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気になる男とのデートは秘密にしなさい

あの後、拓也さんに聞いてみたけど「僕はそんな事聞いてないです。」と言われて困ってしまったけど何とか誤魔化しておいた。
悪気はないかもしれないけどモヤモヤしてしまっている自分がいた。

それでも良い事も起きるのが人生だ。
実はリョウさんの勤務してる美容室の近くに新しく出来たオシャレな本屋があって、仕事の時間までなら時間あるからと一緒に行けることになったのだ。
デート、…ではないかもしれないけど限りなくデートに近いお出かけにワクワクする。

カフェモームでコーヒーを飲みながらリョウさんと待ち合わせの時間まで暇を潰そうと思ってたいると希美子さんが優雅に紅茶を飲んでいた。
「希美子さん、こんにちは!」
「あら、七瀬ちゃん。」
あの香水のアドバイスの後、たまにこうやって会った時に挨拶をしている。あのアドバイス抜群でしたと告げると嬉しそうに笑っていた。
「七瀬ちゃん、最近どうかしら?」
「おかげさまで原稿もいい感じだし今日も嬉しい事があるんです。」
それは良いわねぇと言って希美子さんは優しく微笑んだ後に瞳にだけ真剣な光を宿した。

「七瀬ちゃん、気になる男とのデートは他人には秘密にしなくちゃだめよ。」
ドキっとした。
「女の子はね、気になる男とデートする時はそういうオーラが出てるの。だからデートを成功させたかったら誰にも言ってはだめよ。」
それだけ言うと希美子さんは、いつもの優しい瞳に戻して紅茶を飲んだ。

希美子さんは部屋に帰ってしまい私もそろそろ一旦部屋に帰ろうか迷っていると、ももちゃんがやって来た。
「あ〜七瀬ちゃんだ、ねぇ今日何か予定あるの?」
「えぇっと…うん。今日は少し用事があるけど、どうしたの?」
希美子さんが言ってたことを思い出して、なんとか言葉を絞り出す。
「ううん。なんとなくだよぉ。」
そう言いながらも、じっと大きな瞳で真っ直ぐに見つてきた。
「そっか。えっと、それじゃ部屋に戻るね?」
また今度ね、と伝えてカフェを出て部屋に戻る。

なんとか誤魔化せたかなと安堵しながら、部屋に戻り服を着替えてメイクを直す。鏡で一通りチェックして待ち合わせのエントランスに足を運ぶ。デートではないんだけど限りなく近いようなそれに胸が高鳴る。エントランスはヨーロピアン調の鉄のアーチにツダが絡まっていて良い雰囲気を醸し出している。
先に着いてしまったようでスマホを取り出して、もう一度メイクをチェックして待っていると、足音と話し声が聞こえてきた。

「だから、俺だけじゃないからダメだってば。」
「えぇー!でも、ももだって一緒に行きたいんだもん。」
声の方からベージュのボトルネックにブラックのややロングめのコートとパンツ、キャラメルカラーの優しいショルダーバックでモノトーン気味なのに柔らかな雰囲気に纏まっているリョウさんがやって来て目の保養だと思っていたら、その真後ろから、ももちゃんが着いて来ていた。
「七瀬ちゃん!あのね、私も行くことになったからね!」
「あ、コラ!ダメだって言ってるじゃんか。」

目をぱちくりさせて様子を伺っていると、リョウさんが外出しようとしているところに、ももちゃんがやって来て私と本屋に行くと聞いて、自分も一緒に行くと言って聞かないのだと言う。
「七瀬ちゃんは新しい小説の資料が必要だって言うし俺も新しいヘアカタログが欲しいから行くんだよ。ももちゃんは用事ないだろ?」
諭すようにリョウさんがももちゃんに言う。
「ももだって新しい雑誌が欲しいんだもん!一緒に行っても良いでしょ?ねぇ、七瀬ちゃん!」

力強く聞かれて断るに断り辛くなって良いよと答える。目線だけでリョウさんに謝る。
「ほらぁ!七瀬ちゃんも良いって!」
勝ち誇ったようにももちゃんが笑うとリョウさんがため息をついて仕方ないと言う顔をした。
「わかった。七瀬ちゃんがいいなら仕方ないよ。」
私的にはリョウさんと二人っきりじゃなくて残念なんですけどね、と心の中だけで呟いた。

「あのねぇ、七瀬ちゃんが用事あるって言ってピンと来ちゃったんだよね。デートかなぁって、そしたらリョウさんが七瀬ちゃんと出かけるって言うからさぁ。」
「デ、デートじゃないよっ!」
リョウさんの迷惑にならないように慌てて否定する。
「そうなの?でもデートじゃないなら、なおさら、ももが一緒でもいいよねぇ?」
大きな瞳をキラキラさせて首を傾げながら言われてしまっては、もう同意するしかなくなってしまっていた。

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