虹色のセブンライブス 第三章「プラネタリアンの里」

本記事はThe My Alchemyで制作中のSFファンタジー作品・虹色のセブンライブスのストーリー&アートブック「The Stream's Vol.1」から引用・一部加筆した試し読み的なサムシングです(ほぼまんまですが)。昨今の時勢から度々の即売会の中止で頒布機会も少なく、企画の仕切り直しも兼ねて一部を公開いたします。
2021.3 kiyoshiro

前回までのあらすじ

 かつて訪れた世界の終わりを、救世主セブンライブスが救ったとされる世界。虹の欠片を探して旅を続けるナナ、シア、パレットの三人は、命の傘・ワンガリでの騒動を経て、虹の欠片の秘密を知る植物種族・プラネタリアンに会いに西の大地を目指す(第二章)。

第三章 プラネタリアンの里

 三ヶ月にわたる大移動の末、豊かな自然が溢れる西の大地へ辿り着いたナナ達は、命の傘・マザーに滞在する探検家のナツミ・ヤマハと共に《プラネタリアンの里》と呼ばれる秘境を探す。しかし、目的地があると思しき森の最深部は、人と森の調停者である星の守り人たちによって結界が張られ、立ち入りを固く禁じられていた。

 結界の調査中、星の守り人に追われる謎の少女・ティアナと遭遇した一行は、木彫りの鎧をまとう追跡者達と相まみえ、その超人的な身体能力に翻弄されながらも辛うじて彼らを退ける。ティアナは自身も同じ星の守り人だと素性を打ち明けるが、追われる理由については言葉を濁した。パレットはその様子を訝しむが、ナツミは彼女を現地協力者として迎えたいと熱望し、ティアナもそれを快諾する。結界の秘密については明かせないと断りつつ、ナナ達へこの地にまつわる様々な知恵を説いたティアナは、最後に「道はまもなく拓けるでしょう」と言い残して姿を消した。

 数日後、マザーで開かれた《恵みの大市場(ヴィーハ・バル)》を観光するナナ達は、交易に訪れた星の守り人の一団と遭遇する。そこには先日にティアナを追っていた武人・ティーワウとスウィー・ティーの姿もあった。
 予期せぬ邂逅にナナ達は警戒するが、そこへ白装束を纏ったティアナ———もとい、星の守り人の指導者であるサティア・ゼレナが現れる。正体を明かした彼女は、先日の一件が来訪者を見定めるための芝居であった事を打ち明け、プラネタリアンの存意に応じてナナ達を迎えに来たと話した。ナツミも同行を願い出るが、サティアは何かを見透かしたように「貴女にはまだやるべき事がある」と諭し、マザーに残るよう説得する。
 サティアと共に結界を抜けたナナ達は、遂にプラネタリアンの里へ足を踏み入れる。そこは木の巨人・プラネタリアンと星の守り人が暮らす古の大地であると同時に、彼らが《星の聖域》と呼ぶ霊山を守護するために作り上げた自然の大要塞でもあった。出迎えたプラネタリアン達に連れられて大老樹・イリアンのもとへ赴くと、イリアンは休眠中のナナのマント・レレを盟友と呼んで再会を喜んだ。そして「真実を伝える時がきた」と切り出すと、救世主セブンライブスとその宿敵・喰星獣クルウトルフの長きにわたる戦いの詩編を詠み上げる。

【 ———封印されたクルウトルフが間もなく復活する。危機を予見した救世主は二つの希望をこの星に残した。それが《七つの虹の欠片(マスターピース)》と彼の現身たる少女・ナナである。世界がこの危機を乗り越えるには、この星に眠る全ての虹の欠片が必要だ——— 】

 プラネタリアンとの対話を終えた後、サティアは「真に救世主たる資格があれば彼の遺志がそれに応える」と話し、ナナを星の聖域の深部に祀られた水面へと招き入れる。しかし、皆を助けたいと願うナナの身には、遂に何の変化も起こらなかった。肩を落として戻るナナをシアとパレットが励ます中、サティアは三人へ里に留まるよう勧め、ナナとシアに「まだ学ぶべきことがある」と道を示す。

 翌朝、身体に溶け込んだ虹の欠片を取り出せなくとも制御する術はある———そう語るサティアは、自身が《緑色の虹の欠片》に選ばれた《救世の代行者(イクシード)》であると明かし、シアの先達として指導に乗り出した。その傍ら、里で最高の武人と謳われるティーワウから「既に強いが、その拳に宿るものがない」と評されたナナは、宿命に戸惑う心に気付き、己の内面と向き合おうとする。

 その頃、星の守り人たちから「何かよくないものが森に入ってきた」との報せを聞いたパレットは、スウィー・ティーらと調査へ向かう途中でナツミ・ヤマハと再会する。ナツミは「興味を抑えきれずついてきてしまった」と謝るが、目的が他にあると看破したパレットは、彼女が語った偽りの素性から命の傘・アイリスオースの人間ではないかと言い当てた。
 観念したナツミはアイリスオースの研究機関《メティス技研》の現地調査員であると白状すると、ここから離れた命の傘・エルトゥルを壊滅させた黒い霧を追ってこの地に訪れたと釈明する。しかし、黒い霧という単語から汚染されたブドゥガ・バドゥガの存在を想起したパレットは、一連の事件の元凶とはプラネタリアンの語る天敵・クルウトルフだったのではないかと思い至る。胸騒ぎを覚えたパレットは黒い霧の潜伏先と思しき峡谷へ向かうが、周辺一帯は既に瘴気に侵されていた。

 数時間後、パレットから伝令を受けたプラネタリアンの里では、サティアの率いる応援隊が結界を発とうとしていた。休眠から目覚めたレレの警告を受けてナナとシアもそれに同行するが、一行は辿り着いた先で黒い霧による惨劇を目撃する。
 瘴気に触れた森は腐るように死に絶え、蝕まれた動物たちは半身を破裂させ黒い靄を蠢かせる異形へ成り果てていた。サティアは怒りを滲ませながら、この惨劇がクルウトルフの分裂体である《残り香》によるものだとナナ達にへ打ち明ける。残り香の狙いとは即ち、星の守り人とプラネタリアンが守護する霊山・星の聖域を滅ぼす事にあった。

 パレット達のもとへ駆けつけた一行は態勢を立て直すと、ナナの変身するジンガ・ゼルザを先頭に、シア、そしてサティアの操る風の加護を纏った星の守り人たちで戦列を組み、檄を合図に反撃へ打って出た。しかし、死闘の末に谷底から這い出た異形の残り香を討ち祓った直後、無数の残り香の第二陣が暗雲と共に現れた事で、一行は撤退を余儀なくされてしまう。
 結界の内側へと逃げ延びる渦中でティーワウまでもが命を落とす中、サティアは悲しみに暮れる仲間達に、この絶望を覆すには「ナナが星の聖域へ赴いて覚醒を遂げる他に道はない」と活路を示す。だが、里を覆う結界が破られるのは時間の問題だった。最大戦力のナナ(ジンガ・ゼルザ)が戦線を離れれば全滅は免れないと悟ったシアとパレットは、例え自分たちが犠牲になってでも時間を稼ごうと、最後までこの場に残って戦う覚悟を決める。

 一方、ティーワウのみならずシア達までも犠牲になろうとしている現実に動揺するナナは、星の聖域での一件を思い返して「みんなを助けたいと願ったのに、なぜ救世主の遺志は応えなかったのか」とうろたえた。サティアは「誰かを助けたいと願うことは間違いではない」と肯定するが、救世主の真の力に目覚めるには「不可能を可能に捻じ曲げようとする強い信念が要る」と厳しく諭す。仲間達が戦いに備えて立ち去る中、残されたナナは不安と葛藤に苛まれながらも、一人で星の聖域へと歩き出す。

 間もなくして結界が打ち破られると、空はいっそう黒く濁り、地表は瞬く間に黒い霧によって蹂躙された。だが、サティア達が霧に呑まれるその寸前でジンガ・ゼルザに変身したナナが駆け付ける。サティアは何故ここへ戻ってきたしまったのかと咎めるが、犠牲の上に成り立つ未来を否定したナナは「目の前の仲間を救えないのなら、救世主の力なんて必要ない」「私は今、皆を守りたい」と言い返した。
 対して、猛威を振るうジンガ・ゼルザに対抗するかの如く、残り香の群れも一点に集結すると、その姿をヒトに近しい形態へと変質させていく。そして頭上に浮かべた黒点を瞬かせると、星の聖域ごとナナを狙い、凄まじい威力の黒い閃光を解き放つ。

 ※

 吹き飛ばされたナナが目を覚ますと、そこは半壊した星の聖域の中だった。ナナは満身創痍の身体を引きずって深部に祀られた水面へ向かうと、相棒のレレへ語り掛ける。

【 ———最初から記憶のない空っぽな私でも、シアとパレットは『一緒に旅をした時間がナナになるんだ』って言ってくれた。……私はこの世界が好きだよ。どんなに悲しい出来事に溢れていても、それでも私を《ナナ》にしてくれたこの世界が大好きだから、守りたいんだ 】

 星の聖域の水面がその願いに呼応するかのように輝きを放つ中、ナナは傍で誰かに囁かれたような気がした。どこか懐かしい声で 「ありがとう、君に託すよ」と。

 
 残り香が放った黒い閃光が過ぎ去った後、サティアの風の加護によって生き延びたシアとパレットの眼には、灰の舞う空と、炎で焼け爛れた里の姿———そして、星の聖域から天にかけて伸びる巨大な光の柱が映っていた。
 風が止んでいた。音が消えていた。
 やがて光の柱が貫いた暗雲から白い光が差し込むと、全員はそこに、一層きらめきを放つ赤と青の輝きを目撃する。

 白銀の聖装甲をまとった真の姿《セブンライブス・モード》へ覚醒したナナとレレは、遥か上空で胸に宿る灯火を解き放つと、閃光で地表を薙ぎ払い、一撃で全ての黒い霧を討ち祓った。
 それを耐えた残り香の集合体は頭上の黒点を再び瞬かせるが、ナナは放たれた二射目を片手で払うと、異形の正面へと降り立ち、光で編まれた巨大な拳の一撃を打ち込んだ。その衝撃は残り香を霧散させ、空に青を取り戻し、森を焼く劫火さえ吹き消した。最後にナナが上を見上げると、そこには救世主の帰還を謳うかのように巨大な虹の円環が架かっていた。

 ※

 戦いが終わってから半月後、一時は壊滅寸前まで追いやられたプラネタリアンの里は、生き延びた若きプラネタリアン達によって緑の息吹を吹き返そうとしていた。サティアから《緑色の虹の欠片》を託されたナナ達は、やがて復活を遂げる喰星獣クルウトルフに対抗すべく、全ての虹の欠片を集めると約束を交わす。
 一方、パレットはナツミに《ヴェルメリカの聖痕》を見せて正体を明かすと、黒い霧についての分析と、この地で起きた出来事を故郷のアイリスオースへ報せるよう密命を下す。ナツミはその素性を知って仰天するが、アイリスオース皇家に忠誠を誓う一員として、必ず使命を全うすると誓いを立てた。
 そうして旅たちの日が訪れた。星の守り人とプラネタリアン達に別れを告げたナナ達は、サティアの導きに従ってここより遥か西への果て———大海原の向こうにあるとされる《南の大地》を目指す。
 そうしてナナ、シア、パレットの三人は、世界を救う鍵となる虹の欠片を探し、果てない冒険を続けていくのだった。

 後日、星の聖域の水面で禊を行っていたサティアは、腕に黒い痣が浮き上がっている事に気付く。それは残り香が放った閃光を防いだ際に負った傷が広がったものだった。その身に訪れる運命を悟ったサティアはスウィー・ティー達に後を託し、忽然と里から姿を消す。

Text : Kiyohiro
Illustration : POCHI・Muraki

【つづく】

■IRIDESCENT SEVENLIVES The Stream's Vol.1 / The My Alchemy
https://alice-books.com/item/show/9225-2


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