョウさんと仲良くなれたと思ってたのに距離を感じてしまって少しだけモヤモヤしてしまった。
「ねぇ、七瀬ちゃんも良いでしょ?ももがリョウさんから分けてもらっても。」
「うん。というか私が用意してなかったから、ごめんね…。リョウさんさえ大丈夫ならお願いします。」
「俺はいいけど、七瀬ちゃんから貰ったの分けちゃってごめんね。」

分けてもらったお菓子を抱えて嬉しそうにももちゃんは、はしゃいでいた。

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