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短編詩的小説、「小さな世界」

 泣き出しそうな夕日が私をみてる。
 私はどこにいるのだろう。


そこは病院、いつもの時間。もう余命とかなんとか疑わしい医者の発言で元気のない妹がベッドで泣いてる。説得力だけは定評のある私の「大丈夫」を繰り返す。

そこは私の家、いつもの時間。父が夕刊を読み、バッハを聴きながらそれ以外何も関心ないかのように、そこにいる。座ってる。

そこは学校のアトリエ、いつもの時間。友達がシャツの袖から、ほんの少しの油断でみせた、リストカットの跡、笑いながら気がついてない。

そこは公園、いつもの時間。タバコふかして、ブランコに座りながら、夕日が落ちるのをみてる。

そこは、天国?極楽?いつもの時間。私は歌を歌っている。親友とカラオケをしている。

そして、夜、昼、朝、夕方、黄昏時は逢魔時、と呟く学校からの帰り道。

そこは死にたいという人間は沢山いるし、生きていたいと願う人間もたくさんいる。そんな世界の組み合わせ。

夕日が、眩しい。私は西陽が大嫌い。  



あの頃、夕日はいつも泣き出しそうだった。
私は必死で、それを書き起こし、小さな世界、小説を書いた。

でも、読んだ人は皆、「何が言いたいのかわからないよ」といっていた。

だからその世界は最後、私のなかの小さなナイフになった。

そのナイフは今も心の片隅にある。

過去の誰かといつも繰り返す会話、繰り返し繰り返して、今日を終える。

夕日なんてもう見ない。
夕日なんてきっとまた泣き出すんだろう。

誰もそんなこと、気にしない世界で。


終わり。


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