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ラグビー選手☆キムタカの挑戦☆初心者観戦記《プレーオフトーナメント一回戦》〜『この道』が続く限り〜

1.激闘は雨の中で

雨は空からいく筋も白い線を引き、観客席を突き刺すようにしぶきをあげていた。この悪天候の中駆けつけた熱心なファン達、身につけたカッパはほとんど用を成さないかに見えた。

愛知県名古屋市 パロマ瑞穂ラグビー場 気温は15.3度、空気はヒンヤリとしているらしい。 

トップリーグと両チームの旗は、ダラリと頭をたれて動かない。風はないようだ。

ラグビーは、激しい雨でも滅多に中止にならない。

発祥の地イングランド

そういえば、9月の半ばから3月末頃まで、ほとんど毎日霧雨に煙っていた。うっすらとしか射さない日差し、いつもじっとりした空気と濡れた芝、その上を這い回るナメクジとダンゴムシ。若い頃主人と暮らしたロンドンの街は気が狂うほど陰鬱な気候だった。この国の人々がスポーツにどこか過剰に熱狂するのもそのせいか。やたら『力自慢』の番組も多かった気がする。。

選手入場時間まで建物のひさしの下にいた選手達。入場の音楽が鳴ると意を決したかの様に、ある者は声をあげ、ある者は体を叩いた。そして、激しく降る雨の中に飛び出していった。

コカコーラ・レッドスパークス

トップチャレンジリーグを3位で通過、この試合で、トップリーグのレッドカンファレンス7位《三菱重工ダイナボアーズ》と対戦する。

なぜこんな強いチームと⁈

多くのファンが、ダイナボアーズ第7節の大敗に驚いた。そして、レッドスパークスは予想外の難敵に挑む羽目になったのだ。

SH キムタカ 事 木村貴大選手

彼の出場する試合を、私は今季初めてテレビで見る事ができた。彼の活躍を祈りつつ、レッドスパークスの勝利を願う。

円陣の中には、《ミスター・セブンズ》桑水流さんの姿があった。飲み物を口にしたキムタカくんも円陣の輪に加わる。

まさに、一戦必勝の戦いが始まろうとしていた。

2.前半

雨のピッチ、ボールは相当滑るようだ。選手達が走るたびに

シャッ、シャッ、

と水をかき分ける音がする。足元に水が高く跳ね上がる。

今日の解説は藤島大さん。

【トップリーグ界の増田明美】

というべきか。

どうしてそんなこと知ってるの⁉️という小ネタを次から次へと披露してくれる。

ダイナボアーズの2番 安江選手については、

帝京大学出身

とのアナウンサーのコメントに即座に反応、

帝京高校で3年の時一回戦で都立高校に負け、助っ人ででた相撲の大会で東京都ベスト4、しかも明大中野の選手を破って明大から声が掛かった。

という面白すぎるエピソードを教えてくれた。

試合はファーストスクラムへ。

なんと総体重は30キロも違う。ダイナボアーズは重量でもレッドスパークスを圧倒する。

選手はまるでサッカーのスライディングのように滑りながら走る。選手達の足元から絶えずしぶきが上がる。

この間も

マイケル・リトルは、大泉町立西小学校に通っていた。

というお話が。

そうなのだ。藤島さんの解説をお聞きする度に思う。

日本代表を目指す外国籍の選手達。彼らは、幼少から、あるいは思春期から、慣れない言葉と習俗に苦しみながらも必死に溶け込み、大きな夢を追いかけているのだ。

                        *  *  *

試合開始からダイナボアーズは攻勢だった。

コカコーラ陣内で、ダイナボアーズはモールから一気に安江選手がトライ。

開始早々先制する。

7ー0

芝生は青々と葉を伸ばしていた。アナウンサーはグラウンドキーパーの方を取材していた。

夏芝との入れ替えのため、地上に穴を開け空気を入れていた。これがいい水捌けになったのだろう。

とのことだった。たしかに、どこにも水たまりはない。しかし、グラウンドは水を含んだスポンジのようになっているらしい。

天候のせいかキックの応酬が続く。風はなくても雨でボールは滑るようだ。キックのミスも目立つ。テレビ画面からも直線的な雨の線をはっきり見る事ができた。

キムタカくんは盛んに指をさしつつ味方に指示を送る。しかし、

マイボールラインアウトからのモール

ダイナボアーズはそのパワーを生かして一気にコカコーラ陣内に滑るように突っ込んできた。そして、最後はスライディングのようにトライ。

最初のトライから10分も経っていなかった。

TMOによるトライの判定は、雨天時はある程度滑りながらでもOKらしい。(一つの流れなのか、という基準で見る。トン、トンとボールをついたらダブルムーブメントとなってダメらしいが、その判断を少し大目に見る、という事らしい。)

ダイナボアーズは、何度も昇格の壁に泣かされてきた歴史を越えてのトップリーグ二季目、やはり揉まれてきたのだ。今季もリーグ戦でサントリーやトヨタとも戦ったのだから。

14ー0

このまま一気にレッドスパークスを突き放すのだろうか。

雨は一向に弱くなる気配はない。

しかし、ここからレッドスパークスはすぐ反撃する。

マイボールラインアウトはボールが後ろに逸れた。しかしなんとかキープして、水飛沫を上げながら選手は前へ前へと突っ込んでいく。

アドバンテージを得た直後、キムタカくんの手からボールが滑り落ち一瞬ヒヤリとしたが、すぐコカコーラボールで再開、

呆気ないほどスルスルとトゥペ選手はゴールライン前に出たが、ここからマイケル・リトル選手がガッシリとボールを奪いにかかる。

どうなる⁈レッドスパークス!

ここは粘った。何度かのアタックの末トライに行き着いた。

ベン・ルーカス選手のゴールも決まり

14-7

まだまだこの試合の行方はわからない。

この日、とにかくボールは滑るようだ。

手の上で滑り、芝の上で滑り、その結果スクラムの回数も増えてくる。風はないはずだが雨の勢いもあるのだろう。キックも不安定だ。

キムタカくんは、盛んに右や左を指差し声を出している。攻撃、あるいは防御の方向を示しているようだ。

パスで攻めるか、キックで攻めるか、

双方探り合いながらの攻防が続いた。

ダイナボアーズが敵陣近くを狙ったキックは長すぎ、レッドスパークスは窮地を脱する。

しかし、レッドスパークスの攻撃を、今度はマイケルリトル選手を中心としたダイナボアーズのパワーとスキルが阻む。

早めに蹴った方がいいですね。先に敵陣にボールを。そしていい事が起こるのを待つ。自陣から上手く攻めてもどうしてもミスが出る。ボール滑りますし

藤島さんの言葉が示す通り、ミスの応酬の中でどちらが敵陣に早く入れるか、

すでに前半終了まで残り数分。試合は膠着したままだ。ついにホーンが鳴った。

ここでレッドスパークスは敵陣でチャンスを掴む。ダイナボアーズのペナルティー。

レッドスパークスのペナルティーゴール成功‼️

14ー10

試合は本当にわからなくなってきた。

3.後半

開始早々、レッドスパークスは一気に攻め上がる。しかし敵陣ゴールライン近くでペナルティー。ここぞという時に、ダイナボアーズのパワーが立ちはだかる。

しかしスライディングのように滑りながらもレッドスパークスは再び前進する。

マイボールスクラム。

キムタカくんは、画面に映らないBK陣に何かを伝えに行ったのか。一瞬画面から消え、また戻ってきた。

それがどんなサインだったのか。

出たボールは、パスと短いキックを経てゴールライン目前の攻防となった。猛烈に絡んでくるダイナボアーズ。そこに頭から突っ込むように加速して飛び込んだ12番トネ選手がトライ!

キックも決まって

14ー17

ついにレッドスパークス逆転‼️

しかし、まだ開始10分も経っていない。

ラインアウトからモール、そして粘り強いアタックを続けるダイナボアーズ。キックでゴールライン内ヘ緩く転がってきたボールをキムタカくんはしっかり押さえてドロップアウトに持ち込んだ。

慌てるところではないですね。立て直すところ

レッドスパークスへのコメントを言い終わらないうちに、ダイナボアーズは再び攻め上がってきた。

お互い我慢ですね

雨は相変わらず降り続いている。

ここでコカコーラ6個目の反則。ダイナボアーズは敵陣深くに入ってきた。

ダイナボアーズの粘り強いアタックは続く。10フェイズを超えてもジリジリとFWで攻める。しかし、ここでBK陣に放たれたボールは選手の手に収まらなかった。

レッドスパークスはひとまず難を逃れた。

しかしまだ時間は20分以上ある。

それにしても、、

サッカー同様、初心者には《オフサイド》という反則の意味がよくわからない。

テレビ画面上に、スキーのジャンプ競技のようなラインが出るといいのだが。

初心者にはわからないこの反則で、一度はダイナボアーズに出たボールを、今度はレッドスパークスは力で奪い返した。

キムタカくんは吠えるように声を出して仲間を叩いてねぎらい、起き上がるもう1人に手を貸した。

しかしマイボールスクラムからのパスに失敗、レッドスパークスのハンドリングエラーは10個に達した。

ダイナボアーズボールのスクラム アドバンテージも出た。

ここでマイケル・リトル選手が中央突破!結局阻まれたもののその実力を見せつける。

これを《個の力》というのだろう。

苦笑いを浮かべる彼は、どことなく

数ヶ月前に引退宣言した米プロレス団体WWEのスーパースター《アンダー・テイカー》の様な凄みを見せていた。

そして、ダイナボアーズは攻め続ける。

絶妙なウイルソン選手のキック。抑えたレッドスパークスは、『持ち込んで自陣に戻した』=キャリーバックと認定されて、ダイナボアーズは敵陣深くでマイボールスクラムに。ここはレッドスパークスが凌いで少し陣地を回復した。

その後も続くダイナボアーズの攻撃。しかし密集の中でレッドスパークスはボール奪取に成功した。

キムタカくんは何度も声をあげ、ボールを奪い取った20番の選手をグッと抱きしめた。

ここで、選手交代。21番三股選手が入ってきた。キムタカくんは抱きしめるように彼の頭を抱えながら何かを伝えピッチを出て行った。

その後もレッドスパークス陣内での攻防は続く。

ラインアウト成功率は

レッドスパークス 4/8

ダイナボアーズは 17/18

これだけ見ると、ダイナボアーズが圧倒してもおかしくない試合だが。

これはどっかで守りきれなくなりますね

藤島さんの言葉、現実となるのか。

あと10分!

レッドスパークスが敵陣で攻め上がる。しかし、ここでもマイケル・リトル選手がボールを奪取!

このプレーをキッカケに、ダイナボアーズは反撃に転じた。

関本選手のランをきっかけにボールは右から左へ、そして最後は、、、

ちょっとまて!彼、、、

さっきのプレーで倒れていたのに‼️

倒れていたマイケル・リトル、戦列に戻ってきた。大外にマイケル・リトルが帰ってきた!マイケルリトルー‼️‼️
一旦倒れていたリトルが、蘇ってここにトライ‼️‼️

この実況解説は、競馬でも、プロレスでもなくラグビーの試合だ。しかし、マイケル・リトル選手は、あの《アンダーテイカー》をも凌ぐ衝撃的な登場を果たし、ゴールライン左隅に飛び込んだのだ。

残り5分を切ってダイナボアーズ再逆転。

19ー17

しかしキックは失敗、差は僅か二点。

深く蹴った方がいいなあ

藤島さんの言葉通り深く蹴ったボールはそのまま外へ。ダイレクトタッチ。ダイナボアーズはセンターラインでのスクラムを選んだ。

この向井監督の表情!

TVはレッドスパークスの向井監督を映し出す。

30年前なら机叩いてますね。

と藤島さん。レッドスパークス痛恨のミス。残りはあと3分ほど。

ボールは結局レッドスパークスの手に渡った。しかしもうキックもできない。パスで前進あるのみ。しかし、ここでレッドスパークスがノックオン、

同時に80分のホーンが鳴った。

そして同時にこのこぼれたボールを、またもやマイケル・リトル選手が掴み取ってそのままゴールラインへ飛び込んだ。

最後にコカコーラに引導を渡したのはマイケル・リトル!

24ー17

ゴールは失敗。

ここでノーサイド。ダイナボアーズ勝利。

キムタカくんの《チャレンジ2021》はここに終わった。

試合後円陣を組むレッドスパークス。キムタカくんは表情を変えずに足元の泥を払っていた。

〜あとがき〜

まるでドラマのような衝撃的な結末。全てがマイケル・リトル選手のためにあった、そんな試合でした。

今回、私は初めてJ Sportsでキムタカくんの試合を見る事ができました。

クリアな映像、ベテランの実況アナウンサーと解説者のコメント。

雨中の試合とはいえ、用意された素晴らしい舞台で、彼は最後まで、仲間に声を上げ、指を差し、肩を叩き、背中を抱きしめ、チームを鼓舞し続けました。

その強烈なリーダーシップと冷静な試合運び。

賢く、厳しく、そして優しく。これこそが

【アスリート 木村貴大】の真骨頂。

《彼》を改めて知った、そんな気がします。

先日発表された日本代表候補の名簿に、彼の名前はありませんでした。

2月20日に開幕したトップリーグ。その飛躍的に高まったレベルの高さに、

キムタカくんの目指す道、そのゴールはまだ遥か彼方にあることを、私たちファンは痛感しましています。

しかし、この試合を見て、ファンの多くが思ったでしょう。

【応援しよう、彼がその道を歩き続ける限り】

キムタカさん、本当にお疲れ様でした。少し休んでから、また一緒に歩きはじめましょう。



























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