トップリーグ開幕を前に〜その男、智将かつ烈将にして〜
1、その男、名は沢木敬介
開幕戦は、町田GIONスタジアムへ。
チケット当選を喜んだのも束の間、私はこの試合会場から無事帰宅できるのか、今から落ち着かない。
駅からはバスしかアクセスがない。徒歩では帰り着けない距離らしい。
バス、、乗れるだろうか。
満員電車がなにより苦手な私がさらに苦手な満員のバス。いっそ災害時の練習と思って最初から歩いてみようか。
心は不安で揺れている。しかし、
行けば憧れの永友君に会えるかも!という淡い期待が私を『辺境の地』へ向かわせる。
キャノンイーグルス
今年のトップリーグで大注目を浴びている。
理由は明白だ。
沢木敬介監督
日大、サントリーサンゴリアス出身。現役引退後同チームのコーチを歴任、U20代表監督で手腕を発揮後、W杯2015イングランド大会では監督エディー・ジョーンズの右腕として日本代表史上初の予選3勝に貢献。サントリー監督就任の年から同チームを2連覇に導き、サントリー退社後はサンウルブズC Cとして開幕戦勝利に貢献。
改めて書き出してみると、沢木さんの輝かしい経歴に驚くばかりだ。
しかも、まだ45歳。
プロ野球監督の多くが50代である事を思うと、その若さが際立つ。
今日もSNS上には、田村優主将との共同オンライン記者会見の模様が華々しく流れていた。
2、名将とは
とはいえ、
私は、ずっとある種の違和感を抱いていた。
沢木さんにかかる期待の重さについて
いや、マスコミとファンの期待が、沢木さんの置かれた状況とすれ違っている、そんな気がするのだ。
指導者沢木さんには二つの顔がある。
先を見通す緻密な戦術、厳しくも情のあるアドバイスで選手の意気を高める人心掌握術。
さらに、
ハードルとして課したノルマを十分こなせない、真摯に取り組まない選手に対する容赦ない厳しさ。
智将にして烈将 それが現時点での『監督沢木敬介』の評価ではないか。ここで思う。
『名将』なのか。
私もTwitter上では、『一番人が理解しやすい言葉』だから、という理由で沢木さんをこう表現する。
しかし、これは正確ではない、とも思う。
『名将』とは、ある程度以上の経験と年齢を経て、人生の『晩年』に贈られる言葉、ではないだろうか。
野村克也さんは40代半ばまで現役だった。ヤクルト監督に就任した時既に50代。退任時には名将の誉高かったが、既に還暦に手が届いていた。
星野仙一さんは、中日ドラゴンズ監督に就任した時まだ30代だったが、この時代、『超こわくて厳しい』というイメージの
闘将
の名で呼ばれていた。彼が名将の名を揺るぎないものにしたのは、やはり50代半ばで『どん底の阪神タイガース』に就任、優勝させて以降の事だろう。
そう考えると、沢木さんは
智将かつ烈将なるも、未だ名将にあらず
という段階ではないだろうか。サントリー2連覇は大きな武功ではあっても、年若い彼はまだ、その名に『名将』なる冠をいただく『道の途中』なのだ。
私がその思いを強くしたのは、先日、沢木さんのサントリー監督として最後の試合、対神戸製鋼戦を見てからだった。
この年の準決勝でサントリーはヤマハと対戦、延長の末ヤマハを破って決勝に進出している。この試合、ヤマハのコーチ陣が『タッキー&きよみい』だったから、私は繰り返しこの試合録画を見ていた。
恐ろしいほどの規律を持って挑むヤマハにサントリーは苦戦を強いられた。その後の神戸製鋼戦。
神戸製鋼の攻撃は鮮やかだった。速く、強く、流れるようなリズムで攻撃が続く。この試合にサントリーは大敗した。
この試合が、沢木さんに何らかの転機をもたらしたとしたら、それは神の啓示としか言いようがない。
新型コロナウイルスが世界に到来しなければ、沢木さんはサンウルブズCCとして、南半球の列強から、あの敗戦の衝撃をも凌駕する『多くの学び』を得ただろう。
しかし、コロナはやってきた。
上位進出を狙う中堅チームを再建する、というミッションを託され、新たな指導者人生が始まったのだ。
せめてあと5歳若かったら、イングランドか南半球のどこかに留学して、コーチング修行に明け暮れる日々を送れたかもしれない。
しかし45歳という年齢は、そんな自由を許す歳ではない。
『少し早く生まれ過ぎた人』
沢木さんを見ているとそんなフレーズも口をつく。日本ラグビーの歩みより沢木さんは少し駆け足なのだ。
新しい人生が始まって半年、沢木さんは日々チームを耕し、地慣らしもそろそろ佳境に入ってきただろう。
今日の共同記者会見を聞く限りでは
まだ種を撒く段階ではない。しかし、肥えた柔らかい土地でなければ何を撒いても芽は出ない。
週末から始まる今シーズン、
勝つ喜びを自信に変え、負けた悔しさを明日への糧として、一歩、そしてまた一歩。
強豪、という頂を目指して。
一年後、イーグルスは必ず『変わる』はずだ。
それにしても不思議な人だ。
J Sportsの番組に出演する沢木さんは、のんびり、おっとりとしてどこか頼りない。
この強烈なON OFFの切り替え感が、彼を『彼』たらしめているのかもしれないが。
この年若い智将かつ烈将に、私が望むことはただ一つ。
【指導者として 人として 幸せな人生を全うしてほしい。】
大袈裟に持ち上げたその直後、激烈にバッシングする事も厭わない現代社会
その渦中に呑まれることなく生きてほしい。
開幕戦は、オリンピックの歴史ある駒沢から町田GIONスタジアムに変更となった。
コアな町田ゼルビアファンでさえ畏怖する場所
天空の城
SNS上でそんな言葉も飛び交う『東京最辺境のスタジアム』。そこで『第二の初陣』を飾るのも、どこか意味あることかもしれない。
これからの辛く険しい道のり。この旅を無事終えた時、人は彼をこう称えるだろう。
名将 沢木敬介 と
週末に迫る開幕戦に向け、坂本龍馬の有名な一句を捧げたい。
出陣へのささやかな餞として。
〜世の人は われをなにとも ゆはばいへ わがなすことは われのみぞしる〜
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