東北新社の評価額を考える

(2024年8月9日に1Q決算が発表されたので、以下一段落を追加しました)
ポストした翌日に発表された東北新社の1Q決算(6月末時点)で、今期営業利益予測が2,163百万円、現預金50,896百万円に更新されました。このポスト中盤で出した計算では、不動産を簿価で試算した場合、885億円ほどの評価額(単価631円)と書きましたが、これは24年3月末時点の現預金45,710百万円+4,141百万円(スターチャンネル売却益確定分)=49,851百万円、営業利益2,678百万という前提での試算でした。改めて更新された数字で計算すると、現預金が+1045百万円、営業利益5年分が-515*5=-2575百万円で、トータル-1530百万円、885-15で870億円(単価620円)という数字に修正します。以下、オリジナルの部分については修正しないので、ご了承の上ご覧くださいませ。


中央経済社の話が出てこなくて恐縮ですが、富士ソフトのMBOが発表されましたので、先にこちらをポストしておきます。

はじめに、ディスクレーマーは以下のポストに記載の通りでお願いします。あくまで個人の意見を書き散らかしているだけで、投資助言等ではないし、なんら責任を持てるものではないことをご了承の上、ご覧ください。

以下、本編です。

既報によると、3Dインベストメント・パートナーズ(以下「3D」)「が」東北新社側に対して600-650円というレンジでTOBを提案したということです。(3Dが買う側)

この評価額ですが、シンプルに考えたら「3Dが転売して利益が出る金額」でしょう。投資ファンドは慈善事業では無いからです。

もっとも、転売とは書きましたが、現金化しやすい不動産・政策保有株式がメインで、事業に関しては逐次売却では、と考えています。

ただ、正直言うと、3Dは富士ソフトのMBOに関わっているKKRのように、企業買収して再上場まで保有するタイプのファンドではないと思っていましたので、今回の提案は若干違和感を覚えた部分もあります。3Dは、過去に東芝や焼津水産化学工業にも投資していました。現在は富士ソフトをはじめとしてサッポロホールディングス株式会社・株式会社西武ホールディングス・東邦ホールディングス株式会社・株式会社ワコールホールディングスなどに投資していますが、いくつかの提案資料を読む限り、基本的には「3Dが買う」のではなく、「経営陣もしくは第三者によるTOBを通じた3D保有株式の買取」で終わっていることが多かったように思います。先ほどの記事には、「3Dは非公開化の提案理由として、東北新社が企業価値を向上させるには、『3Dが過半株主として経営陣と一体となって大胆かつ迅速に経営していくことが有効な手段との考えるに至った』と説明。」と記載がありますが、過去に3Dが関わった企業で、過半数の株主として長期保有・経営までしていた実績は見つけられませんでした。

ちなみに、上記の投資戦略について非難する意図は全くありません。私も中央経済社の大株主ではありますが、TOBを実施して経営権を握りたいという考えは全くなく、企業側とのエンゲージメント(というか株主提案)を通じ、企業価値(というかPBR)を向上することで会社側と株主がwin-winになるというのがベストシナリオだと考えていますし、その中で満足のいく企業価値の向上もしくは経営陣によるMBO等が実現されれば、当然どこかで売却していくことになると思っています。

では実際に、3Dが考える東北新社の転売価値はどのくらい?という頭の体操がこのポストのテーマです。実際は、いくらだったとしても個人株主レベルだと何もできることはないと思いますが…。企業評価の勉強だと思って試算してみることにしました。

やはり、3Dのレポートにヒントがあるように思います。

3Dの考える東北新社の企業価値向上策(2024年2月19日 3D Investment Partners)

こちらの145ページには、「余剰資本」としてネット現預金39,421、上場株式(上場のみ)6,509、不動産流動化(簿価基準)18,381(単位はいずれも百万円)、合計64,311百万円(=約643億円)という記載があります。2023年3月末の決算を見ると、東北新社グループは売上高559億円、営業利益42億円でした。事業単体でのM&Aは算定額が難しいところですが、いくつかのM&Aサイトを拝見したところ、営業利益の5年分という数字が散見されました。悩んでても正解は無いのでこの数字を採用すると、23年3月期の営業利益5年分=210億円となり、余剰資本643億円+210億円で853億円、という数字を提案しても不思議ではないのかもと思います。実際に3Dが提案した「600-650円」というレンジはこの数字に当てはまり、時価総額はTOB単価600円だと約841億円、650円だと約911億円となります。

もっとも、6月に更新された3Dのレポートでも事業収益性の向上策が記載されており、その結果次第ではより高値での事業売却も可能になるのだろうとは思います。

ReBORN東北新社(2024年6月 3D Investment Partners)

参考までに、3Dが最後に提出した大量報告(変更報告)によると、保有比率は17.65%、投資金額は7,409,562千円ということで、ざっくり74億円を投下していることになりますが、8月8日の終値621円で時価総額87,068百万円まで上昇しているので、過去の配当を無視しても約156億円まで上昇しており、82億円程度の含み益があります(羨ましい…)。この含み益を含めて利確できるということを考えると、3Dが提示したこの金額感は、買う側としては合理性がある(つまり、ある程度利益が乗る)金額だと思います。


…と書いてはいますが、正直、東北新社ホルダーとしてはできるだけ高く売りたいですし、特別委員会の皆様には理論的なデューデリジェンスをお願いしたいと思っています。ということで、あくまで個人的に評価をしたみたいと考えます。重ねて言いますが、公開されている情報だけでは見えない部分が多く、あくまで頭の体操程度のものですので、ご了承の上でご覧ください。

まず、先ほどの3Dによるデータは23年9月末のものですので、その後行われている資本情報等をアップデートしてみます。24年3月末時点の有価証券報告書によると、現金等が45,710(p.49)、上場株式が5銘柄7,218(p.46)、いずれも単位は百万円となっています。不動産はちょっと置いておきます。一方、四季報によると24年3月期の売上高は52,819百万円、営業利益2,678百万円となり、減益となっています。

3Dのレポート時と比較して、67億円程度の余剰資本が上振れし、15億円ほど営業利益が減っていますので、同じように余剰資本+営業利益5年分、で計算するとトータル-8億円、評価額845億円程度と考えることができそうです(減ってしまった…)。

東北新社 2024年3月期 有価証券報告書

しかし、その後2024年6月1日付で株式会社スター・チャンネルの株式売却が完了し、4,141百万円の特別利益が発生しています。スターチャンネルの営業利益が23年4月では21百万円でしたので、この時点で40億円程度の資産上振れがある(4141-21*5=+4035)とすると、885億円ほどの評価額(単価631円)にはなりそうです。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/2329/tdnet/2423236/00.pdf
連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ

https://ssl4.eir-parts.net/doc/2329/tdnet/2478345/00.pdf
(開示事項の経過)連結子会社の異動(株式譲渡)に係る特別利益の計上に関するお知らせ

そしてこれ以上に気になっているのが不動産です。東北新社の影の大資産は不動産なのではないか、とずっと思ってホールドしてきました。先ほどの3Dレポートによると不動産流動化(簿価基準)は18,381百万円とのことですが、ポイントは「簿価」という部分です。東北新社は1961年に創業された企業ということもあり、保有不動産の簿価は時価との乖離があるのではないかと勝手に期待していました。というか、今もしています。

残念ながら、有報には子会社の一覧(p.7)や設備の状況(p.25)の記載があるので保有不動産の広さや簿価はわかるのですが、詳細な場所や時価については全く情報が手に入りません。以前のポストにも記載した通り、アメリカの不動産については6月の株主総会でも質問したのですが、ゼロ回答でした。

特に気になっていたのが「8981 Inc.」というロサンゼルスにある海外不動産管理会社(100%子会社)が保有している5438平米、簿価694百万円の土地でして、調べうる限り、2003年の有報p.21の時点では、COSUCO.Incが保有しているスタジオビルで、6378平米、簿価301百万円で記載がありました。

東北新社2003年有報

この8981.Incの場所が、ググったレベルだと「8981 W Sunset Blvd Ste 601 West Hollywood, CA, 90069-1853 United States」に存在するのですが、カリフォルニアの地価、この20年で3倍以上になってるんですよね、ドル建てで…。そもそも8981Incが不動産管理会社として設立されたとすると、その設立が1998年6月ですので、その時点からだと4倍以上、正直ずっと気になって直接見に行ってみたかったんです。もちろん、会社の場所と保有不動産の場所が一致していない可能性もあるので、行ったら何もない草原、というのも旅行としては面白いなぁと思ってました。


他にも、赤坂七丁目 2 番地区市街地再開発事業を通じて特別利益 856 百万円を計上した(2024年2月15日のIR)ように、保有不動産にはそれなりの含み益があったとしても不思議じゃないと思います。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/2329/tdnet/2400296/00.pdf
特別利益の計上に関するお知らせ

それゆえに、3D側としてもTOB提案に際して、「(3D 社による当社に対するデュー・ディリジェンスの要請への対応を含む。」という記載があったように、不動産の時価について会社側からの情報提供を要請したのではないかと(もちろん筆者の想像で)思っています。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/2329/tdnet/2477174/00.pdf

不動産好きなので大きく脱線してしまいましたが、最終的には不動産の含み益が東北新社の評価額に影響があるのは間違いありません。じゃあ結局いくらなんだ、と言われると正直難しいところなのですが…。先程のデータに戻ると、不動産の簿価基準18,381百万円(約184億円)を抱えた中で、評価額は885億円(単価631円)くらいでした。

もし不動産の含み益が0だったとすると、評価額は885億円のままですが、簿価と時価の差額が1.5倍と仮定すると評価額は977億円(単価696円)、2倍とすると1069億円(単価762円)くらいまでなってくるように思われます。

とはいえ、あくまで不動産に含み益があったらという仮定(というか、ほぼ願望)ベースの話ですし、高値で売却できたとしても譲渡益に税金がかかってくるため何割か削られる(そして、古い不動産ほど減価償却終わっているので譲渡所得税が高い)はずですので、結局、思っているほど利益は残らない可能性も十分にあります。



なかなか難しいと思うのは、3Dが「TOBやめる、手持ちも全部市場売却する」と言った場合には株価は下がるでしょうし、市場売却ではなく3Dの株式を会社側が引き取ったとしても、浮動株比率が減って結局上場維持基準を満たせないのでは無いかと思うところです。お互いが睨み合ったまま時間がすぎていくと、上場維持基準に適合していない状況ですので、結局どこかで上場廃止の憂き目に遭ってしまいます。


上場廃止を回避するため、会社側としては逆に保有株式の売り出しなどを行いたいところでしょうが、売った分だけ3Dの保有比率が増える、という状況に陥った場合、結局どこまで行っても状況が改善するわけではない(地合いが強烈に悪化して3Dの財政状況が悪くなり、撤退するというパターンは、東芝・富士ソフトの利確が見えてきた現状では難しいでしょう)ため、気づけば3Dが過半数を握っている、という状況になりかねず悪手だと思われます。(放送法の縛りで20%超えられないのかも?ちょっとわからないですごめんなさい)

「長年の低PBR」「大株主(オーナー一族)の存在」「上場廃止の可能性」といった課題を抱えたまま上場していた隙をつかれてしまった、という事例だとは思うのですが、日本におけるクリエイティブの一翼を担っている東北新社さんがうまいこと残ってくれるといいなぁと思っています。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。
長く保有していた銘柄だったので、つい熱くなってしまいました。

明日からは中央経済社の話に戻ろうと思います。

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