見出し画像

映画『愛しのアイリーン』

切ない国際結婚の話だろうと高をくくって見たら、終盤には息が詰まる。たかだか2時間弱だが、ぶっ通しで観れなかった。本当に誰にも勧められない1作。序盤はギャグ感が強いが、後半は身近な気持ち悪さをコマ割りで見せてくるような不安。バッドエンドなのかわからない。ただとにかくリアル。

・閉鎖的な田舎暮らしの中年男性に対する周囲の期待。そこそこの年齢になると、結婚して家庭を持ってこそ一人前に扱われる。40代独身ともなると周りからとやかく言われるのも想像の範囲内。東北弁でところどころ会話が聞き取れなかったりするのも不安を駆り立てる要素の一つ。自分勝手な性衝動を押し付ける岩男ほんとうに心の底から気持ち悪い。愛と性と金の区別ない恋愛童貞の汚さを見せつけられる。自己紹介の際に、言葉の壁以前にコミュニケーション能力の低さと判断力の無さに呆れた。


・貧困な田舎暮らしの息苦しさ。部屋・風景の既視感。転がったコンビニマンガ、数十年前からそこにあるような古い家具、めくれた畳、万年床。田舎の貧困地域のどこかで見たことのある景色。

・農村の母親のエゴ。老後の面倒を見てくれる子供と孫の顔が見たい。自分が命をかけて産んだ子だから、絶対に幸せになってほしい。その代わりに誰かが犠牲になっても構わない。そんなエゴの部分が見え隠れしていて居心地が悪い。終始自分勝手な母親だった。

・言葉の壁。岩男母とアイリーンの母国語で悪口を言い合うシーンには、お互い100%の悪意で言葉をぶつけているのに伝わらない歯がゆさがあった。視聴者は字幕でアイリーンの言葉が理解できるが、その一切合切が母親に伝わっていないのがわかる。

・嫁不足の現状。原作マンガの連載がスタートした1995年の農村の嫁不足がリアルに表現されている。フィリピン、中国、東南アジア諸国から嫁を連れてきて跡を継がせる打算的国際結婚が取り上げられ始めたのもこの時期から。農作業がつきものになる農家に嫁ぎたい日本人女性が居なくなって、その穴を埋めるために海を渡って買われた貧困層がいる。


Tiktokで国際カップルを脳死で眺めているだけじゃ見られない世界観がここにあった。農家の長男には気をつけろ。


この記事が参加している募集

眠れない夜に

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?