虹色のセブンライブス 第二章「ブドゥガの霊廟」

本記事はThe My Alchemyで制作中のSFファンタジー作品・虹色のセブンライブスのストーリー&アートブック「The Stream's Vol.1」から引用・一部加筆した試し読み的なサムシングです(ほぼまんまですが)。昨今の時勢から度々の即売会の中止で頒布機会も少なく、企画の仕切り直しも兼ねて一部を公開いたします。
2021.3 kiyoshiro

前回までのあらすじ

 かつて訪れた世界の終わりを、救世主セブンライブスが救ったとされる世界。砂漠の命の傘・エリオンで出会ったナナ、シア、パレットの三人は、虹の欠片と呼ばれる結晶を探して冒険へ出発する(第一章)。

第二章 ブドゥガの霊廟

 虹の欠片を探して旅を続けるナナ達は、砂漠の最果てにある《終わりの山脈》の坑道を訪れていた。崩落事故の復旧にあたるヴァンフリート採掘隊のジョッシュ達に協力するナナ達は、トラブルに見舞われながらも山脈の反対側に広がる荒野地帯へ辿り着く。
 しかし、下山中に休眠から目覚めたナナのマント・レレが危険を知らせた。その直後、ナナ達は禍々しい気配を放つ異能の槍を携えた少年に襲撃され、応戦の末に槍を折り砕く。ところが降参した少年———マディ・ウォルターは、部族の掟に従って「ナナ達の所有物になる」と言い出した。扱いに困り果てたナナ達は、彼の仲間である知性を持つ獣の部族、ブドゥガの民が暮らす命の傘・ワンガリへ向かう。

 ワンガリの酋長・バディガイは、マディが祭具である異能の槍———《アヴェドの槍》を失った罰として《地神祭の儀式》の贄に捧げられる運命にあると話すと、引き渡しを躊躇うナナに対し「さもなければお前たちを贄に捧げる」と脅しをかける。シアはその理不尽に激昂するが、そこへ仲裁に現れたのはマディの師である賢者・レッドボーンだった。

 その場を収めてナナ達をセーフハウスに案内したレッドボーンは、マディを想うナナの行動に謝意を述べつつも、この地からすぐに立ち去るよう警告する。しかし、それでも食い下がるナナを見て思案を巡らせると、《大いなる意思(ソウル・アース)》に問う事でマディを救う道が拓けるかもしれない、と助言を授けた。
 一方、この地を訪れた理由を尋ねられたナナ達が旅の目的を説明すると、それまで押し黙っていたマディは「ナナとシアは神殿に眠るものと同じ匂いがする」と仄めし、みだりに部族の秘密を明かさないようレッドボーンがたしなめた。その一幕を垣間見ていたパレットは、この地に何かが隠されていると直感し、猛反対するシアを説得して《大いなる意思の神託(ソウル・アース・ヤクェリ)》を受けたいと申し出る。

 翌朝、ナナ達はレッドボーンから正式に神託の日取りを知らされるが、儀式に必要な供物———動物の血肉や骨片は自分達の手で揃えなければならなかった。東に用向きがあると話すレッドボーンを見送った後、マディと共に狩りへ赴いたナナ達は、そこで狩猟民族たるブドゥガの民の生きざまを目の当たりにする。

 狩りは数日間にわたって続けられた。シアとパレットが自らの手で命を奪う行為に躊躇いながら取り組む中、マディに槍を教わるナナは黙々と狩りに徹するが、赤子の獣や弱った獲物に対しては手をかけられなかった。ある時、マディの相棒である疾鳥・ビーツが息を引き取ると、ナナ達はその身体を捌いて糧とした。その夜、火を囲んでビーツの魂を弔うナナ達は各々に思いを馳せるが、マディはそれを否定も肯定せず、ただ一言「これも命の理だ」と話す。
 狩りを終え、ワンガリで大いなる意思から神託を受け取ったナナ達に、バディガイは「地神祭の儀式に参加するよう啓示が降りた」と解釈を告げる。そして次は生きた人間を狩るように求めるが、それは出来ないとナナは返した。バディガイは供物を捧げなければ災いが起こると説明し、利益の為に命を搾取し、戦争を繰り返す人間の歴史を挙げ、何故それでも人間を狩れないのかと問いただす。
 パレットは人間を殺さない理由を「人間の都合で決めた互いの利益を守る法律」としながらも、同時に「それが秩序と社会性をまとうことで『人間』となった、私たち人間の掟だから」と答えた。相容れない信念だと断じたバディガイはナナ達を捕らえようとするが、一行は密かに舞い戻ったレッドボーンの手引きでワンガリを脱出し、彼から助言を授かり東へと進む。

 ※

 しばらくして武装した人間達のベースキャンプを発見したナナ達は、終わりの山脈で別れたヴァンフリート採掘隊の面々と再会し、ここが人間狩りを行うブドゥガの民を討伐する為に集まった傭兵団の野営地だと知らされる。彼らもその一員であり、坑道の復旧作業とは間もなく始まる攻撃作戦の一環だった。
 ブドゥガの民に弟を連れ去られたジョッシュは「これもエリオン事変でラムジ強権が崩れ、資源を平等に分け合えるようになったからだ」と報復の機会を喜ぶが、皮肉にもエリオンでの一件が新たな争いの一因になったと知り、ナナ達はこの地に留まろうと決意する。すると、ナナ達の選択を見届けたマディも「この地で起きた出来事を話したい」と言い、ナナ達を連れて《大地神の神殿》へと向かう。

 その道すがら、断崖地帯で休息するナナ達が眠りにつくと、ナナのマント・レレがひとりでに動き出し、その気配に目覚めたマディは密かに後を追った。切り立つ岸壁で夜空を見上げる銀髪の女を見たマディは息を呑むが、女はどこかから響く「こえ」と話し終えると、様子を伺っていたマディと目を合わせ、口元に指をあてる仕草と共に光となって消え去った。マディは夢を見た、と思った。

 夜明けと共に到着した大地神の神殿でナナ達を待ち受けていたのは、無数のアヴェドの槍が突き刺さる黒い泉と、汚染されて眠りにつく気高き獣の祖《ブドゥガ・バドゥガ》の姿だった。
 かつてこの地を襲った災厄を、救世主の加護を得た彼女が封じ込め続けている———そう語ったマディは、老いによって失われつつあるブドゥガ・バドゥガの生命力を補うため、かつてはブドゥガの民が、そして今は多くの人間が魂を捧げてきたと説明し、自身もまた生贄に捧げられ、唯一生き延びた忌み子であると打ち明ける。
 この「呪い」はどうする事もできないとマディは嘆くが、それでもナナ達は諦めず、人間とブドゥガの民が争わずに済む方法を探そうと言った。だがその時、後を追っていたジョッシュ達によって神殿が爆破され、ナナ達は倒壊に巻き込まれてしまう。間一髪で脱出した後、シアは彼らに詰め寄って怒りを露わにするが、ジョッシュは「それでも人間が死ぬよりマシだ」と吐き捨てた。その直後、諍いをかき消すように大地震が一行を襲う。

 神殿の瓦礫の底から這い出た巨獣———ブドゥガ・バドゥガのまとう黒い泥に触れ、朽ちるように死ぬジョッシュ達を目の当たりにしたナナ達は、この危機を人間とブドゥガの民の双方に伝えるべく二手に分かれた。シアとパレットはジョッシュの遺した電気バギーで傭兵団のもとへ、ナナとマディは疾鳥を駆りワンガリへ向かおうとするが、咆哮をあげるブドゥガ・バドゥガもまた周囲の野生動物の命を欲して動き出す。
 シア達の乗るバギーが去って行くのを見届けたナナは、黒い泥の氾濫を食い止める為にその場に残った。それを引き留めようとするマディに「命が命の為に犠牲になる事は悲しいけど仕方のないことだ。けれど、命を守りたいと願うことだって間違いではないはずだ」と告げたナナは、マディに伝令を託して巨獣へと立ち向かう。

 ワンガリへ急いだマディは、人間との争いに備えるブドゥガの民に危機を知らせ、共に汚染されたブドゥガ・バドゥガによる災厄を食い止めようと呼びかけた。動揺するバディガイは「人間のしたことだ」と突き放そうとするが、それでもマディは食い下がり「今こそ呪いを祝福に戻すべきだ」と訴える。その言葉に突き動かされたレッドボーンが「気高き獣の祖がこの地を守ろうとした意思を継ぐべきだ」と名乗りを上げると、かつてその身をブドゥガ・バドゥガに捧げ、血肉を失い骨となった後も尚アヴェドの槍となってこの地を守る祖先の遺志を思い返し、バディガイやワンガリの狩人達も勇気を奮い立たせて後に続く。
 選び抜かれた勇士達を連れてワンガリを離れたマディは、レレの力を借りて泥を凌ぐナナのもとへと駆け付けると、ブドゥガ・バドゥガを止める策はあるのかと尋ねるナナに「ブドゥガの民には祖先たちの残した魂がある」と、崩れ落ちた神殿を指さした。
 
 その頃、シアとパレットが説得に向かった傭兵団の本陣は、断崖地帯を粉砕して出現したブドゥガ・バドゥガによって大混乱に陥っていた。パレットが押し寄せる黒い泥の津波から避難するよう周囲に呼びかける中、シアは異能の力を解き放って撤退までの時間を稼ごうとするが、圧倒的なブドゥガ・バドゥガの力の前に成す術もなく追い詰められてしまう。だが、シアが死を覚悟したその瞬間、地平の彼方から土煙が上がると共に、雄々しい笛の音が鳴り響いた。
 ———獣に跨り荒野を疾走するナナ、マディ、そしてレッドボーン率いるブドゥガの戦士達。彼らは一様に握ったアヴェドの槍の異能を振るい、ブドゥガ・バドゥガの巨体を追い立てる。
 激戦が続く中、ナナとマディがアヴェドの槍による一撃を加えると、怒り狂ったブドゥガ・バドゥガは喉奥から黒い閃光を解き放った。終わりの山脈まで伸びる破壊の痕に戦士達は慄くが、続けて二射目がワンガリの方角へ向けて放たれる。ナナは咄嗟に光の正面に立ち、アヴェドの槍でそれを受け止めた。そこへマディが加勢すると、ブドゥガの戦士達も次々と駆け寄り、全員で槍を掲げて光を押し返す。
 その時、アヴェドの槍に浮かぶ橙色の水ぶくれが一斉に弾けたかと思うと、ナナのもとに無数の輝きが飛び込んだ。かつて気高き獣の祖に与えられた救世主の加護が、槍へと伝い顕現した奇跡の結晶———《橙色の虹の欠片》を手にしたナナは、見たことのない姿《ジンガ・ゼルザ》へと変身し、重力を操る異能を振るって巨獣との一騎打ちに挑む。ナナの渾身の一撃によって黒い泥の呪縛から解き放たれたブドゥガ・バドゥガは、弱々しい足取りでゆっくりと地面を轟かせると、断崖の方へと姿を消した。

 ※

 戦いの後、ブドゥガの民と傭兵団の間に停戦が結ばれ、後の始末は全て対話によって成される事が決められた。ナナ達はブドゥガの民と共に神殿跡へ向かうと、間もなく永い眠りにつくブドゥガ・バドゥガが寂しくないよう、彼女を囲んで連日にわたる盛大な宴を行った。次第に小さくなるその鼓動が最後の脈動を打ち終えたのは、それから三日が過ぎた頃、ひときわ星が瞬く真夜中の事だったという。
 ブドゥガ・バドゥガの魂を慰める為《ブドゥガの霊廟》を建てたいと話すマディに再会を誓ったナナ達は、レッドボーンから「虹の欠片の秘密について知りたければ、この星で最も長く生きる種族《プラネタリアン》に会うといい」と助言を授かり、遥か西の大地を目指してワンガリを発つ。

Text : Kiyohiro
Illustration : POCHI・Muraki

【つづく】


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