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誕生日に食べたペリメニ

誕生日を迎えた夜、友人と夕食を食べた。
ソーセージやパテなど、ワインに合う肉料理を提供していただけるお店で、身も心も満足する時間を過ごした。

その中でも印象的だった料理が、ディルのペリメニである。
ディルと鹿肉の風味が程よく合い、ワインがすすむ至福の美味しさ。
このロシアの水餃子であるペリメニを食べながら、私はかつての思い出を振り返っていた。

当時12歳程度の子供だった私は、自宅の本棚からあるレシピ本をふと取り出した。自分好みの味を探求でき、未知の料理に出会える料理に興味を持ち始めた時分である。
手に取った本は、入江麻木さんの「お料理はお好き」だった。入江麻木さんは、先日亡くなった小澤征爾さんの妻、入江美樹さんの母である。
入江麻木さんは、ロシア貴族の末裔と結婚し、料理が得意だった義父から多くのロシア料理を学んだ。
何日も煮込んで作るデミグラスソースや水を使わずお野菜の水分だけで作るミネストローネ…決して手軽とは言えない、手間のかかったレシピが多いけれど、どれも美味しいレシピばかりだった。
このレシピ本の特徴は、レシピだけでなく小さなエッセイが記されていることである。当時のロシアでの舞踏会でのマナーなど御伽噺のようなエッセイが多く、所謂多感なお年頃といわれる時間を過ごしていた自分にとっては、日常から異なる世界への入り口のような役割を果たした。とても思い出深い本の一つである。

前置きが長くなってしまったが、この本の中にペリメニのレシピがある。
料理もおぼつかない頃に、生地から手がけて、手間も時間も余分にかけながら作った記憶がある。やっとの思いで作り上げたペリメニは、湯気の中で皮がツヤツヤと輝いていた。その様子は今も忘れられない。もちろん、そのお味も。普段食べる餃子とは違ったずっしりとした重さのあるお肉に、すぐに満腹になり、その日も満足した夜を過ごした。

何年も経った後の誕生日に食したペリメニも、初めてペリメニを作った夜も、これからの人生に彩りを加える要素の一つであり続けるだろう。一つの料理を介して、思いを馳せるのもとても楽しいものだ。


2024, pastel pencil on paper


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