虹色のセブンライブス 「Stream's after」
本記事はThe My Alchemyで制作中のSFファンタジー作品・虹色のセブンライブスのストーリー&アートブック「The Stream's Vol.1」の後日談(正確には収録漏れしたフレーバーテキスト)です。本編についてはnote過去記事・もしくは冊子をお手に取ってご覧頂けばめちゃ嬉しいです。
2021.3 kiyoshiro
前回までのあらすじ
かつて訪れた世界の終わりを、救世主セブンライブスが救ったとされる世界。星の聖域を巡る戦いの中、ナナは救世主として覚醒を迎えた。危機を退けた一行は、世界を救うべく新たな旅へ出発する(第三章)。
Stream's after(Episode 3.5)
———その日、私たちは初めて「海」を見た。
真っ青に揺らぐ世界の姿。
それを目にするまでに胸のうちにあったのは、期待と不安と高揚感。それと、寂しさ。
プラネタリアンの里を旅発つ前の夜、ナナさんが改めて「世界を救うことになっちゃったね」と言って、私は色々考えてしまった。
虹の欠片を探す旅は続いていく。けれど、これまでの日々とこれからの日々では、旅の意味はまるで違う。世界の秘密を知らない頃の「ただの冒険だった日々」は終わりを告げて、世界の命運の中心線を歩む日々が訪れる———そう思うと、いつも命の傘を旅発つ瞬間に感じる切なさにも似た何かが、すぐ傍にあるような気がして。
それでも。
この目で見ることの叶った大海原は、ただただ美しかった。
「わぁ———つ!」
息を呑んだのも束の間、(やっぱり)真っ先に砂浜へ飛び出したのはナナさんだった。それを仕方なさそうに見守るシアさんと、そんな二人を眺める私と肩に乗ったフーデ。すると、シアさんが珍しく一言だけ、どこか不安そうに呟いた。
「本当に行くんだよな、アタシ達。海まで越えてさ」
「———そうですね。きっと、長い旅になります」
私はそう答えた後、なんとなく。
本当になんとなくだけれど、シアさんもあと少しだけ「ただの冒険だった日々」を過ごしていたくて、まだ迷っているような気がして。でもシアさんはそれ以上何も言わなかったから、私も黙ったまま、波打ち際ではしゃぐナナさんを眺めていた。
水平線の彼方まで続く青と雲。
きらめきを放つ波の音。
塩の匂い。濡れた風。
それはまだ、見たことのない世界。
しばらくするとナナさんに呼ばれ、私とシアさんも波打ち際へと向かった。マントのレレさん(?)は里での戦い以来眠りについたままだけど、きっと起きていたら穂先を腕に変えてナナさんとじゃれ合っていたに違いない。
その代わりか、ナナさんは近付いた私たちに早速水をかけるいたずらを始めて、シアさんが怒ってやり返して———すぐにいつもの光景が広がると、それがただの冒険の日々と見分けがつかない事にも気付く。
遊び疲れたあと、ナナさんは言った。
「きっとここが、世界を救う旅の始まりなんだね」
「———!」
時々ナナさんは怖い。
いつも能天気なようでいて、不意に本当に大切なことを言うから。もしかすると私とシアさんの心のうちを察して、わざと無邪気に振る舞っているのかもしれない、とさえ思う。とにかく、そういう所がある。
「きっと大丈夫だよ。これからも色んな人と出会って、今日みたいに見たことのない景色をいっぱい見て…それが全部、いつか私たちになっていくんだって信じてるから」
でも、嫌な感じはしない。何故ならば、ナナさんの言葉にはいつも光を感じるから。
「だから、大丈夫だよ」
ナナさんは最後に「これって二人の受け売りなんだけどね」と照れ臭そうに付け加えると、海を背に、これまで歩いてきた方角を向くと大きく手を振った。
「———さよなら。それと、行ってきます!」
満面の笑みで言った言葉が妙にしっくり来たものだから、私は思わず頷いてしまった。ナナさんを挟んで反対に立つシアさんも、その言葉を聞いてどこか腑に落ちたようだった。
そうやって私たちは三人揃って同じ方角を向くと、ほんの僅かな間だけ、思い思いの形でこれまで歩いてきた道のりに別れを告げる。応えるように風が吹いて、塩の匂いが鼻をくすぐった。
心の底にあった憂いの水溜まりはいつの間にか消えていて、私はそれを確かめるように、もう一度心の中でナナさんの言葉を繰り返す。どんな遠く離れた場所に居ても、この想いが届くようにと祈りながら。
———さよなら。行ってきます。
Text : Kiyohiro
Illustration : Muraki
【つづく】
■IRIDESCENT SEVENLIVES The Stream's Vol.1 / The My Alchemy
https://alice-books.com/item/show/9225-2
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