花束を貴女に
Mさんには彼氏がいた。イケメンとは言えないが誠実で笑顔の素敵な彼で、毎年記念日には家までキキョウの花束を渡しに来てくれた。
付き合って4年の記念日の朝、彼氏から電話があった。
「大切な話があります。今晩会えますか?」
緊張した声色で分かった、きっと私はプロポーズされる。喜びと緊張を抑えながら了承し、そのまま仕事にでかけた。その日は一日仕事に手が付かなかった。
仕事が終わり、家で彼からの連絡を待った。初めのうちは何かサプライズを考えてくれてるのかと、楽しみに待っていたが、23時になっても彼から電話一つすらない状況に少し不安を覚えた。
思い切って電話をかけてみても全く繋がらない。彼の家に行くかも迷ったが、結局そのまま眠ってしまった。
真夜中の電話、棺桶の蓋を開けても布で見れない彼氏の顔、彼の母から渡された婚約指輪、悲しみが多すぎてそこからの記憶は断片的にしかない。
仕事を辞め、実家に帰ってから塞ぎ込む日々だった。そんな中で5年目の記念日になるはずの朝、目を覚ますと枕元に花束が置いてある。目にした瞬間に涙が溢れた。キキョウではないが、彼がいつも買ってきてくれていた花屋のラッピングだ。包まれている花はアングレカム、花言葉は「祈り」だ。彼は私の幸せを祈り続けてくれている。そう考えるとなんだか元気が出た。
「それから毎年記念日には枕元にアングレカムの花束がおかれてるんですよ」
嬉しそうに話すMさんを見て、僕はなんとも言えない気持ちになった。
アングレカム
花言葉:祈り、永遠にあなたと一緒に
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