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頓珍館殺人事件・結【毎週ショートショートnote】

(こちらの投稿の続きになります)


「ポームス。お前は何か見当がついているのか?」
僕が問いかけるとポームスは、にやりとした。

「警察にも聞かれたよ!昨日は大変だったんだ」
大変だと言いながらも、ポームスはこれまでにないというほどのドヤ顔になっていた。僕はエスプレッソのおかわりをした。ポームスは栃木のレモン牛乳だった。この男の嗜好は計り知れない。

「私には動機らしい動機がないんで容疑者こそ免れたが、奥さんとは面識も利害関係もあるし、何より現場に居合わせたんだ。重要参考人として任意で出頭を求められたよ。もちろん進んで出かけていったんだが、担当者には〝またお前か!〟という顔をされてしまった」

警察もこの男の扱いには以前も手を焼いていたに違いない。

「昨日は一日中警察に缶詰さ。殺人事件に発展してしまった以上、奥さんとの守秘義務は警察に対してはなくなる。この3ヶ月の調査結果を提供したよ。動機面を考えればこの調査によって完璧に説明ができるんだ」
ポームスはあたかも容疑者が特定できてるかのような言い方をした。

「調査結果だけではない。私の推理も聞かれたよ。もちろん披露してやったがね。その裏も取れたんだが私の推理はほぼ間違いないというのが確認されたんだ。警察からはお礼をいわれたよ。〝いつもポームスさんにはお世話になってます、今回もありがとうございますっ!〟ってな。人の顔をみるといつも煙たがるくせに手柄だけはちゃっかり取っていくんだ。私から言わせると彼らこそ体の良い泥棒だよ!」

そういいながらもポームスの表情は満更でもなかった。自分が解決したという満足感で充分なのかもしれない。そしてまたまたすべてを警察に譲ってしまったようだ。今回もニュースのどこにもポームスの名前は出てこないはずだ。世間はポームスの名前すら知ることもない。一回も事件を解決したことのない名探偵とはこのことだった。

夜も更けてきた。今夜も良く眠れそうだ。

(およそ850字 頓珍館殺人事件・了)

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「って、おい!話を勝手に終わらせるな!」

僕はポームスに再びキレそうになった。

「何か?」

ポームスは訳がわからないという顔をしていた。

「何をそういきまいているんだ!」

「あのさ。犯人はどうなった?毒はどうやって盛ったんだ?動機は?伏線は回収しないのか?」

「ああこれはリドルストーリーというミステリの形式なんだ!」

「リドルストーリーは知っとるわ!謎解きや結末を書かずに読者に委ねる形式のことだろ!だが今回みたいに犯人も、動機も、殺害方法も謎のままというミステリは聞いたこともないわ!ええ加減にせえよ!おら〜!」

僕はキレていた。ポームスはどこ吹く風だった。

「そうか小林君。そんなに私の見事な推理が聞きたいのか。それならそうと早く言えば良いのに…」

僕は再びポームスを絞め殺したくなった。今度こそ新たな殺人事件の発生だ。あやうく手が出かけたところで…

「しようがないな!では披露してあげよう。心して聞いてくれたまえ」

ポームスの謎解きが始まった。

「まず犯人の想定だ。頓珍漢の主人は実に多くの女性と関係を持っている割には子作りには慎重なんだ。伝説のNBAのスター、マジックジョンソンは1万人の女性と関係してたんだっけ。一晩当たりにすると何人か計算するだけでも面倒くさい」

まさか僕に計算させようとしてるわけじゃないよな?

「マジックジョンソンほどじゃないにしてもそれに迫る勢いの頓珍漢の主人だが実に子供は一人しかいないんだ。その実の子供というのは御主人の幼なじみとの間にできた子供だ。その幼なじみというのは実は頓珍漢に出入りしている女性税理士のことだ」

ポームスは持っていた北海道のコアップガラナをぐびっと口にした。いつの間にかレモン牛乳から替わっていた。

「そして、その関係はもう20年も続いているんだ。奥さんが危惧していた浮気相手、御主人が奥さん以外に本気だったのはまさにこの女性だった」

「チャールズ国王とカミラ王妃みたいなかんじだな。こちらのほうの歳の差は無いみたいだが」

「まあそんなところだな」

「そしてその女性税理士との間の実の子供なのだが二十歳の娘さんなのだ。専門の学校を出て現在はパティシエをやっている。パティシエといえばスィーツなのだが思い当たることはないか?」

「あっ頓珍館お抱えの料理人か!」

「そうだ。繋がったな。そこへきて今度は正妻である奥さんのご懐妊だ!そして頓珍館のご主人にはうなるほどの金がある!」

「相続がらみか!」

「そうだ!女性税理士はいずれパティシエである実子を認知してもらい、正妻である奥さんをなんらかの形で排除するつもりだったのでは無いかと思う。そうすれば実子に第一の相続権が設定されることになる」

「ところが正妻に子供が出来たとあっては、実子の認知も危うくなるばかりか、正妻もその子もいずれ排除せねばならない。とてつもなくリスクが跳ね上がるんだ」

「だから今のうちに対処しておこうと…しかも一気に…」

「そうだ。ここで犯人と動機が想定できた。次は物証だ」

ポームスは鳥取の白バラコーヒーの紙パックを手にしていた。

「毒物は何だったかな小林君?」

「青酸カリ!」

「そうだ。実はその入手はそんなに困難ではないんだ。めっき工場なんかのめっき槽なんかに普通に析出したりしている。仮にだが担当税理士なんかが工場を訪問した際にちょこっと削り取ってくることなんか訳ないだろうな」

「それはわかった。だがダイニングルームでは何も出なかったんだぞ?」

「ちょっとそれは置いておく。ちなみに青酸カリの致死量は経口だと0.2gだ。ところで青酸カリは酸に反応して青酸ガスを発生させるんだが、そのガスの毒性は青酸カリの3倍もある。そしてその毒性の強いガスは肺や皮膚から吸収される。さてダイニングルームの酸といえば?」

「なんだろう?酢か?」

「そうだ!酢を使って青酸ガスを発生させれば良い。さてここからどうするか。ここからは思考実験みたいになってしまうのだがあのダイニングルームに有るものを使ってガスを発生させる…どうすれば良いのか?」

ポームスはここで福井のさわやかを一気にあおった。

「私はやはりナプキンが一番だと思ったのだ。ナプキンにあらかじめ青酸カリの溶液を湿潤させ乾かしておく。肌が荒れない程度にだ。口を拭いた程度では皮膚から吸収されない。だが、味変で酢を掛けた餡を口元から拭き取ろうとするとどうなるのか。たちまち青酸ガスが発生して鼻や口から肺に到達する」

「でもナプキンからはなにも出なかったんだぞ!」

「そう青酸カリも検出しない代わりに、他のものも検出されてないんだ!例えばこれだ!」

ポームスは僕の鼻に人差し指を近づけてきた。

「うわっ!くっさ~。強烈~。何だ?ハッカと漢方か?慣れるといいかも」

「塗り薬のタイガーバームだ。ちょっと人差し指を突き指してしまって」

「事件の日もつけていたのか?」

「もちろん。先週のバスケで負傷したのだからな」

ポームスがバスケ?初耳だった。この男がチームプレーなんて想像もできない。それともワン・オン・ワンなのか?時間のあるときに追求しよう。

「ナプキンからはこの成分は検出されなかったのか?」

「そうだ。青酸カリもだ。検出されたのは天津飯の餡と、奥さんのファンデーション、リップクリーム。微量だが唾液、汗などだ」

「つまり」

「私が投げ捨てた後に、騒ぎのどさくさにまぎれて別の日に使われたナプキンとすり替えられたのだ」

ポームスは宮崎のヨーグルッペにストローを差してちゅーちゅー飲んだ。

「では事件当日に使われたナプキンはどこにあるのか?昨日、頓珍館で大捜索が行われたんだ。結果、生ゴミの袋の中からでてきたよ。そこには青酸カリの他、タイガーバーム、そして当日デザートに使われていたシロップも微量だが検出されたんだ。動かぬ証拠だった」

「そうだったのか」

「今頃二人は身柄を拘束されているはずだ。おそらく娘さんが実行犯で、計画を練ったのは母親の税理士だろうな。明日の朝刊の一面を飾るはずだ」

「そうか…なんか真相を知るというのも後味が悪いもんだな」

「そうだろ。だからリドルストーリーに留めておけば良かったのだ」

僕はかねてからポームスは人格破綻者だと思っていたが、逆に意外と人格者なのかもと言う気がしてきた。

「ところで小林君!夜も更けてきてもう終電もないだろう。今日は二人で飲み明かすとするか!」

ようやく手渡された飲み物でポームスと乾杯をした。

僕は宮崎の愛のスコールで、ポームスは北海道のナポリンだった。

やはりこの男どこかおかしい!

僕が飲みたいのは博多のすいかサイダーだった。

(3500字弱 頓珍館殺人事件・了)


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字数が9000字近くになってしまいましたが、ここはご愛敬で!

素人がはじめてミステリ風なものを書いてみました。穴だらけだと思います。穴があったら入る前に、矛盾点、整合性を欠く記述などなどありましたらコメント欄にてご指摘いただけますと大変ありがたいです。今後の糧にしたいと思います。

ご意見頂いた方には気持ちだけですがご当地ドリンクを差上げたいと思います。ほんとうに気持ちだけですが…

















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