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【ネタバレ】ハイスコアガール

2016年07月12日01:50



登場人物紹介

 大野さん
 15歳。かわいい。ゲームが上手い。TRPGは地蔵でマンチ。
 僕
 36歳。大野さんのTRPG友達。大野さん卓ではGMをやることが多い。
 僕の友達
 36歳。大野さんと付き合ってるっぽい。TRPGは上手くない。GMはできる。
 ジェシー・ユーシャー
 23歳。ハリウッドスター。

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 大野さんがアメリカへ留学したため、しばらく連絡を取ることもなかった。
 彼女が日本の高校に進学することになり帰国してきたので、再び一緒にTRPGを遊ぶことになる。
 僕の友人は、大野さんが小学生を卒業するくらいから漠然と付き合っているっぽい雰囲気になっていたが、彼女が渡米してからは連絡を取っておらず、久しぶりに再会するもぎこちない関係が続いている。
 その友人は、僕がGMをする大野さん卓には参加していない。
 TRPGに、そういった人間関係を混ぜるのは嫌だった。

 いつものセッションの帰り道。
 大野さんを最寄駅まで送るため歩道橋を歩いていた。
 横には並ばず、先行する彼女から少し離れた後ろで追う形だ。
 ビルの谷間には沈みかけた太陽が歩道橋を赤く染めていて、暗い衣装のシルエットを際立たせている。
 後姿の彼女との会話はない。
 無口な彼女は無口ながらも目や表情で訴えてくるものだが、送っていくときはいつもこんな具合だった。
 後姿から目を外し、歩道橋から見渡せる風景の何かに気をやっていると、大野さんも同じ方向の同じ何かに視線を移していた。
 こういうシンクロはよくある。
 車通りはあれど、人通りは少ない。
 土日のこの時間には機能を失っているビジネス街に、僕たちのTRPG会場はあった。
 見慣れた風景への空想を切り上げて、すぐに後姿に目を戻す。
 立ち止まる大野さんの、夕日に染まる頬がわずかに後ろから覗けた。
 いつも通りのこの雰囲気に悪い気はしない。
 名残惜しむ気持ちを雪ぐ時間は、これくらい淡いものでいい。
 僕と彼女の距離感は、全く近くはなく、決して遠くもなく、適切で健全だった。

 大野さんに招かれたパーティでのこと、彼女からジェシー・ユーシャーというハリウッドスターを紹介された。
 さすが富豪の令嬢、住む世界が違うぜと思った。
 ジェシー・ユーシャーは彼女に熱を上げているのが丸わかりで、僕はそれを嫌悪感むき出しで笑ったものだけれども、彼には僕が見えていないようだった。
 その時は大野さんの意図が全く分からなくて、僕にこいつをどうにかして欲しいのだろうかと考えたものの、そんなナイト気取りの真似は、大野さんと付き合っている僕の友人が適役だろうと考えるのをやめたのだった。

 そんなことを思い出しながら、十分な時間をかけてすぐ後ろまで追いつくと、彼女がこちらに視線を投げてきた。
 思考がシンクロすることはよくある。
 いま、改めてジェシー・ユーシャーのことを話題に出してもいいのだろうか。
 躊躇が嫌な空気を生み出した。
 そんな剣呑な空気を振り払うという意図も感じさせず、大野さんは再び正面を向いて歩道橋の下り階段へと歩きだす。
 僕は立ちつくしてしまった。
 自分の年齢も忘れて、20歳も年下の子との距離感を見失ってしまっていた。
 不甲斐ない友人へ発破をかける役割を僕に求められているのか。
 外部の大人として単純に頼られているのか。
 それ以外の意図があったのか。
 そもそも僕の友人よりも、ジェシー・ユーシャーの方が大野さんにお似合いな気がしてしまっていて、もうそれでいいじゃんという、そんな投げやりな気持ちもある。
 大野さんの気持ちはどこを向いているんだろうか。

 自問を繰り返しているうちに、随分と先を歩く彼女との距離が開いてしまっていた。
 距離を埋めるべく走り出したい気持ちはあっても歩みは重い。
 美少女とTRPGで遊べていればいいじゃんという純粋な気持ちに、不純な人間関係が混ざり込むと足も重くなる。
 夕日は沈み、辺りは白色ライトが色めきはじめていた。
 ハイスクールガール6巻を読めばもうちょっと大野さんについて何かわかるかもしれない。
 発売日は7月25日のはずだ。
 もちろんジェシー・ユーシャーは登場しないだろう。
 僕と大野さんがTRPGで遊べるのは夢の中だけで、そもそもそんな稀有な夢をみれる機会はなかなかない。
 とりあえず気持ちを切り替えて、歩道橋の階段を下る彼女を追うのだった。

 そんな夢を見ました。

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