マ ユ

賞味期限切れの恋を並べれば愛になる

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七月の詩

梅雨が明けるとまるで世界が生まれ変わったような気がする、春の憂鬱をすべて洗い流すために梅雨は存在しているね。冷房の効いた部屋で夢を見た、塩素の匂いの残る髪を揺らす七月の風、国語の教科書が捲れる音、規則正しい寝息、遠くで聴こえる合唱の声、ぬるくなったソーダの味。僕らの限りある夏が始まろうとしていた日々のことを、思い出していた

    • 鏡の詩

      もしも猫と人間が戦争を起こしたとしたら猫の味方になると話していたきみのことが好きだった。あの人は人の心がわからないんだ、と共通の知り合いがそう言っていた、きみは誰のことも愛していなかった、もちろんあたしのことも。あたしと同じくらいあたしのことを大切にしてくれない人がこの世界に存在していたということが、まるで奇跡みたいに思えて、きみの透き通った背中を必死で追いかけてきたけれど、絶対に触れることができなかった、いつからかそれはあたしのすべてを映し出す鏡に変わっていた

      • 夕陽の詩

        燃えるように真っ赤な空と、僕のこころを映したように黒い影、あした世界が終わる予感がして、そう思えるからきっと夕陽は美しい、きみの手首から流れる星と同じように。きみの影はいったい今どんな色をしているのか、ただそれだけが知りたかった

        • 子猫の詩

          眠れない夜、途方もない道の傍ら、きみの影に照らされて、きみの流した甘い汁を舌で掬って、あたしは生まれたばかりの子猫になった、きみの下であたしは、救われた、夜を越えたのに朝が来ない、午前三時のこと

        七月の詩

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        • 9本
        • 短歌
          1本

        記事

          きみの吐くたばこの煙を吸い込んだら愛の味がした あたしの酸素

          きみの吐くたばこの煙を吸い込んだら愛の味がした あたしの酸素

          路地裏の詩

          車の走る音は、海の音に似ている、無人島にふたり、迷い込んでしまったような気がして不安になった僕は彼女の手をとる、彼女の手はいつだってひんやりとしている、僕はさらに不安になってつよく握る。十二月、今にも散ってしまいそうな銀杏の木を見て彼女は言う、ギリギリのところでくっついているのね、まるであたしたちみたい

          路地裏の詩

          瞬きの詩

          きみが瞬きをするとき、パチンとなにかが割れる音がする、それは僕にだけ聴こえる音。次の瞬間、尖った破片が僕の胸に突き刺さる、息がくるしい、きみが瞬きをするたびに僕は死に近づいていくようだ。きみが僕の腕の中で静かに眠っている時間が好きだった、いっそこのままきみが死んでくれたら僕は、きっとずっと生き続けることができるだろう。光の存在しない天国で、青色の星がきらきらと光っている

          瞬きの詩

          誕生日の詩

          蝋燭の火を殺した瞬間に、おめでとうと言われることへの違和感、人は毎朝生まれ変わっているというのなら、誕生日の意義とはどこにあるのだろうかと、そんなことばかりを考えて歳を重ねていく恐怖。海はどの場所から見ても同じような景色だから安心する、そんな人間に、あたしはなりたかった、永遠がこの世でいちばん美しいことを知っていた

          誕生日の詩

          恋の詩

          月が綺麗だと呟くきみの横顔が、世界でいちばん綺麗だったことを、きみではない誰かに、月が綺麗だと言うたびに、思い出すのだろう。だとしたら、あたしはこの先、一生、月なんて見たくないと本気で思った、月はいつだって綺麗だった、そばにきみがいてもいなくても、他の誰といても、綺麗だった、月が憎い、紛れもなく恋だった

          紫陽花の詩

          あたしは紫陽花のようだと、きみは言った。それならあたしは、六月の、けだるく重たい空気のなかで、きみの流した涙を、一粒も残さずにぜんぶ吸収するね、そしてそれは、あたしが生きていくための養分になる。

          紫陽花の詩