こんな日も悪くない
結局、本屋に着くまで3人でたわいもないことをお喋りしながら歩いてきた。それはそれで楽しかったので、まぁいいかと思えた。
着くと、新しくできた大きな本屋さんということもあり見応えのありそうな広さだった。施設中にはカフェやレストランも入っており何時間でも過ごせそうでお気に入りのスポットになりそうだ。
「どうする?各自でみたいコーナーを見てから集まる?」
「そうしましょうか。」
「ねぇねぇ、それならさっき見えたカフェ行こぉ!」
ももちゃんの提案で各自で見たいコーナーを見終わったらガーデンがキレイが施設内のカフェで集合することになった。
「そういえばLINE交換してなかったよね。」
リョウさんの一言でLINE交換とグループを作成した。グループ名はみんな同じ場所に住んでいるのでそのまま「アパートメント(3)」となっている。個人じゃなくてグループだけど連絡先を交換できたのは嬉しかった。
それじゃ、時間になったら集合ねと約束をしてみんなと別れて文学コーナーに足を運んで欲しかった本を探す。流石新しい大きな店舗といったところ、目当ての本も前から探していたマイナーな本もほとんど揃っていてすっかり夢中になっていると後ろから声をかけられた。
「七瀬さん?」
「へ…?」
振り向くと黒縁のメガネをかけて白のセーターに黒のチノパンを着た拓也さんが目を丸くして立っていた。手にはカゴがあり中には専門書のような本が数冊入っていた。
「こんにちは。」
歩み寄って来たので挨拶をする。
「こんにちは。奇遇ですね。今来たんですか?」
私の足元に置かれたカゴには資料と題したたくさんの本が入っている。持つのが億劫になるくらいの重さなので本を探している間は床においていたのだ。それを目に留めて、どうやら結構前からいたんですね、と笑った。
「目当ての本は1冊だったのに色々と見るうちに増えちゃって今少し後悔してます。」
苦笑いしつつ本減らそうかなと呟くと、拓也さんは少しだけ何か考える素振りをすると顔をこちらに向けた。
「七瀬さんってこの後予定とかありますか?そのまま帰るんなら僕、持ちますよ。」
どうせ隣ですし、と続けた。
「あ、えーっと、今日はリョウさんとももちゃんと来てて今からカフェでお茶してから帰る予定だったんです。」
「あー、…そうなんですね。」
少しだけ残念そうな顔をして拓也さんは少し気まずそうにしている。
「えっと、拓也さんさえ良かったらカフェ一緒に行きます?たぶん皆んな集まってる頃だと思いますし。」
「え、突然行ったら迷惑じゃないですか?」
「ううん。皆んなたまたま揃って来てるだけだから。同じアパートなんだし大丈夫ですよ。」そう言うと拓也さんは少しホッとしたような顔になった。
待ち合わせのカフェまで拓也さんと並んで歩く。申し訳ないと断ろうとしたけど拓也さんからの申し出で私が大量に買った本を持ってくれている。その間に早速作ったばかりのLINEグループで皆んなに拓也さんとバッタリ会ったので合流するねと伝えおいた。リョウさんからの了解の一言と、ももちゃんからの可愛らしいピンクのウサギがOKとぴょんぴょん動いているスタンプが来て、私もホッとする。
歳が割と違い事もあるのか、このマンションの住人はなんだかんだで仲が良いのだ。時々アパートの下のカフェで鉢合わせになるとおしゃべりしたりもするし。
そんな事を考えながら拓也さんと歩いていると待ち合わせのカフェに着いた。外から中の様子を伺っていると、既に中に入っていたリョウさんが気が付き、一緒に中で座っていたももちゃんに伝えたようで、ももちゃんが手をヒラヒラと振って、口をパクパクさせて、ここだよ!と言っていた。
カフェの中は大きな窓から入る光と白を基調としたスッキリとした今風のインテリアをしていた。4人掛けの席で先に着いたリョウさんとももちゃんは並んで座っていたので、私も拓也さんと並んで座ることになった。
「こんにちは。突然すみません。」
ぺこりと拓也さんが挨拶をすると、みんな笑いながら迎えくれた。
しばらくお喋りをして各々が買った本を自慢しているとオーダーしたコーヒーがやって来た。一口飲んで案外美味しかった。最近は渚さんの淹れてくれたコーヒーばかり飲んで口が肥えてしまっていたので新しい美味しいコーヒーに出会えて嬉しくなる。
「ごめん、俺そろそろ仕事の時間だから先に行くね。」
既に飲み干したカップをソーサーに戻しながらリョウさんが言った。これお願いと拝むように手を合わせてコーヒー代を置いて、みんなはごゆっくりと言って軽やかに去って行った。
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