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連載小説•タロットマスターRuRu

【第四話・占いの夜】

部屋に戻った琉々は、冷えたスイカを、キッチンで一口大にカットして、お皿に盛りつけた。リーディングで使う部屋とは別に、小さなダイニングスペースがある。簡単な料理なら、ここできるのだ。幼い頃は、祖母がよくお菓子を振る舞ってくれた。

使いこまれたダイニングテーブルに着いて、スイカを口に運んだ。みずみずしく甘いスイカが口の中に広がり、身体に染み込んでいく。先程の外の暑さがスッと溶けていくようだ。ゆっくりと味わい、身体の熱を冷ます。

「さてと…」
食べ終わった琉々は、着替えへと向かう。通勤用の服から、少しゆったりとしたワンピースへ着替えて、お客さんを迎える準備へと入る。強かった西日は沈みかけ、空は夜の色が混じったグラデーションへと変化していた。

「さぁ。皆、今日もヨロシクね」琉々は、積み上げられたカードの箱たちに向かって話しかけた。シャンデリアの灯りを付けると、部屋の中が優しい色に包まれた。続いて、テーブルの上の蝋燭にも火を点ける。ゆらゆらと揺れる炎は、心を落ち着かせてくれる。

琉々は、お客さんにはなるべくリラックスしてもらえるよう、空間を整えることにしている。実際、この屋敷の中はタロットや占いというよりも、まるでリラクゼーションサロンのようである。

心地よい空間に整え、リラックスしてもらえることで、相手の深層心理まで掘り下ることができるのだ。そのため、ここに通っているお客さんの満足度はとても高い。リピート客が多い理由である。

琉々が、蝋燭の炎を眺めていると、コンコンとノックの音がした。
「はぁい」返事をしながら足早にドアへ向かう。ガチャリ、と内側からドアを開けると、グラデーションの空が見えた。陽が落ちて、外は少し暑さが和らいでいる。

「こんばんは。いらっしゃいませ」
琉々は大きな目を細めて笑顔でそう言うと、客を中へと招き入れた。週末の長い夜の始まりである。


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