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二次創作のキャラクターを魅力的に書くためには?

Q.二次創作で、メインになる二人のキャラクターではなく、その話では脇役になるキャラクターの書き方に困っています。その話では脇役や悪役のような位置に据えることになっても、原作ではそうではありません。原作のそのキャラが大好きな人から見て、引き立て役のようで不快になってしまわないか……と思うと不安になります。

A.貴方はそのキャラクターのことが好きですか?

自分が好きでないキャラクターであれば、「そのキャラクターがすごく好きな人」から見たものとまったく同じ感性で書けるとは限らないだろう。あんまり好きじゃない、どうでもいい、なんて思っているキャラを、情熱を傾け毎日萌えている人と同じ視点で見るのは誰だって難しい。では、どうすれば良いのか。
貴方なりの「そのキャラの好きなところ」を見付ければ良いのだ。
原作を一読しただけではあまり興味を持てなかったキャラでも、たとえば設定資料集には裏設定や嗜好についてなど、詳しい情報が載っているかもしれない。それを見たら興味が湧いてきた、ということもあるだろう。キャラのファンがどんなところを好きなのか、SNSで検索してそのキャラを好きな人たちの萌え語りを眺めてみるのもいいだろう。もしかしたら自分の知らなかった意外な切り口で物語を楽しんでいる人に出会えるかもしれない。投稿サイトで、そのキャラをメインにした二次創作を読んでみるというのも良い方法だ。萌えとパッションを顔面に投げ付けてもらえば、理屈ではなく体でそのキャラの魅力を理解出来るかもしれない。新たな沼の入り口が開く場合もあるが、それはそれで幸福な出会いである。
これは「続・読者の心理を動かす小説の書き方とは?」で紹介した「思考回路モデル」の作り方に似ている。そして、「貴方がその小説で『書きたいもの』とは何だろうか?」で紹介した「敵の属性をリサーチする」ということでもある。
『そのキャラクターのファン』という架空の、ふわっとした人格を想定して、その人がどんな風に考えるかをシミュレートするのだ。なんなら脳内で勝手に名前を付けてキャラにしてしまってもいい。どんなノリやテンションで、どんな二次創作を好み、キャラのどういうところに萌え、どんな風に原作の世界を捉えているのか。年齢層は、普段小説を読むのかイラストや漫画が中心なのか、書き手が多いのかそれとも読み専が多いのか、イベントや本を重視するのかweb中心なのか。
ここまで考えれば、その人が読みたい、好きだと思うような「そのキャラ」の書き方がふわっとながら浮かんでくるはずである。

「キャラsage」にならないために

たとえば
「両片思いのA×Bの話で、二人の仲を邪魔するように見えるCがいる。これは結果的に誤解で、二人のことを友人として大切に思っている、というCの後押しによって二人は気持ちを伝え合うことに成功する」
という構想があったとしよう。この話の中でCは、途中まではあまり良い役割には見えないだろう。いわゆる「当て馬」としてCファンから不興を買うのではないか、というのが質問者さんの懸念だろうと思う。こういうのを、現代の創作スラングでは「キャラsage」と表現することがある。キャラクターの人間的な魅力を損なう、キャラを「下げる」という意味だ。場合によっては公式でも起こり得る事態であり、公式のコンテンツで「キャラsage」が起こるとファンの間で議論が紛糾することもある。特にアニメ化される際、アニメのシナリオ独自の展開に合わせて原作とは違う描写をされるキャラや、シナリオライターが多数参加しているソーシャルゲームなどのジャンルでは起こりがちな悲しい事件である。
そして、大勢のアマチュアが趣味として参加する「二次創作」でもよく起こる。これを避けるためにはどうすれば良いだろうか。
答えは簡単だ。
心の中に「Cのことが好きでたまらない人」という架空の人格を置き、目を光らせていてもらえば良いのだ。ざっと話を書いてみて、架空のCファンに心の中で「どう? Cが好きな人から見て嫌じゃない?」とチェックをお願いすればいい。というとイマジナリーフレンドと遊んでいる寂しい人のようだが、これは何もおかしなことではない。貴方が「まだ言われてもいないCファンからの不快そうな反応」というものを想定しているのと、メカニズムはまったく同じだ。
そう。貴方は既に「自分の作品を読んでくれるCが好きな人」という架空の人格を脳内に持っている。持っていなければ「不快にさせてしまうかも」と不安になることなどない。何も考えずにどーんと作品をアップして、それがたまたまCを好きな人の目に留まり、そのCファンが言ってくれて初めて気付く訳だ。CファンがA×Bの作品を読むかどうか、などということは誰にも分からない。偶然読むかもしれないし、読まないかもしれない。だが貴方は「読んでくれる」という想定をして不安がっている。なら、その脳内の不安のもとにチェックしてもらえばいいだけなのだ。
貴方の脳内のCファンは、どんなCが好きなのだろうか。Cの魅力はどんなところだと思っているのか。Cがどんな風に書かれていると喜ぶのか。きちんと想定した上で自分の書きたいものを書けば、少なくとも何も考えないよりは余程Cの魅力を表現出来る作品になることだろう。だが、いくら努力したとしてもこの世に絶対はない。偶然の不幸な事故によって、貴方の作品を読んで「当て馬じゃん!」と思うCファンが絶対にいないとは言い切れない。それでも貴方は、Cを素敵なキャラとして書いてあげたいだろうか。努力しても無駄になるかもしれないと分かっていて、その話ではメインのキャラクターではないと分かっていて、それでもCのことを悪く思ってほしくはない、と言えるだろうか。
言えないならそれでもちっとも構わない。自分の身を守りたいだけだ、炎上なんかしたくないだけだ、というならそれもまた人類の当たり前の心理である。だが、我が身可愛さゆえの描写であれば、それはきっと心底Cに惚れ込んでいる人を納得させるものにはならないだろう。貴方自身が、貴方なりにCのことを好きになり、Cの魅力を書いてあげたいな、と思わなければ。貴方の中にわずかであっても「Cが好きだな」という気持ちがなければ、同じキャラが好きな人には響かないだろう。どんなに素晴らしい技術のある小説書きでも、プロの作家でも、ないものは届けられないのだ。

「キャラ崩壊」にならないために

例として「両片思いのA×Bの話で、二人の仲を邪魔するように見えるCがいる。これは結果的に誤解で、二人のことを友人として大切に思っている、というCの後押しによって二人は気持ちを伝え合うことに成功する」というあらすじを挙げたが、たとえばこれが、
「両片思いのA×Bの話で、二人の仲を邪魔するCがいる。Cの邪魔にもめげずに二人はくっつく」
だったらどうだろうか。Cがどんなキャラなのかによって変わるが、もし原作で「誰とでも分け隔てなく明るく接する」というキャラなのであれば、このあらすじではCファンにとって良いCとは言えないものになるだろう。明るくて優しいキャラのはずなのにな、仲良しな二人の邪魔をするような人じゃないのにな、という気持ちになる人もいるかもしれない。いわば「キャラ崩壊」と呼ばれるような作品だと思う人も出てくるかもしれない。

逆に、もし原作のCがクールで仲間にも辛辣、あまり人と関わりたがらないようなタイプのキャラであれば、上記のどちらであってもCファンから見れば「キャラ崩壊」である。この場合は、
「両片思いのA×Bの話で、二人の仲を邪魔するように見えるCがいる。これは結果的に誤解で、お前らのことなんか興味がない、好きならさっさと勝手に玉砕して来い、というCの言葉でAが告白を決意する」
などのあらすじに変えた方が良いだろう。小説を書き慣れた人であれば、Cが辛辣なキャラクターを維持したまま二人の仲を取り持つような位置に不本意ながらも据えられる、本人もそのことを不満がっている、などのギミックも使えるだろう。この話、むしろゴリラが読みたい。辛辣な推しで書いてほしさがある。

終わりに

いかがだろうか。貴方自身がABのオタクだったとしても、その他のキャラが全員眼中にないということはまあ、そんなにはないだろう。カップルとしてABが好きでも、原作で出てきたCのこのシーンが好きだとか、DとCの友情は可愛いとか、EがCの話を聞いてあげるシーンが好きとか、そういう色々な萌えがあるはずだ。人類の体は一つなので、二次創作としてAB以外のキャラをメインに書くことはないかもしれない。だが、脇役として出すとなればそれはチャンスだ。
「二次創作ではあんまり書いてないけど実はCのこういうところが好きで……!」
「普段言わないけど原作の○○話のD、すごくかっこよかった!」
「AB主食だけどCとEがギャンギャンやってるの最高に好きです」

などの気持ちを、ちらっとでも表現する機会が貴方の目の前にある。もし原作を読んだ時には気にならないキャラだったとしても、書こうとして調べたり他人の二次創作を読んでみて、理解が深まり好きになることもある。今まで興味の持てなかったキャラを好きになったことで、これからはより深く原作の世界や描写を楽しめるかもしれない。原作をかいている作者だって、プロとはいえ一人の人間で、作家だ。自分の生み出したキャラクターたちを、世界を、より好きになって楽しんでもらえればきっと作者も嬉しい。良いことずくめである。沢山のことを考え、思い、悩みながら、是非貴方も貴方の頭の中の誰かも納得する、素敵な作品を作ってほしい。

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