![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/102325296/rectangle_large_type_2_b6182034be9db95dedde553e7f3dca03.png?width=1200)
連載小説・タロットマスターRuRu
【第十三話・本音と導き】
「あら、言えたじゃない」
分かっていたかのように、サラリと琉々が言ったので、丘咲は不思議そうな表情で、琉々の顔を見た。
「言ったでしょ?転機だって。この機会に、自分の気持ち、願望に素直になってみてもいいんじゃない?人生まだまだこれからなんだから」
トントンと、人差し指で真ん中のカードと指しながら、琉々が優しい口調で導く。
「ここね、現在のカード。ピッタリのが出ているわ【THE FOOL】愚者って意味だけど、カードをちゃんと見てね」
琉々が【ザ•フール】と言ったそのカードの真ん中には一人の人物が描かれており、小さな荷物を担いで空を見上げている。背景には太陽が輝き、側には一匹の犬がいる。
「このカードの数字は0でしょ?つまり、何もない、ニュートラルな状態なの。この小さな荷物を持って、自由にどこへでも行ける。新たなスタートだったり、可能性を指す意味もあるわ」
丘咲は、カードをじっと見つめている。何も言わない。沈黙の中、応接スペースの時計の音だけが聞こえた。
「うん…うん。俺、こうなりたかったんだ。でも、まだ行き先が見えてない」
沈黙を破って、丘咲はポソっと呟いた。
「それは、急がなくてもいいのかもね」
琉々は右のカード…現在のカードを、丘咲の方へスッと差し出した。【PAGE OF PENTACLES】そのカードに描かれているのは、男が星の入っている球体を両手で持っている姿であった。
「ペンタクルのペイジよ。これもピッタリ」
「ペンタクル?ページ?」
当然、丘咲にはなんの意味か分からない。
「そうね…今のあなたの状況からすると…これから何か興味のある分野を学んでといいかもしれないわね。コツコツと積み重ねることで、いい知らせや、いい成果が得られるかも。ほらこれ、両手で持ってるのがペンタクルよ。これは、成果物を表しているの。簡単に言うと、お金だったり成功だったりね。今、仕事とは関係ない事で気になっている事や興味のある分野はある?」
急に話を振られて、丘咲は困惑した様子だ。腕組みをして、深刻な表情で考え始めた。
「興味のある分野…うーん」
斜め上を見ながら呟く。その、馬鹿正直な姿を見て、琉々は少し可笑しくなった。笑いを含んだ声で言う。
「いいのよ…急な事だし、見つからないなら、ゆっくり探すといいわ。無理に捻り出すものじゃないしね。数日経って、急に思い付いたり、出会いがあるかもしれないしね」
「え…うん」
丘咲は、笑われている事が、不本意なようだ。琉々は、持ち直して補足する。
「まぁ、なんにせよ、道は拓けるわ。カードの足元を見て。穏やかな草原でしょう?ゆったりと進んでいけばいいんじゃないかしら?失業保険だってあるんでしょう?現状に囚われず、焦らないでね」
「う…うん」
丘咲は、まだ少し不安なようではあったが、琉々の言葉に、小さく頷いた。
「今、三枚のタロットカードでサクッと視たんだけど、もう少し、アドバイスを貰ってみようかしら」
すぐさま琉々は、たくさんのカードの箱の中から一つ選び出して、慣れた手つきで箱からカードを取り出した。さっき使っていたカードよりも大きいサイズだ。琉々の小さな手で操れるのか、丘咲はどうでもいい事が気になった。
琉々は、さっきと同じ手順で、カードにノックをしてからシャッフルをした。丘咲の心配は無用であった。
先程と同様に、流れるような動作でカードを操る。彼女の手の中で、魔法のようにカードが活き活きと動いていく。素早くシャッフルを続ける琉々の両手から、一枚のカードが飛び出した。どうやら、カード同士がぶつかり、跳ねて出てきたようだ。
「あら、これだって」
ひとつも動揺せずに、ニコッと笑って、琉々は飛び出した一枚のカードを拾った。それをくるりとひっくり返し、絵柄が見えるようにしてから、丘咲の前に置く。
さっきのカードとは絵のタイプが違い、キラキラと光を放ったような、綺麗な画風だ。【Protection 】というカードである。キラキラの光以外にも、三日月が輝いている。丘咲は英語の意味を、頭の中で日本語に変換してみようと試みたが、すぐさま琉々がカードの意味を説明し始めた。
「やっぱり。とことん似たようなカードがくるわね。プロテクション、今は安心して休むといいわ。気持ちも身体もリセットして、今後の新たなスタートに備える時よ。大丈夫。あなたという存在は、ちゃんと守られているんだから。頑張らなくてもいいのよ。休んでいる間に、何かアイデアが出てきたり、新しい分野や、人との出会いがあるかもしれないわね」
「頑張らない…?」
丘咲が、不思議そうに返した。
「そう。頑張らないの」
琉々が、間髪入れずに答えた。
「力が入っていたら、いいアイデアは出てこないし、いい決断もできないわ。今、私がカードを引くのを見てたと思うけど、自分のペースで、自然体でいることで、自分のオリジナリティや実力が出せるものよ。人生もそうよ。何かをしよう、何かしなきゃと思って頑張っちゃうと、動きが固くなっていい仕事ができないでしょう?そんな時に、いい流れなんて来ないわ」
「……た、確かに」
「だから、今のあなたのように、大きく状況が動いている時は、なるべくリラックスして、心身共に良い状態にした方がいいの。チャンスが来た時に、タイミングよく掴めるように。今は、準備をする期間にするといいわ。仕事探しでジタバタするのは厳禁よ」
「で、でもゆっくりしてて、もし、そのチャンスってのを逃しちゃったら?」
「それは、あなたにとってチャンスじゃなかったのよ。もしくは、もっといいチャンスがあるかもしれない」
琉々は、相変わらず落ち着いた様子で即答する。
【続き・第十四話】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?